第一話 二次創作は犯罪ですか?
前回のあらすじ:海岸沿いにある喫茶店の女主人ウミのところに高校一年生の少女シオンが駆け込んでくる。シオンいわく描いた絵が他のものに似ていたため著作権侵害と言われたらしい。
そんなわけあるものか、こうしてウミによるざっくり著作権講座が幕を開けた。
「さて、それじゃあ講義を始めようか。まず著作権とは……」
著作権について全部語る必要もないだろう。とりあえず基礎と二次創作に関係しそうなところをかいつまんで話すとするか。
「待ってウミさん! あたしまず聞きたいことあるんだけどいい?」
シオンが勢い良く手を上げて、ツインテールがしっぽのように跳ねる。
こいつときたら……話を聴く気あるんだろうな?
「いきなり出鼻をくじくんじゃない、聞きたいこと?」
「うん! そもそもさ、二次創作って犯罪なの?」
確かにそこは気になるか、本編に入るための序章として触れておくのもいいかもしれない。
「犯罪ねぇ。ふむ、そうだな。まず犯罪とは……」
「え、その話長くなる?」
見るとシオンは早くもテーブルに顎を乗せだしている。早くも聞き流しモードだ。
まぁ今犯罪の定義の話なんてしても余談にしかならない。
私は片手を軽く振って自分用に入れてきたアイスカフェオレをあおると話を再開した。
「わかったわかった、結論から言おう」
「二次創作はな、
著作権を侵害していることに間違いないが、それだけでは罪に問われない」
「あれ、ということはクロ? ダメじゃん」
「結論を急ぐんじゃない。
まず、著作権を侵害した人がされることは主に二つ。
一つ、権利を持っている人から『公開をやめろ』『これだけ損害があったから弁償しろ』という請求がされる。
二つ、罰則の科される行為をしたから刑事裁判になり有罪になれば罰金や懲役刑となる」
「つまり削除したりお金払ったりしなきゃいけないの?」
「裁判が終わるまで結果は分からんがな、少し説明するぞ。
一つ目はあくまで請求できる“権利”だから別にしなくてもいい、著作権者が黙認していると言われているのはここで『あえて権利行使をしていない』から。
もちろん著作権者は許可することもできるから“黙認”よりも“見てみぬふり”といった方が正しいかもしれないな」
「え、よくわかんない」
目が点になっている。どう噛み砕いたものか……
「シオンの隣の家に大きな桜の樹があるだろう? その枝はお前の所の庭にも少しかかっていたはずだ」
「そだね、春はすっごく綺麗だよ」
「その枝、どうして隣の人に切ってくれって言わないんだ?」
「え、別に困ってないし綺麗だし隣のおばさんいい人だし」
「シオンは隣のおばさんに枝を切ってくれと言うことができる、でもわざわざそんなことは言わない。さっきの話もこれと大体一緒だよ」
「おーなんとなく理解した。困ってなきゃあえて言う必要ないのか」
「そういうことだな。権利は主張してもしなくてもいい」
「次刑事の話な、
罰則は著作権者の権利とは無関係だから侵害した人すべてが対象になる……はずなんだが何事にも例外はある。被害者が言わなければ裁判にならないというアレ、もしかしたら聞いたことがあるかもしれないが、親告罪というやつだ」
「あー聞いたことある。ん? でもTPPで親告罪無くなったって聞いたけど」
「ほう、意外と知ってるじゃないか。確かにTPP、環太平洋パートナーシップ協定の影響で著作権法は改正され、一部は親告罪の例外になった。主に営利目的で“原作のまま複製された”もの、つまり海賊版が対象だけどな。
二次創作はそのほとんどが『翻案』にあたるから対象外だ、今まで通り権利者が申告しなけりゃ刑事裁判にはならん。この辺は“ラブひな”や“ネギま”の作者である赤松健先生ら有識者が尽力してくれたおかげでもある」
「じゃあいきなり捕まったりしない?」
「しない、とはあえて断言しないが今まで通りと思ってくれて構わない」
「ちなみに“ほんあん”って何?」
「だから最初に著作権について話そうとしたんだろうが、あとで説明するから待ってろ」
「『公開の差し止め』も『損害の賠償』も『警察に突き出す』のも権利者のさじ加減一つ。ここがグレーといわれる由縁で、現状個人レベルの二次創作は“ほぼ”見てみぬふりされている。原則禁止する一方でそのほとんどを見逃し、悪質と判断したものに権利侵害の主張をする現状はかなり歪だ。
なにせ何をしたら撃たれるのか基準がなさすぎる。そんな恣意的な運用のせいか過去にも権利者が差し止めや損害賠償を求めた例はあるが裁判までいくことはほぼない」
「ダメなのに良いってわけわかんなくない?」
「そうだな、私もそう思う。だから先人の踏んだ道を歩け、そしてもめたら話し合いで解決しろ、綱渡りに失敗した時の方法も後で話してやるから」
魚心あれば水心、空気を読んで楽しい二次創作を。
今回のポイント:許可の無い二次創作は作者の著作権を侵害しているが、権利者の「見てみぬふり」によって現実には問題となっていないことが多い。