675話 『最後の戦い』
颯太とジャグバドスの正真正銘、最後の戦いが始まった。しかしその戦いにはもうレーザー光線が飛び交ったり、空間がねじ曲がったりするような派手さは一切ない。
持っている剣のみでの戦い。斬られたら決着、しかし勝者もいずれマグマに呑み込まれて死亡する。
そんなシンプルで残酷な最後の戦いが始まった。
颯太は‶滅龍丸〟を力強く振り、正面からジャグバドスに斬りかかる。ジャグバドスは‶龍牙〟で斬撃を受け止め、気合の叫びとともに颯太を跳ね返す。颯太は刀を地面に突き刺してブレーキをかけ、岩石の端ギリギリでとどまる。
バキバキ……
颯太が地面に刀を突き刺したことで、彼らを支えている岩石に複数の亀裂が生じる。
「オイオイ、そんなことしたら決着が早まるぜ!」
「どうせあと何十回も刀を振ることなんかできやしねぇんだ。短期決戦でいかせてもらうぜ!」
颯太は刀を構え、再びジャグバドスに斬りかかる。ジャグバドスも大剣を振り上げ、颯太に迎え撃つ。両者の打ち合いは時が進むにつれ激しさがどんどんと増していく。
「最後に一つ聞かせろ。なぜここまで俺と戦い続けられる? 何故あれだけ圧倒的な力の差を見せつけられながらもお前は立ち上がれた?」
ジャグバドスは颯太に問いかけ、剣を降る速度を上げる。
「お前を倒すことができるのは俺だけだと確信したからだ! 俺がここで倒れたらこの世界だけじゃなく、‶人間界〟も滅んでしまう。俺は俺の大切なものを守りたい! それだけだ!」
颯太は今まで関わって来た多くの人々やその人たちが住む国を思い浮かべる。その笑顔を守るため、颯太は剣を降ることをやめない。
「だが結局俺はお前から大切なものを何も奪うことができなかった。それでもお前は戦い続けるのか?」
「戦い続けるさ。俺とお前は互いに殺す敵と認め合ったんだ。だから決着をつけさせることがこの戦いへの礼儀だ」
ジャグバドスはその言葉を聞き、思わず笑みがこぼれ落ちる。
「やはり命を懸けた戦いの相手をお前に決めて良かった。もう何も思い残すことはねぇ。あとは思いのままにお前を殺す!」
ジャグバドスは剣を振り上げ、颯太に最大パワーで斬りかかる。颯太は剣を構えて受け止めようとするとき、
『颯太……』
突如、リーナの声が聞こえる。勿論彼女の声が直接聞こえたわけじゃない。颯太の記憶の中のリーナの声だった。
その声を聞いた颯太は同じく、刀を引き、斬撃の構えをとる。
「「ウオォォォォーーーーー‼‼‼‼‼‼‼」」
2人は武器を振り、剣と刀を衝突させる。力と力がぶつかり合い、吹き飛ばされたジャグバドスに颯太は追い打ちをかける。
「俺には思い残すことばかりだ! 勝手にいなくなったことを謝ってねぇし、学校もまだ卒業しちゃいねぇ! お前を倒したところでまだ残党たちがいるし、お前より強い敵が現れるかもしれねぇ!」
颯太は心にとどめていたこと全て斬撃に変えてジャグバドスに吐き出す。
「それに……それに……まだあの扉の先を俺は見てねぇ! あの先を俺は見てぇ! 何が何でも見てぇんだ!」
颯太は力の限りの声を振り絞り、ジャグバドスの剣を叩く。そしてついに……
バキィィィィィーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
ジャグバドスの剣、‶龍牙〟は颯太の斬撃によって粉砕され、颯太は最後の一振りに全力を込める。ジャグバドスはそんな颯太の姿を見て、どこか安心したような顔を浮かべる。
「名前を聞かせろ……」
「俺は‶龍斬りの雨宮颯太〟‼‼‼‼ ‶最強冒険者〟だ」
颯太は自分の名を名乗ると、不敵な笑みを浮かべて刀を振る。
颯太の斬撃はジャグバドスの胴体の斜めに太刀筋が入る。赤い血しぶきが舞い、ジャグバドスの視界はしばらく天井を向いていた。そして地面から足が離れ、颯太の姿が上へ遠ざかっていく。
颯太が剣を鞘に収めるところを見届けたときにはもうジャグバドスの体はマグマ溜まりに沈んでいた。
颯太はジャグバドスの最後を見届けることはなかった。ただ天井を見上げて、独り言を呟くだけだった。
「何万年……そんな想像もつかねぇほどの長い年月を孤独に生き続けてきたんだな。そんなお前の心を17年しか生きてない俺が埋めることはできたんだろうか……」
颯太は肩の力が抜け、ふらっと体が後ろに倒れる。溶岩に熔け、岩石は徐々に小さくなっていくが、颯太は体を動かすことをしなかった。
「ジャグボロスは確か強い魂を持っていたから復活することができたっけ? だったら俺も強い魂を持っていれば、何千、何万年後かそれ以上先なのか、どこかで生まれ変わることができるのかもしれねぇな」
颯太は迫りくるマグマに死を悟ったのか、生まれ変わったことを想像し笑い出す。死ぬときはせめてポジティブに死のう。
「何を馬鹿なことを言ってんだぁ! 颯太ぁ!」
聞き覚えのあるうるさい声が地上から響いてくる。幻聴だろうか。いや、地上の光からゆっくりと炎をまとった鳥が接近してきていた。
「……リーナ?」
颯太は彼女の声を聞き、思わず耳を疑う。




