第五話 二次創作小説はセーフって本当ですか?
前回のあらすじ:著作権には大きく分けて2種類がある。渡せる権利と渡せない権利、二次創作で問題になるのは主に渡せない同一性保持権と渡せる複製権・翻案権なのだが文化の発展の為に権利が制限されたりもする。
夏の日差しが海に反射してキラキラと光る。
目に痛いほどの照り返しと涼やかな潮風を浴びればさぞ心地良いことだろう。
私は冷房の効いたこの店から出る気などさらさら無いが。
散歩がてら立ち寄った近所のじいさん、もといお客様を見送った私がカウンターでコーヒーを飲みつつ読書をしているとドタドタと今朝の太陽みたいにうるさいやつが店まで降りてきた。
「おはよーウミさん。本読んでるの?」
「あぁシオンか、おはよ。原作は映画だが最近文庫版が出たんだよ」
「あ、ってことは翻案だ」
いい具合にこいつも毒されてきてるな。教えたことを覚えているのはいいことだ。
「正解だ、よく分かってるじゃないか」
「ふふん! そういえば二次創作のSSみたいなのって著作権侵害にならないってどっかで聞いたことあるんだけど本当?」
「ん、小説か。まぁそうだな、もちろんケースによるが基本的に著作権侵害にならないとされている」
「絵はダメなのに?」
「絵はそれ自体が著作物だからだ、でも文章から読者が思い描くキャラクターには実体がない。
著作物の話でアイデアは著作権の対象にならないと言っただろう。
それと同じでキャラクターは著作物にならないからそこから新しい話を作っても著作権侵害にはならない」
「え、それは何かおかしくない? キャラクターはやっぱり著作物だと思うけど」
「キャラクターとは登場人物の姿態、容貌、性格、特徴などをいうんだ。
つまり書かれた文章じゃなくてそれらから作られたイメージのこと。
ほとんど同じ文章を書いたならともかくストーリーに創作性があるのならそれはもう新たな著作物だ」
「えーあんまり納得できないけど」
「当然だが、仮に著作権法上セーフだとしても問題が無いわけではない。
出版社の規約にダメと書いてあれば規約違反を理由に差し止め請求をされることもあり得るし著作権法だけ守ればいいという単純な話じゃあない。
実際は絵の場合と同じく見ないふりされてる傾向にあるがね。
結局争いにならないように双方が配慮する必要があるのは何でも変わらないんだよ」
「でも二次創作小説投稿サイトが権利関係が原因でなくなったような」
「にじファンのことか? まぁサイト側のグレー領域を残したくないという気持ちはよく分かるとも。
けれど出版社だって著作権法上問題にならないからといって作品で好き勝手創作するのを全て認めるなんてできないからね、許可を得ようとしたって上手くいかないのは当然さ」
「その二次創作が良いか悪いかは権利者が後から決められるようにしたいって事?」
「そういうことだ。一度許可すると撤回が難しいからね。その代わり、たとえ侵害してもいきなり訴えられるなんて事はまずない。非常に日本的で曖昧なシステムだとは思わないか?」
「はいはい困らない範囲なら目こぼしするから空気読めってことね」
「結論はそういうこと、じゃあ私は読書の続きに戻るからまた何かあったら言ってくれ」
今回のポイント:キャラクターはアイデアと同じく著作物ではないため、小説で表現する場合には原作の著作権を侵害しない。しかし著作権法以外の法律や権利者のガイドライン、投稿サイトの規約にも注意を払う必要がある。