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ヨメ?

ヨメ! 参上!


 小野路(おのみち)食堂は古き良き大衆食堂といった感じの店構えをしている。

 1階部分が店舗、二階の部分が住居と分かれているこの町で72年続いている老舗だ。メニューは和食と中華中心だが、頼めばメニューに無い洋食も出てくる。店主の小野路丞次(おのみちじょうじ)さんの人柄と料理の腕もあっていつも繁盛している人気店だ。


 俺とアマノリリスが車から降りるとちょうど店からスーツ姿の客が出てくるところだった。


 「ここが小野路食堂……」


 上の空なアマノリリスが食堂の看板を見てつぶやく。嫁がいるという言葉を聞いてからこんな感じだ。それほど俺に嫁がいることが不思議なのだろうか。


 『乾斗様、車はどうしましょう。再び使用いたしますか?』


 「いや、ここからならもう歩いていける。元の場所に戻しておいてくれ」


 『Will do』


 車が走り去っていくのを見届けると俺は食堂へと足を向ける。いつもは大事な人に会えるという嬉しさから軽快になる足が今日に限っては重い。家に嫁とは別の女性を泊めるという報告をした際、彼女がどんな反応をするのか不安でしょうがないのだ。俺は普段ならスッと開ける食堂の引き戸をゆっくりと開けて店へと入った。


 店の中はまだ夕食には少し早いというのに半数以上の席が埋まっていた。客は一人客から友人同士や家族で様々だった。繁盛している店の中を忙しそうに注文された料理を持って動き回っている姿があった。


 「いらっしゃいませー。あっ、乾斗(けんと)君だ」


 店に入ってきた俺を見て割烹着姿の彼女は嬉しそうに笑ってくれた。それだけで今日一日の疲れが取れるようだった。


 「あれ? 誰かと一緒?」


 大きくクリクリとした目をキョトンさせながら呟いた彼女の疑問に思わず後ろを振り向くとそこには何かを探して店内を見渡すアマノリリスがいた。

 いけない、一瞬彼女の存在を忘れていた。


 「あの暁さんのお嫁さんはどこに? 奥の方ですか?」


 「何を言っている。すぐそこにいるだろう」


 「え? どこですか?」


 「だから彼女だ」


 俺の嫁、小野路千華(おのみちちか)ちゃんをアマノリリスに紹介する。


 「……え?」


 少し思考停止した後、アマノリリスが疑問の声を漏らした。


 「すいません、暁さん。お嫁さん……なんですよね」


 「そうだ」


 俺の言葉に千華ちゃんが若干恥ずかしそうに顔をそらした。とても可愛らしい。


 「だってまだ子供じゃ」


 「世間的にはそうだな。千華ちゃんは今年で10歳だ」


 千華ちゃんは小学校4年生の女の子だ。肩口まで伸びている黒髪を仕事の邪魔になるからとお団子にして纏めているから小顔が際立っていつもより幼く見えるかもしれないが立派な10歳だ。身長だってこの年齢の女子としては平均値だろう。俺は別に身長は気にしない。元気に育ってくれればそれだけで満足だ。



 「……」



 アマノリリスは千華ちゃんをじっと見たまま固まっている。可愛い千華ちゃんをずっと見ていたい気持ちは共感するが、千華ちゃんは仕事中だ。あまり占有しては店の迷惑になってしまう。ここはアマノリリスを無視して話を進めてしまおう。


 「千華ちゃん、実は報告があってね」


 「うん、なに?」


 「あー、ちょっと言いにくいことではあるんだけど。まず最初に仕事なんだ。上から言われて仕方なくね」


 「お役所務めは大変だってよく聞くよ」


 「千華ちゃん、そんな言葉をどこで」


 「テレビドラマ!」


 千華ちゃん、普段どんなドラマを見ているんだい?


 「ともかく実はこの人、アマノリリスさんというのだけれど異世界の女神なんだ」


 「女神様? シスターさんじゃないの? 始めましてこんにちわ!」


 「こ、こんにちわ」


 修道服姿のアマノリリスが戸惑いながら挨拶を返す。


 「この女神様がね。しばらくこちらの世界に居ることになったんだけど、泊まれる所がないんだ。だから、その……ウチにしばらく泊まることになった」


 「……」


 俺の言葉を聞いた千華ちゃんが考え込むように少し静かになる。俺は浮気などを疑われないかと不安で心臓が激しく脈を打っている。


 「乾斗君のお家広いし、お部屋も沢山あるもんね。いいな~、私もまたお泊りに行きたい」


 「千華ちゃんが来たければいつでも泊まりにおいで」


 俺は胸をほっと撫でおろす。変な疑いをかけられずに済んだようだ。


 「用はそれだけなんだ。お仕事の邪魔をしてごめんね。それじゃまた」


 「うん、今度は女神様とご飯食べに来てね!」


 千華ちゃんの笑顔を背に俺は逃げるように小野路食堂を後にした。


 「ふう、ここ最近で一番緊張した」


 後ろめたいことなど何もないのだが、やはり嫁とは違う別の女性を家に泊めるという事実は罪悪感を感じてしまう。


 「あの……暁さん?」


 「どうした。アマノリリスさん」


 食堂では上の空のようであまり口を開かなかったがどうしたんだろうか。まあ、そのおかげで用件だけを言って素早く出てこれたのだから良かった。


 「本当にさっきの女の子がお嫁さん……なんですか?」


 「疑っているのか。事実だ」


 「この世界では子供と結婚できるんですか?」


 「結婚できるのは18歳になってからだ。だから正確に事実を付け加えると俺と千華ちゃんは婚約関係となる。だが、いずれ結婚するんだ。今から嫁と呼んでもおかしくはない」


 「あー……ちょっと暁さんに対する認識変わっちゃいましたけど仕方ないですよね?」


 どう変わったのか少し気になる。いい方にではないことはアマノリリスの目を見て察する。


 「たまにアマノリリスさんのように俺と千華ちゃんの関係を怪しく思う奴がいるが、相思相愛なら問題ないだろ」


 「そうかもしれませんけど……」


 「俺の事は別にどう思ってもいいが、千華ちゃんのことは変に思わないでほしい。あの子は本当にいい子なんだ。優しくて頑張り屋で賢くて勇気もあって可愛い。目に入れても痛くない最高の子なんだ」


 「どちらかといえば親目線の感想な気が……」


 「ん? 何か?」


 千華ちゃんの姿を思い返していたらアマノリリスの言葉を聞き逃してしまった。サリーに聞けば教えてもらえるだろうがそこまでするほどの事は言ってないだろう。


 「千華ちゃんへの報告は済んだし、今度こそ家に向かうぞ」


 「はい、よろしくお願いします」


 俺は幾分か軽くなった足を自宅へと向けた。


ヨメ(予定)となります。

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