676話 『癒しの炎と膝枕』
「……うぅ」
真っ暗な視界にわずかな光が差し込む。その光から徐々に金色のショートヘアが映る。
「目が覚めたか? 颯太!」
「リーナ? 何故おまえがここに……」
颯太は膝枕をするリーナに驚き、はっきりとまぶたが開く。
「俺は確かジャグバドスと剣で斬り合う夢を見ていたような」
「はぁ?」
リーナは颯太が意味不明なことを言い出したため思わずマヌケな声を漏らす。
「無理もないでしょう。彼はジャグバドスとの戦いで何度も意識を失ったり、別の人格と入れ替わったりしていたのですから。記憶が錯綜しているのでしょう」
事態を整理できていない颯太を雀臨がフォローする。颯太はゆっくりと顔を上げて、雀臨の背中から地上を見下ろす。そこから見える無数のクレーターと焼け焦げた森林を見て、すぐに自分のせいなことに気付く。
「‶魔獣界〟からたくさんの神力を貰っておいて守り切れなかったのは完全な俺の不手際だ。申し訳ねぇ」
颯太は手を合わせて目をつぶる。それを見たリーナも悲しげな表情を浮かべる。
「ところで敦たちはどこだ? 魔力を一切感じないんだが」
「それが敦たちは幹部魔獣を追いかけて‶人間界〟に戻ったんだ!」
颯太は顔を青ざめてリーナの肩を強く握る。
「そいつはどういうことだ!? まさかあの化け物たちが一斉に‶人間界〟へ向かったのか?」
コクリと頷くリーナに颯太は思わず顔を手で覆う。
「だったらさっさと向かわねぇとな! ジャグバドスを倒すだけじゃ何も解決しねぇことに何故気付かなかった!」
颯太は自分に怒り勢いよく立ち上がろうとするが、フラット立ち眩みをしてリーナに抱きかかえられる。
「そんなボロボロの体で何ができる? はっきり言うが今のお前は私よりも弱いぞ!」
「うぐ……」
正論を言われ、ぐうの音も出ない颯太はおとなしく雀臨の背中の上で座る。
「確かにリーナさんの言う通りです。ですがあなたの力がないと‶人間界〟が助からないのも事実。そこで私から提案なのですが乗りますか?」
「それで俺が戦えるようになるのならすぐに教えろ!」
颯太は一切迷いなく雀臨の提案に乗る。するとジャクリンは説明もすることなく、自身の炎で颯太を包み込む。
「私は再生の炎を扱える神獣、あなたの傷や枯渇した神力を回復させることくらい容易いことです。ですが完全に回復させるまでにはかなりの時間がかかりますので、どれだけ回復できるかはあなたの回復力次第ですね」
雀臨は手短に説明をすると、神力の波動を放ち、空間に風穴をぶち空ける。
「恐らく私達の魔力量だと人間界への到着は5日はかかるでしょう。‶第一幹部〟より2日遅れての到着になります」
「2日か……それだけ時間があれば、いくつもの国に大きな被害が及ぶぞ」
リーナは顔をしかめて唇をかむ。そんなリーナの頭を颯太はポンと手を置く。
「あいつらを信じようぜ! なんせあいつらは俺を助けるためにこんな危険な世界へ飛び込んできた奴らなんだからよ!」
‶魔獣王〟を倒した男が、連中のことをいかにも危険な連中のような言い方をし、リーナは思わず吹き出し笑いをする。
「確かにお前の言う通りだな! ならあと5日間、ゆっくりと休んでろ!」
リーナは颯太の髪の毛を引っ張りそのまま自分の膝の上に乗せる。彼女の膝が思った以上に柔らかかったのか、颯太はすぐに眠りにつく。
雀臨はそのまま2人を乗せて異空間への入口へ飛び込んでいく。