第二話 著作権って邪魔ですか?
前回のあらすじ:二次創作が犯罪なのか気になったシオン。どうやら著作権という権利を侵害しているのは間違いないが権利者が何も言わなければお金を払う必要も警察が来る心配もないらしい。とはいえさじ加減は権利者次第、困らせないような配慮が必要だとウミは説明した。
それにしてもうちの店でシオンに法律の話をすることになるなんて妙なことになったものだ。
ん? シオンのグラスが空いてるな、そろそろおかわりでも要求されそうだ。
「ウミさん! いちごミルクおかわり!」
「却下だ。それで以前腹壊したの忘れてないからな? アイスカフェオレでいいだろ」
「いいよー甘いやつでお願い」
味覚の成長しない奴め。自分の分と合わせてテーブル席にカフェオレを2つ運ぶ。
休憩もはさんだし、少しおさらいから始めよう。
「さて、二次創作がなぜ曖昧な立ち位置なのかは分かったか」
「ん~法律的にはダメだけどやめてって言える人が何も言わないから結果的に存在できてる、みたいな?」
及第点かな、本来揉めていないところに法律の出る幕はないのだよ。
「その理解でいい。だが、向けられた銃口には実弾が入ってるってことは忘れるな。
まだ撃たれてないのは単に認識されてないか引き金を引く必要が無いと思われているだけなんだから」
では、遅くなったが本題に入ろう。
「まず著作権とは何か、シオンは何だと思う」
「人の絵を勝手に使えない、いや自分の絵を勝手に使われない権利?」
「20点」
「低くない?」
「間違いではないが不十分だ。だから教えてやるんだろう?
言ってしまえば著作権とは著作物を保護するための権利だ」
「じゃあ著作物って何なのさ」
「いい質問だ、ほめてやろう」
「やったー」
頭をわしわしとなでるとシオンは気持ちよさそうに目を細めた。何だこいつは、猫みたいなやつだな。
「だが著作物の前に。なぜ著作権法があるのか考えたことあるか?」
「権利者にお金が落ちないと悔しいから」
悔しいって何だ。そして一体誰の視点なんだ。
「違う。スマホで『著作権法』って調べて見ろ。あぁそのe-Gov法令検索でいい」
シオンに指示を出して法律のページを開かせる。紙の六法も店の奥にあったとは思うんだが探すのが面倒だし重い、ついでに言えば中身が古いから使いたくないんだ。
「著作権法の第一条を見てみろ『著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与すること』ってあるだろう」
「難しくて読めないし言ってる意味が分からない」
だろうと思ったよ。私も今ので分かるとは思っていない。
「大事なのは最後だけだ『文化の発展に寄与すること』そのために著作権はある」
「本当に? 文化の発展とか言うなら自由に使えた方が良くない? 権利者削除とかない方が作りやすいじゃん。同人誌だってダメって言われるかもしれないんでしょ?」
「それは一面だけしか見えてないな。おまえも創作者なら一枚の絵、一本の小説、一つの曲を作りあげるのにどれだけの苦労があるか想像できないわけではあるまい。
作品は作者の子だ、だったら親が子を守れる制度は必要だと思わないか?」
「そりゃあね、言ってる意味は分かるけどさ」
「もっとも、おまえの言うとおり何でもかんでもいちいち許可を取らなくちゃいけないんじゃあ文化の発展を阻害するのは間違いない。
著作権はほぼ全ての著作物に対してそれが創作された瞬間から発生する、ある意味では対象が広すぎる権利だ。
だから著作権の無くなる期限を決めたり時には権利主張を認めなかったりして調整しているのさ」
「とりあえず今日はここまで。
また来れば続きを話してやるからもう帰れ。そろそろ暗くなる。」
「ねーウミさんのところ泊まっちゃダメ?」
「駄目だ。そういうのは先輩を通してからにしろ。それに泊まる準備も何もないだろうに」
「ちぇー了解ですよー また来るからねっ! ウミさん!」
今回のポイント:著作権は文化の発展に寄与するためにある。著作者の権利を保護するだけじゃなく、適正な利用を促進するのも大事な目的だ。