08話 『湧き出てくる新手の魔獣』
「リーナ様! 今すぐ助けに行きます!」
エリーサがリーナを助けに行こうと観客席から飛び降りようとすると、
「ウケケケケケー!」
と背後から1メートルぐらいしかない緑色の魔獣が現れて、エリーサの足をつかんで転ばせた。
「くっ! 何だ?」
エリーサがじたばたしていると、横からレージス学長が緑色の魔獣を殴り飛ばした。レージス学長の拳が効いたのか、緑色の魔獣は立ち上がることはなかった。
「お前さん! そいつはゴブリンじゃ。じゃけどゴブリンはこの町から10キロメートルぐらい離れた森にしか生息していないとばってんなんでこぎゃんところにいるんじゃろうか? 普通は自分の住処から離れたりせんとじゃけんど」
エリーサがゴブリンがやられとことに喜んだのもつかの間、ゴブリンの増援がやってきた。
このゴブリンたちの目的は、人間を襲うことと、王国軍の兵士が持っている通信機や大決闘場に備え付けられている通信機を破壊することである。
「しかし人間を襲うことならまだしも、通信機を破壊するなんて、知能のないゴブリンたちになぜそぎゃんことができるんじゃろうか?」
「レージス学長! 今はそんなことよりもこいつらをさっさと倒しましょう!」
レージス学長はキャシーの言うことに頷いて、ゴブリンをボコボコに殴り始めた。
エリーサもレージス学長に続いて、
「火よ! その力で相手を焼き尽くし給へ! 〝ファイアーショット〟!」
エリーサの手から発射された炎の塊はゴブリンを火だるまにした。
ミーアやキャシーもゴブリンに向かって、
「風よ! その力で相手を切り裂き給へ! 〝ウィンドカッター〟!」
「氷よ! その力で相手を凍らせ給へ! 〝フリーズボール〟!」
ミーアは先ほど颯太が使っていた〝鎌鼬〟よりもだいぶ威力が低い風の刃でゴブリンを切り裂き、キャシーの放った冷気の球はゴブリンを一瞬で凍らせた。
こうして3人とレージス学長はゴブリンを次々に退治していった。
しかし会場の外には人食いラビットやスライムなどの魔獣が避難誘導させていた教職員に襲い掛かっていた。
「ハァ……ハァ……これでもくらえ! 〝サンダーランス〟‼‼」
リーナは再び魔導神装をして、槍型の電撃を3発飛ばして、ミノタウロスを攻撃した。しかしミノタウロスが強すぎるからなのか、颯太との戦いでリーナが疲労しているからなのか、リーナの攻撃はミノタウロスには全く通じていなかった。
「モーホッホッホー! そんなんじゃあ俺を倒すことはできんぞ~!」
ミノタウロスは完全にリーナで遊んでいた。棍棒でリーナを潰そうとするが、敢えて攻撃をそらして、棍棒を地面に叩きつけた衝撃でリーナを吹っ飛ばしている。
「モーホッホッホー! 次はお前の番だぞ~!」
(やつを一撃で仕留めるには……やはり心臓をレイピアで突き刺して、たっぷりと電流を流し込むしかないか……)
リーナはそう思って、ミノタウロスに向かって走り始めた。
「ハァーーーーー! くらえ! 〝サンダーポーク〟!」
リーナは心臓を狙って突き刺そうとしたが、ミノタウロスは棍棒でレイピアを受け止めて、彼女を力強くはじき返した。
そしてミノタウロスは吹き飛ばされたリーナのもとへと歩き始めた。
「モウ飽きた、この遊び……。だからお前を潰す」
そう言うと、ミノタウロスはリーナの真上で棍棒を振りかざした。
「モーホッホッホー! まあまあたのしかったぜ、あばよ!」
ミノタウロスは思いっきり棍棒を振り下ろした。
(もうだめかーーーー!)
リーナがそう思ったとき、一人の男が現れて、棍棒を素手で受け止めた。
「大丈夫か……リーナ」
「お、お前は……雨宮……颯太!?」
「ブモッ! お前、生きてたのか!」
リーナの前に現れた男とは、さっきまで戦っていた男、雨宮颯太だった。
「大丈夫か……ケガはないか?」
颯太が聞くとリーナは戸惑いながら答えた。
「う、うん。大丈夫」
「そうか……よかった。あとはゆっくり休んどけ」
颯太がそう言うと、リーナはコクリと頷いた。
「ここから先は……俺に任せろ‼‼‼‼」
颯太は受け止めていた棍棒をガシッと握った。
「〝波動旋風〟‼‼」
握り締めていた手のひらから強い衝撃波と突風が発生し、ミノタウロスの棍棒を粉々に砕いてしまった。そしてミノタウロスは颯太の手から巻き起こった巨大な旋風によって、観客席の方まで吹っ飛ばされた。
ミノタウロスはフラフラとよろめきながら立ち上がると、
「ブモォーーーー‼‼ てめえだけは絶対に許さねーぞ‼‼‼」
と背中に背負っていた斧を手に持って雄叫びを上げた。ミノタウロス雄叫びは地面を振動させて人々を恐怖させた。
しかし颯太は全く怯えておらず、むしろ負けじと、
「それはこっちのセリフじゃー‼ お前よくも俺を思いっきりぶっ飛ばしてくれたな‼‼」
と暴言を吐いた。するとミノタウロスの雄叫びよりも地面が激しく揺れ、闘技場のステージにひび割れが生じた。ミノタウロスが颯太の発狂に怯んでいる隙に彼は背中に背負っていた刀を抜いた。すると颯太の刀がそうた自身と反応し、彼の体から謎の黒いオーラが漂い始めた。