第八話 グッズは危険ってどういうこと?
前回のあらすじ:無許可の二次創作物は原作者の権利を侵害してるのに著作権があるのか。著作権の成立にその作品が権利侵害をしているかどうかは関係ない。もし二次創作同人誌が無断転載されていたとしたら作者は差し止めや損害賠償を求めることができる。
「グッズはダメって言われたりするじゃん?
でも実際はみんな作ってるじゃん。
同人誌と何か違いあるの?」
「別にそんなことはない。同人誌だろうがグッズだろうが許可を得ていない以上著作権侵害だ。
しかし、違う部分もある」
「それは?」
「それは、
グッズは公式と同人の区別がつきにくい。
この一点だな、ちょっと待ってろ」
「ここに同じ作品同じキャラのアクリルキーホルダーが5つある、イラストレーターは全て別だ。
このうち公式は4つ。シオンはどれが同人グッズか見破れるか?」
「あたしこの作品詳しくないし分かるわけ無くない?」
「分かるわけ無いのが大問題なんだよ。
公式グッズと見間違える、ということはすなわち『公式と競合する』ということだ。
言い換えると購入者に同人と公式の区別がつかないから、公式に入るはずだった利益が減少する。
これはグッズを販売してるところにとっては死活問題だ」
「あ、非公式なのに商売敵になっちゃう訳か」
「通常同人誌が原作と競合することはない。もし限りなく原作に近い装丁をしたとしたら問題になるかもしれないが。ドラえもん最終話事件はそこも要素のひとつだったはずだ」
「じゃあ公式と似てないグッズならいいの?」
「グッズだから全部ダメとなるわけじゃないのはコミケとか見てればわかるだろ。
だが、消費者が混同する可能性はそのまま権利者から警告を受けるリスクになる。そしてその確率は同人誌よりグッズの方が高い、というのがグッズが危険と言われるゆえんだよ」
「そういえば営利目的じゃないから同人はセーフってのも聞いたことあるけど」
「二次創作が営利目的かどうかは著作権侵害に全く関係ないな。
コンサートなんかは営利目的じゃなければ許可無しで開けるからそれと間違えたんじゃないか? その場合でも観客から金を取らず出演者に報酬を払わないという条件が付く、例えば文化祭で学生バンドが演奏するとかならOKだ」
「学生だからセーフとかじゃなくてちゃんと許可無しで出来る決まりがあるんだ」
「だが複製や翻案に非営利なら大丈夫などという規定はない。
つまり営利目的か否か、あるいは実際に利益が出ているかどうかに関係なくアウトだ。
販売ではなく頒布だからいい、とか
印刷代の実費を負担してもらっているだけ、とか
電子書籍は実物がないからだめ、とか
ただの詭弁だな、そこに建前以上の意味は無いよ」
「まぁ実際に利益出てるかとかは本人じゃないと分かんないもんね」
「とはいうものの、営利目的が良くないと言われているのにも一応理由はある。
損害の算定基準と過去の差し止めの理由だ。
著作権法がいう著作権者の損害は侵害した者の得た利益も含む。だがこれはあくまでも損害賠償の金額の話であって侵害かそうでないかの基準にはならない。
また、差し止めの理由として部数の多いことが問題とされた例もある、がそれも複数の理由のうちの一つであって発行部数が多いことだけで差し止めを求められたわけじゃない。
もっとも、発行部数の多さはそのまま影響力の大きさになるから、もし権利者が好ましくないと判断した場合に声をかけられやすくなる、といったことはあるかもしれないがね」
今回のポイント:権利者が差し止め請求をする理由の一つは自分の商品と競合するから。グッズは購入者が公式と同人を混同しやすいため差し止めのリスクが本に比べると高いとされている。