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イイ性格の同居人

魚料理がおいしくなるお年頃


 「いい匂いですね」


 「今日は煮つけだな。魚は食べれるか?」


 アマノリリスの宗教上や身体的に食べられない物があったとしたら面倒だ。同居人に客が来ることは伝えていたがその点については確認していなかった。


 「大丈夫ですよ。食べられない物はないです」


 「なら安心だ」


 食事の献立には特に注意しなくてよさそうだ。


 「暁さん、先ほどの声は?」


 「同居人だ。家の家事を一通りやってくれている。家事は俺もやるが基本はあの人の手伝いだな。とりあえず上がってくれ。紹介する」


 「はい、お邪魔します」


 靴のまま上がろうとしたアマノリリスを注意した後、俺はアマノリリスを居間へと通した。畳張りの居間の中央に大きなテーブル、和風に言うと座卓が置かれている。向かい合わせで10人は座れる大家族用だ。


 「適当に座って待っていてくれ」


 アマノリリスを居間に残して台所へ入ると同居人である長身で細身の男性、ウェスティン・カカクゥが着物にエプロン姿で魚の煮つけを皿に盛っているところだった。


 「おや、乾斗君。居間で待っていてくれて良かったんですよ」


 カカクゥさんは煮つけの湯気で眼鏡を若干白くさせながら俺に顔を向けた。オールバックの髪型で開かれた額には若干の汗がにじんでいた。

 カカクゥさんは俺の母さんと同じ世界、つまり異世界出身の人だ。父さんが連れていかれた異世界で一緒に戦った仲間らしい。父さん達より一回りくらい若く、父さん達と一緒に戦った頃のカカクゥさんはまだ子供だったが、とても頼りにされていたと聞いている。

 父さんがこちらの世界へ戻った後、しばらくして後を追うようにこちらの世界へやってきた。なんでも元の世界に居にくくなったので父さん達を訪ねてきたそうだ。

 当初カカクゥさんは行き先が決まったら出ていくと言ってウチに住んでいたが何時まで経っても出ていかず、今では家政婦として居ついている。


 「カカクゥさんにはアマノリリスさん、例の女神を紹介する前に一言伝えておきたくて」


 「おや、何ですか?」


 「いじめないでください」


 「……はははっ!」


 カカクゥさんが高らかに笑い声を上げた。


 「いやはや噂の女神様はどんな方かと胸を躍らせていましたが……そうですかそうですか、いじめがいのある方ですか」


 「彼女は客人としてウチに宿泊します。粗相がないように」


 「分かっていますよ。乾斗君の不利になるようなことはしません。君を溺愛しているお母さんが怖いですからね」


 「あと母さんにも内緒に。仕事とはいえ相談無しに女性を泊めたなんて知られたらどれほど怒られるか」


 「そうですねぇ。知られたら正座10時間コースは行くでしょうね。結婚前の男女がどうたらこうたら。まったく本人達は10代の頃からイチャイチャしていたというのに。乾斗君は理不尽だと怒ってもいいんですよ」


 「怒ってどうなるんですか?」


 「それで親子喧嘩でも起これば見ている私が楽しくなります」


 カカクゥさんはいつもながら嫌な性格をしている。暇さえあれば人の嫌がることを実行して、それを傍から見ていて楽しんでいる人なのだ。なので今回のアマノリリスに対する進言も意味をなさないだろうが言わないでいるよりはマシだろう。俺としてはやるだけのことはしたと言い訳になる。


 「彼女がここに居るは一か月程度です。その期間くらいは我慢してください」


 「乾斗君は私に息をするなと?」


 「別にそんなことは言ってません」


 この様子ではやはりカカクゥさんを注意しても意味はない。だが、アマノリリスもかなりの覚悟でこの世界へ助けを求めに来ているのだから多少のいじめを受けても自分の世界のためと耐えられるだろう。


 「しかし、女神様ですからね。下手なことをして後で仕返しも怖いですから考慮しましょう」


 「……本当?」


 「本当ですよ」


 とてもいい笑顔で返事をしてくれるカカクゥさん。これは信じてはいけない笑顔だと長い付き合いなので知っている。


 「では、納得していただけたところでせっかくの料理が冷めてしまいますから運んでしまいましょう。煮付けは温かいうちに食べてほしいですからね」


 納得できないまま魚の煮つけを載せたお盆ごと押し付けられた。後は本当のアマノリリスのいじめ耐性にかけるしかないと諦めて居間に戻ることにした。


 「サリーさんと暁さんってまだ3か月くらいの付き合いなんですね」


 『はい。ですのでこれからも親密度を高めていく所存です。そのためのサリーポイントです』


 居間に入るとサリーとアマノリリスが会話しているようだった。しかし、サリーとの通信用インカムは俺が耳にしたままだ。アマノリリスはどうやってサリーと会話をしているんだっと卓上を見てみると俺が耳にしているのと同型のインカムが置かれていた。


 「そのインカムはどうしたんだ?」


 居間に予備は置いていなかったはずだ。


 『アマノリリス様に支給された物となります。アマノリリス様の滞在の間、多方面においてサポートをするように命令されております』


 「二人分のサポートをして大丈夫なのか?」


 『通常であれば問題ありません。ただ緊急時においては乾斗様へのサポートを優先させていただきます。その旨は既にアマノリリス様へ通達済みです』


 「俺を優先してくれるのはありがたいが、アマノリリスさんはそれでいいのか?」


 「はい、大丈夫です。元々サリーさんは暁さんのサポートがメインなんですから当然ですよ。普段手助けしてくれるだけで充分です」


 「なかなか謙虚な方ではありませんか!」


 俺が居間の入り口で立ち止まっていると後ろからカカクゥさんが感動した様子で現れた。


 「ささ、乾斗君。中へ入ってください。夕飯が置けませんよ」


 カカクゥさんに急かされて俺は卓上に煮付けを置いていく。カカクゥさんも運んできたご飯とみそ汁を置くと自分の指定席へと腰を下ろした。


 「食事の前に僭越ながら自己紹介をさせていただいてもよろしいでしょうか。女神様」


 「私の事はアマノリリスと呼んでください。この世界では女神ではないので」


 「では改めてアマノリリスさん。私はウェスティン・カカクゥ。カカクゥとお呼びください。乾斗君の父上、母上共通の知人です。今は行く宛てもないため、この家で居候をさせていただいている身分の者です。私も元々はこの世界の住人ではありませんので少し境遇が似ているかも……いやいや、これは不相応な言葉でした。ハッハッハッ……」


 「よ、よろしくお願いします。えっと私は」


 「いえいえ、アマノリリスさんの自己紹介は結構。あなたがこちらに来られると連絡を受けていましたので大体のことはWDWC経由で既に情報を得ています。何度も説明をするのは大変でしょう。それに今は夕食です。ご飯は温かいうちに……どうぞ」


 「は、はい……では、いただきます」


 カカクゥさんに勧められてアマノリリスは器用に箸を使いながら煮魚を一口食べた。


 「美味しい……」


 「お口にあったようで何よりです。箸は使い慣れているようですが、元の世界でも箸を使われていたのですか」


 「はい、食文化についてはあまり違いはないみたいです。実は変な食べ物とかがなくて安心しています」


 「アマノリリスさん、そんなことを言っていると今度珍味を食べさせられるぞ」


 「珍味ですか?」


 「珍しい食材のことですよ。なかなか手に入らない食材ですか。そうですね、こちらに来ている記念に一度くらいは味わっておいてもよいでしょう。用意しておきます」


 助けようと声をかけたが藪蛇になってしまった。これは俺も珍味を食べさせられることになるので今から気が重い。

 その後も軽い雑談、主にカカクゥさんの話に相槌を打ちながら夕食を食べ終えた。


 「ご馳走様でした」


 「お粗末様でした。では、私は食器を片付けるので乾斗君はアマノリリスさんを客室へ案内されてはどうですか?」


 「そうします。いつまでも居間にいてもやることがない」


 「あの片づけなら私もお手伝いを」


 「アマノリリスさんはお客様ですから手伝いは大丈夫ですよ。これは居候でもあるワタクシの仕事ですから」


 カカクゥさんはテキパキと卓上から食器を回収すると台所へと行ってしまった。


 「片づけはカカクゥさんに任せておけ。ルーティンとか気にする人で作業に横やりが入るのを嫌がるんだ」


 「……分かりました」


 なぜかアマノリリスが若干落ち込んでいた。


 「どうした? そんなに手伝いたかったのか?」


 「はい、お世話になるのでせめてそれくらいはと思ったのですけど」


 「神様にしては殊勝すぎないか? もう少しは尊大でもいいと思うぞ」


 あまり謙虚すぎた態度をされると俺も対応に困る。


 「尊大なんて無理ですよ。こんなにお世話になってるんですから」


 「……まあ無理強いはしない」


 性格なのだろう。同じ女神であるはずの婆さんとは違いすぎるので俺の中での違和感はまだ拭えないがこれから払拭されていくはずだ。


家政婦カカクゥさんです。

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