672話 『封鎖される空間』
斬り裂かれた大海はやがて元の姿へと戻ろうとする。その海の裂け目には首を斬り落とされて……いないジャグバドスの姿があった。
鱗は傷つけられたが切り口は甘く、颯太の刀は硬い鱗に挟まってびくともしない。
「あと一歩……及ばずってところだな」
ジャグバドスは不敵な笑みを浮かべると、首を大きく振り回して颯太を頭上に放り投げる。そして放り投げた颯太に向けて鼓膜を破壊するくらいの咆哮を上げる。
颯太の創った世界は震撼し、大気中にミシミシとヒビ割れのような模様が生じる。
「何だ? 俺の創った世界に何かが起きてる!?」
颯太は自身が創った世界ということもあり、異変をすぐに察知し、辺りを見渡す。すると颯太の世界‶写界〟が一瞬で暗転し、ジャグバドスの邪神力が大気中を駆け巡る。
「何が起こったのか、身をもって理解してみろ!」
ジャグバドスは10メートルの巨体を回転させながら飛翔し、長い尾を颯太の顔面に叩き込む。
バキィィィィーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼
「っ!?」
自分の顔面に強い衝撃が伝わってくることに驚愕する。いや、何もできずに叩かれたことに驚いたのだろう。
「どうした? 鳩が豆鉄砲を食ったような面を見せて」
ジャグバドスは颯太が驚いた理由も察しており、敢えて嫌味を言う。
「まだ理解出来てねぇようだな? もう一度痛い目を見たら分かるか?」
ジャグバドスはそう言い予備動作もなく‶魔獣砲〟をぶちかます。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
当然、颯太はその黒い光線もよけることができず、全身を焼かれる。
「ま……まさか……!?」
「できねぇんだよ。空間移動が!」
理解するのが一歩遅かった颯太にさらに追撃の回し蹴りで孤島に叩き落す。
「……言われてみれば、確かにこの世界と俺の感覚が共有されてねぇ」
呆然と空を眺める颯太のところへ、ゆっくりとジャグバドスが降り立つ。
「俺は世界を滅ぼす魔獣王、このレプリカの世界全体に‶アンチ空間支配〟の結界を張ることなんて造作もない」
「なるほど、俺の強みが完全に潰されちまったってわけか……面白ぇ!」
颯太は仰向けになっていたのにもかかわらず、‶神速〟で視界から消え去り、
「お返しだぁーー‼‼‼‼」
自分が蹴られた顔面に向かって高速の回し蹴りをお見舞いし、ジャグバドスを吹き飛ばす。
しかしジャグバドスはひるむことなく、すぐに受け身をとる。そして……
バキィィィィーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
発達した顎を颯太の後頭部に叩きつける。
「っ!?」
頭部に強い衝撃が走った颯太は何が起きたのか理解できなかった。今までのように白い物体で受け流すことができなかった。
「どうやらまた俺の邪神力が上回ってしまったようだな! ハハハッ! 何千年ぶりだろうか!? 成長の喜びを味わうのは!」
「成長……だと!?」
その声を発したのは遠方から戦いを見守っていた雀臨だった。
「待って! まさかあの怪物がまたさらに強くなってしまったのか!?」
リーナは驚いた顔で雀臨に尋ねると、黙って頷くだけだった。
リーナはしばらく焦りの表情を浮かべるも、すぐに前を向き、
「大丈夫! 颯太は負けたりなんかしない! 私が信じてる限り!」
リーナは両手を握り締めて目をつぶる。ただ颯太が勝って戻ってくることを祈って。
「……成長か、随分と飽きさせねぇイベントを持ち込んでくるなぁ! だが成長の一点だけで言えば、俺はてめぇに絶対に負けねぇ!」
颯太は拳を握り、風をまとい、ジャグバドスの腹に打ち込む。
ドムッ‼‼‼‼‼‼
激しい一撃がジャグバドスの鱗を砕き、水平線の彼方へとぶっ飛ばす。
「こいつ! またさらに強くなってやがる! あのパンチ、さっきとはけた違いだ!」
ジャグバドスは腹を抑えながら颯太方を向くと、すでに颯太が二撃目の準備をしていた。
「フッ、これでこそ殺しがいがある!」
ジャグバドスは龍人形態に体を縮めて速力を上げる。そして翼を大きく広げ、颯太のパンチを華麗にかわす。
ジャグバドスは宙を舞いながら大剣‶龍牙〟を抜き出す。
颯太はそれに対抗するように白いオーラから刀を抜き取り、頭上を飛び回るジャグバドスに接近する。
ガキィィィィン‼‼‼‼‼ ガキィィィィン‼‼‼‼‼
両者の刃が互角に打ち合い、爆発的な衝撃波が連鎖的に生じる。
「ウルガァァァァァ‼‼‼‼‼‼」
ジャグバドスの気合の叫びと共に颯太を力づくで弾き飛ばす。
「成長じゃ負けないところを見せてみろ! ‶龍斬り〟‼‼‼‼‼」
吹き飛ばされる颯太に向けてそう吠え、大剣に黒龍をまとわせる。
「‶龍牙斬衝〟‼‼‼‼‼」
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
ジャグバドスが剣を振るうと、刀身から出現した邪神力でできた黒龍が颯太を全力で追いかける。
「チッ! またあれか!? そう何回もくらってたまるかよぉ!」
颯太は離れるどころか、むしろ黒龍の方へ突っ込んで行く。
「‶神威太刀〟‼‼‼‼‼」
颯太は突きの構えをとり、ジャグバドスの斬撃に特攻する。そして黒龍の顔面に刀を突きさすと、激しく吹き荒れる旋風で超巨大な顔面を吹き飛ばす。そして刀を払い、暴発したジャグバドスの斬撃を海洋に突き落とす。そして一瞬でジャグバドスの間合いをとり、顔に斬りかかる。
キィィィィィィィーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
突き抜けるような高い金属音が鳴り響く。ジャグバドスは手の甲で颯太の刃をきっちりと受け止めていた。
「覚えてねぇか? 俺の龍鱗は体が縮むほど硬くなるってことを」
今のジャグバドスの体の大きさは3メートル程度、つまり鱗の強度は最大になっている。
「それに、お前と戦ってたおかげでこんなこともできるようになったぜ!」
ジャグバドスは受け止めた手を握り締めると、邪神力が腕全体をコーティングし、黒く輝きだす。
「‶超神武装〟って言うのか? こいつは」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
強烈なパンチが颯太の頬に直撃し、山をいくつも突き抜けながらぶっ飛ばされる。
「ああ、懐かしい……これが本気を出すって感覚か」
ジャグバドスの鼓動は激しくなっていき、その高鳴りが邪神力を爆発的に上昇させる。
そしてジャグバドスの全身を漆黒のオーラが埋め尽くし、真っ黒な積乱雲を生み出す。その雲の中から数キロメートルまで伸びた胴体が突き出す。
巨龍の形態と化したジャグバドスは今までにない巨大なオーラを体にまとい、龍人よりもはるかに上回る速度で突進する。
「‶天上天下・龍牙独尊〟‼‼‼‼‼」
DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
ロケットの如く飛び出したジャグバドスは、あっという間にいくつもの山を消し飛ばし、中に埋まっていた颯太を叩き出す。
「グッ!? ガハッ‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
強烈なタックルをまともに受けた颯太は白い物体でできた体を爆散させながら吹き飛ばされて行く。