第四話 著作権って何する権利?
前回のあらすじ:著作権は著作物に対する権利だという。じゃあ著作物って何? 小説のタイトルや絵柄には著作権が無い? とりあえず学問や芸術の範囲でオリジナリティのある作品を作れば著作物となるようだ。
「ふぅ~ごちそうさま! やっぱりウミさんのオムライスはおいしいね」
「そりゃどうも、それじゃあ今度は著作権の中身についてだ」
「いや著作権は著作権って権利でしょ」
「その中に種類があるんだよ。まずは、版権という言葉を聞いたことあるか?」
「あ~聞いたことはあるよ、版権モノとか当日版権とか」
「なんとなく“権利”みたいな使い方をされてる版権だがこれを略さず言うと?」
「え、権は権利だよね版は……出版社?」
「良い線いってるな、版権を略さず言うと出版特権だ」
「出版かぁ、でも著作権って出版だけじゃないよね? 音楽とかもあるし」
「著作権の考え方が出来たときには出版がメインだったんだよ。だから著作権のことを英語でコピーライト(複製の権利)って言うんだ。
昔は本が貴重品だったって話は聞いたことあるか? 印刷技術が発達していない頃は全部手書きで写していたから本は高価だった。例えば図書館には盗難防止として本に鎖がついていたほどだ。
これが15世紀のグーテンベルクによる活版印刷の発明で一変する。誰もが安価で書物を複製できるようになった結果、無許可の複写物があふれて著者に利益が入らなくなったんだ」
「だから勝手に写されないように著作権ができたってことね」
「あぁ、そして今の著作権だが、大きく分けて著作者人格権と著作財産権の2種類がある。
著作者人格権というのは著作者以外誰も使えない権利だが著作財産権はあげたり売ったりできる権利だ」
「権利って売れるんだ……」
「まぁ作者が権利を持ちっぱなしだと商品を作った後に“やっぱりだめ”とか言われる可能性があるからな。そういうことは出版社やメーカーも避けたい。だから権利は他の人にあげられるようになっている、もちろん権利は渡さずに許可だけ出すこともできるけどな」
「ま、もちろん例外はある。まずはその売れない権利こと著作者人格権から説明していこうか」
「これは3つあって、
それぞれ公表権、氏名表示権、同一性保持権という。
一つ目、公表権は自分の著作物を勝手に公開されない権利。
二つ目、氏名表示権は著作物を見せるときに名前を表示するか決める権利。
三つ目、同一性保持権は著作物の内容を意に反して勝手に変えられない権利ってな具合だ」
「名前って本名出すか出さないかみたいなこと?」
「いや、ペンネームも対象だぞ。氏名表示権は名前を出すか出さないか、実名かペンネームかも含めて決められる権利だ」
「財産的な著作権は数が多いから一部だけな。
まず複製権、一番古い権利で複製、つまりコピーする権利だ。コピーとは言うが全く同じでなくても構わない。模写でも写真撮影でも元の著作物を再現したと認識できればそれは複製になる。
次に上演権・演奏権、これは誰かの作った曲をみんなの前で演奏できる権利だ。
そして公衆送信権、聞きなじみのない言葉だろうが、イラストをネット上にあげられる権利といえば分かりやすいか。
譲渡権、これは不特定の人に渡す場合だから個人間のやり取りは含まない。譲渡とは言うがお金を取るかは無関係で売った場合でも譲渡になる。
最後が翻案権だ。翻訳、編曲、脚色なんかがそうなんだが、ぶっちゃけ誰かの著作物を利用して新しいものを作る行為全般に対する権利だ。無許可の二次創作は概ねこの権利を侵害しているといって差し支えないだろう。こうして作られた著作物を二次的著作物という」
「ねぇねぇ、もしかして模写しても下手だったら複製にならなかったりする?」
「そうだなぁ第三者が見て同じものを描いたと思わなければ複製にはならんだろう。キャラの判別ができなければ翻案にもならんから著作権的には完全に問題の無い作品になるな」
「うわぁ、ちなみにそれって誰が判断するの?」
「裁判所だろうな」
「模写が似てないから無罪ですって言われても素直に喜べない……」
「模写をネットに上げたくらいで裁判沙汰とかまずありえないから安心していいと思うぞ」
「あれ? 翻案権ってさ、二次創作だからつまり原作にストーリーを付け加えたりアレンジしたりするわけじゃん」
「そうだな」
「翻案権って売ったら作者は改編やめてって言えなくなるんだよね?」
「翻案する権利を売り渡してるんだから文句は言えないな」
「でも同一性保持権は?」
「当然残ってるし誰にも渡せない、ついでに言えば放棄もできないと考えられている」
「え? それって意味あるの? 結局、作者は変えちゃだめって言えるの?」
「それな、一応実際に作者と出版社が契約するときなんかは『権利不行使条項』みたいなのを付けて同一性保持権を主張しない約束にしてることが多い。だが、著作権法を厳密に使うならそんな契約は意味がない。でもそれだと出版社は困るだろう?
例えば作者から翻案権を買い取ってラノベのコミカライズ10万部刷ったのに後出しで作者から差し止め要求されたりしたら大赤字だ。
まぁそんなわけで実際には権利はあるが主張するのは認めないって判断になるんじゃないか、これもケースバイケースだがね」
「もしかして法律ってあんまり守られてない……?」
「そんなことはないんだが法律の条文より話し合いの結果が優先されることもあるって話さ、法律も完璧じゃないんでね」
「ふーん、権利が無くちゃ絵をコピーしたり二次創作したりしちゃだめなんでしょ? でも個人で使うならいいみたいやつなかったっけ」
「それなら権利者の許可無しに使える場合を確認していくか。
たくさんあるがとりあえず三つに絞る。
一つ目、まずそもそも著作物じゃないもの、短すぎる文章やアイデア、ただの事実なんかがこれにあたる。そもそも権利者が存在しないから許可も何もいらない。
二つ目、保護期間が切れている場合。保護期間はちょっとややこしいからとりあえず原則として著作者の死後70年までとだけ言っておくが、あんまり覚える必要もないだろう。これを過ぎるとパブリックドメイン、つまり誰でも自由に一切の許可なく使用できる著作物になる。青空文庫に収録されている作品とかがそうだな。
そして三つ目、著作権が制限される場合だ」
「シオン、著作権はなぜあるのか。その目的は何だった?」
……シオン? 寝てるな、こいつ。
ほおをつつく 「んにゃっ」
またつつく 「んみゃ」
遊んでいる場合ではなかった。
「ほら起きんか! 著作権の目的は何だ」
「へ? 目的? なんだっけ、えっと。あ、文化の保護みたいなやつだよね」
「そうだな、文化の発展が目的だ。だから著作権が認められているものでも無許可で利用できる場合がある。その方が文化の発展のためになると考えたからだ」
「それが個人的な利用?」
「それもあるんだがこれが結構多くてなぁ」
「や、いっぱい言われてもわからないんでダイジェストでお願いします」
「じゃあ三つだけ。私的利用、引用、教育機関での利用なんかがそうだ」
「おぉ短い。私的利用ってのは自分が楽しむだけならコピーしたりグッズ作ってもいいよってやつだよね」
「そうなるな。ちなみに“私的“の範囲は家族くらいまでだ。数人なら友人に渡しても平気だろうがネットで呼びかけるのは完全にアウトだ。あと一応言っておくが自分で楽しむ目的でもコピーガード外したりするのはダメだからな」
「そんなことしないってば。
引用って普通に文章引っ張ってくること?」
「そうだが、引用箇所がわかること、引用元をちゃんと表示してることが条件になる。学校のレポートでも参考文献や引用の表記はちゃんとしろよ? その辺は先生が教えてくれるだろうけど」
「はーい、最後の学校ならいいってのは?」
「教育機関、つまり幼稚園から専門学校を含む大学までであれば許可なく複製や翻案ができる」
「じゃあ文化祭で演奏するのは本当はダメってこと?」
「文化祭の演奏はまた別の決まりがあるんだよ。
営利目的でなく、観客から一切の料金を取らず、演者が無報酬という三つの条件を満たせば無許可で上演できるんだ。文化祭や地域の祭りのバンドはこれを満たすから作曲者の許可がなくても演奏できるということになる」
「めんどくさいけど上手いことできてるんだね、でもこれ二次創作に関係なくない?」
「あんまりないな、せいぜい自分が使うためのグッズや部活で作った同人誌はセーフってくらいか。
だが、自分が侵害している権利くらい知っておくのが礼儀じゃないか? 著作権と一口に言っても色々種類があるんだ、知っておいて損はないだろう」
「よし、今日はこのくらいで切り上げるぞ」
「ウミさぁん……お昼寝していぃ……?」
返事も聞かないうちからもうほとんど寝てるじゃないか。緩めとはいえ冷房入れてるんだ、体が冷えたらどうするつもりだ。
ブランケットなんて気の利いたものはあったか? まぁ大きめのタオルでいいだろう。
さて、私もコーヒーミルの手入れやら何やらしなくてはな。客はほとんど入っていないがこれでも喫茶店の店主なんでね。
今回のポイント:著作権には種類があり、二次創作で問題となるのは同一性保持権、複製権、翻案権である。複製権や翻案権は他の人や会社に渡すことができるが、同一性保持権は著作者しか持つことができない。