７５話 『戦場での読み合い』
「む、無念！」
胴体をぶち抜かれたアシュラＢコングは自分の敗北を認めて静かに倒れた。
そしてその魔獣からは魔力を感じられなくなった。
「ハァ……ハァ……何とか倒せたな」
「敦さん、アシュラＢコングは本当に倒せたのですか？」
「ああ！ 今度こそ確実に倒せたぞ！」
また復活するのではないかと不安そうな顔をしているマッチョッテに敦はグッと親指をたてて笑った。
しかしもうすでに敦の体は限界に達していて、‶魔導神装〟が強制的に解除されて倒れ込む。
「敦さん！？ しっかりしてください‼ 敦さーーーん‼‼‼」
だが敦の耳にはマッチョッテの声が届いてはいなかった。
――王都から少し離れた場所の森
颯太とタイショーウルフは誰もが目を疑うほどの刃と刃を打ち付け合う壮絶な戦いを繰り広げていた。
タイショーウルフの速度は以前のクミチョーウルフの速度をはるかに凌駕しており、黒いオーラを放っている颯太に負けず劣らず肩を並べる速度で駆け回っていた。
「チッ！ なんて速度なんだ！？ しゃあねぇ、これでもくらっときやがれ‼‼ ‶漆黒の魔獣砲〟‼‼‼」
颯太はやけくそになりながら黒い閃光を発射するのだが、タイショーウルフはそんな颯太の手の動きを読んで、高く飛び上がり、その攻撃を躱す。
「てめえの動きはすでに把握済みなんだよ！ ‶流星の鉤爪〟‼‼」
さすが屈辱的な敗北をした魔獣と言ってもいいだろう。タイショーウルフは颯太の放つ‶魔獣砲〟を躱すのとほぼ同時に、１０本の爪を振り下ろして鉤爪の形をしたレーザーを飛ばす。
そしてそのレーザーは颯太の真上に降ってくる。颯太は若干の身の危険を感じ、黒刀を振り回してその攻撃を防ぐ。
「やるじゃねえか！ ‶龍斬り〟‼‼」
タイショーウルフはそう言いながら高らかに笑い、急降下して颯太に攻撃を仕掛ける。
颯太は向かってくるタイショーウルフはに黒刀を構えて対応するのだが、タイショーウルフは攻撃する直前に方向転換し、颯太の周りをぐるぐると凄まじい速度で何周も回り始めた。
「何！？」
颯太はタイショーウルフの予測不能の行動に驚きつつも、タイショーウルフの動きを目で追いかけていた。
「無駄だ！ 今俺は最大速度でてめえの周りをまわっている。だからてめえは俺の動きを目で追うことなんざできやしねぇ‼‼」
タイショーウルフのは颯太の周りをまわりながら颯太の死角から勢いよく爪を突き付ける。
「ガハッ！？」
颯太は背中を斬られ、急いで後ろを振り向いたのだが、また背後から同じように爪で斬りつけられる。
そして颯太は連続でタイショーウルフに死角を突かれながら攻撃を受けた。
「ハハハハハ－！ どうした？ そろそろ限界かぁ？ じゃあさっさととどめを刺してやるか！」
タイショーウルフは高らかに笑い、颯太の背後から鉤爪を突き立てて接近してくる。
ガキーーーーーーーン‼‼‼‼
しかしタイショーウルフの鉤爪は颯太の黒刀によって見事に受け止めていた。
「な、なんだとーーーーー‼‼‼‼」
「お前の動きは完全に読めた」
「何！？」
「お前はあれだけ俺の周囲を回り続けているのに、攻撃してくるときはいつも俺の背後か側方からだ……それに気づいた俺はこっそりとてめえの攻撃を‶鋼筋武装〟して防いでいたのさ！ 案の定お前は最大速度が災いして俺に攻撃を防がれていたとは気づいていなかったようだがな！」
颯太はそう説明して自分の背中を見せた。
「見ろ、この背中を！ 俺が攻撃を受けたのは最初の1発だけだ！ だからあの1発で俺を仕留められなかったことがお前の失態だよ！」
「チッ！ だがいいのか？ そんなこと喋っても……そんなことを言われて俺がおんなじ動きをすると思うなよ！」
タイショーウルフはそう言って再び颯太の周りを回り始めて先ほどと同じ攻撃を繰り返していた。
当然颯太はその攻撃を見切っているため、タイショーウルフの全ての攻撃を黒刀で受け止めていた。
「フッ、てめぇのように極端に速度能力が上がった奴は、使い慣れていないその速度に適応できず、コントロールですることもできない……そのため自分の行動パターンをいきなり変えるなんて芸当は不可能と言ってもいい……だから……」
「うるせえんだよ！ さっきから！ さっさと死ねい！」
タイショーウルフは颯太の舐めた態度に怒り狂い、今までずっと背後か側方しか狙って攻撃をしていなかったのだが、いきなり正面から攻撃をしかけた。
「ハハハハハハー！ これで終わりだー!!!!」
「‶鎌鼬〟」
「グホッ！？」
颯太は自分の足に黒い旋風をまとわせてタイショーウルフの腹部を思いっきり蹴り飛ばした。
そしてタイショーウルフは足にまとわれていた旋風によって胴を斬られながら、数十メートル吹き飛ばされていった。
「だから行動パターンを変えるなら正面から来る攻撃だけに気をつけておければいいって訳だよ！」
颯太は倒れているタイショーウルフに得意げな顔でそう言った。
