放任主義の神様
この世界、各異世界の神様の子孫とか王族の子孫が割といます。
「暁さん、女神の子孫だったんですか!?」
「そうだ。ただし、女神というか神様としての力は受け継いでないぞ。婆さんがこの世界に来る時に力のほとんどを後輩の女神に譲ってきたらしいからな。婆さんも今じゃただの長生き婆さんだ」
他の女神や神の子孫は力を受け継いでいることが多く、俺の家族のような事例は稀だ。もし婆さんが力を譲らずに俺に受け継がれていたらもっと強くなれただろうかと考えることはあるが、自身の力のなさを婆さんのせいにしてはいけないといつも反省することになる。
「アマノリリスさんの世話を任されたのもそれが要因だろうな。女神と関係があって手頃な人材として有効活用されたわけだ」
「あの暁さんのお婆様と会うことってできるでしょうか」
「婆さんと?」
「はい、若輩者として先達のご意見を伺いたいのです。今後どうしていけばいいか」
「若輩者っていうが、アマノリリスさんは何歳なんだ? いや、女神だから年齢とか数えてないとは思うからだいたいでいいけど」
「年齢……。そうですね、数えてはいませんが私の誕生と同じくして私の世界であるヴァラリアが生まれました。世界の誕生を計算していた学者が話していたのを思い出すと最低でも一千万年は経過していると言っていた気がします」
「一千万年生きていて若輩者なのかよ」
「実は今の私になってからはまだ十数年ほどしか経ってないんです」
「今の?」
「他の神と呼ばれている方達は分かりませんが、私の最初の人格は長い長い時を生きるのに心が耐えられなかったのです。そこで本当に心が壊れてしまう前に必要最低限の知識と記憶だけを残して新しく人格を誕生させることにしました。なので今の私の人生経験は暁さんとそんなに変わりませんよ」
「女神しては言動が達観してないというか人間臭いのはそのせいか」
婆さんに比べて女神らしくないとずっと感じていた違和感の正体が分かった。
「それでお婆様と会えるでしょうか?」
「どうだろうな。老人会が忙しいとか前に言っていたから……。連絡はしてみるが期待はしないでくれ」
「はい、出来れば結構ですから」
「他に聞きたいことは?」
「えっと、この世界の事をもっと聞きたいです。世界状況や歴史、そしてこの世界の神様についても」
「この世界の神様か」
基本どの異世界にもその世界を作った神と呼ばれる存在がいる。唯一神だったり、複数の神がいる場合と様々だが必ず神は存在している。神々達は他の世界とも繋がりを持ち、情報交換などを行っているようだ。
アマノリリスが持っていた異世界転生転移に関する本もその一環だろう。迷惑なことだが。
そしてこの俺達の世界にも神と呼ばれる存在はいる……らしい。
らしいというのは存在していることは異世界から訪れた多くの神達がこの世界の神の存在を感じてはいるが、誰もその声も姿も見たことがないからだ。
日本を始め世界各地に神話として語られている神々の存在は実は異世界の神々のことでこの世界の神のことではないらしいとどこかの学者が何十年か前に論文を発表して物議を醸したこともあった。
『私が答えますか、乾斗様』
「あー、頼む」
うまく説明できる自信がなかったのでサリーに頼むことした。サリーは世界の歴史とこの世界のおける神のことを簡潔にしかも分かりやすく説明を始めた。この辺はさすがAIなのだろう。
「この世界の神様を誰も知らない……ですか」
「ああ、アマノリリスさんは感じたりしないのか?」
「ちょっと待ってくださいね」
アマノリリスが瞑想するように目を閉じる。集中しているのだろう。
「確かにいる……ような感じはしますね。でも、存在が希薄というか別のところにあるというか。私の声は届かない場所にいるみたいな」
「いるなら世界中で発生している異世界への転生、転移をなんとかしてほしいんだがな」
「放任主義の神様なのでしょうか?」
 
『WDWCでも放任されている、任されているという認識で活動を行っています。ただ……』
サリーが珍しく言い淀んだ。
「どうした? 神について何かあるのか?」
『確定した情報でなく噂話であるためお仕えすべきか検証中です』
「噂話か……話の流れだ。聞かせてくれ」
『Will do。神は基本的に我々に対して言葉をかけることも行動を起こすこともありません。しかし、この世界の住人ではどうすることもできない脅威が迫った場合は脅威を退けるために動くとされています』
「どうすることもできないってSランクでもか?」
Sランク職員と会ったことはないが、その実力は神々にさえ匹敵すると教えられている。そのSランク職員がどうすることもできない敵なんて想像もできない。
『そのようです。非公式ではありますが、5年前の11月にSランク職員1人とAランク職員5人によるチームが異世界からの脅威と戦闘を行っている最中に神が現れたといわれています』
「そんな話は聞いたことないぞ。現れたならもっと騒ぎになっているだろう」
『現れたらしいというのが正式な表現となります。Sランク職員を始めその場にいた他の職員も神の姿を見ておりません』
「じゃあ、何で現れたって言われてる?」
『殲滅対象であった敵が消え去る寸前にこの世界の神へ向けたと思える言葉を残したそうです。Sランク職員は自分が倒したのではないと証言しており、何者かが倒したのは確かなのでそれは神だったのではと噂が経ちました』
「そんなことがあったか……機関の資料にその戦闘ログはあるのか?」
『乾斗様にも入手できる資料となっております。必要であれば端末にお送りします』
「頼む。今度読ませてもらおう」
噂の神よりもSランク職員でも倒せなかった敵とはどんな存在なのかという方に興味がある。
『乾斗様、アマノリリス様、間もなく目的地となります』
サリーの声に窓の外を見ると確かに地元の風景が映っていた。俺の家まで5分もすれば着くだろう。
「あっ! サリー、家に行く前に小野路<おのみち>食堂へ寄ってくれ」
このまま家に直行する予定だったが、一つ大事なことを思い出した。いろいろあったせいで忘れていたが、仮にも女性を家に泊まるのならちゃんと報告はしなくてはいけない。
『Will do。では進路を変更いたします』
「あの、食堂ってご飯を食べるんですか?」
アマノリリスが質問してきた。彼女にしてみれば急に行き先が変わったのだから自然な質問だろう。
「いや、夕飯にはまだ早いし、家で作ってる人がいるからな」
「ではなんで食堂に?」
「嫁が働いている」
「えっ……ええぇーー!!」
度重なる絶叫に耳栓の購入を考える。
うん、嫁いるんだ。
 




