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663話 『好敵手』

「‶ダイハードの邪神力〟だと? 小僧、お前今そう言ったのか?」


「いやぁ、その言葉をどこかで耳にしたことがあるなと思ってなぁ~」


 ジャグバドスは数千年も前まで記憶を遡る。



 ――あれは俺と兄、ジャグボロスの最後の喧嘩の日だった。


 当時の俺は今よりもはるかに力が弱く、兄と毎日のように互角の殺し合いを続けていた。だが命を懸けた戦いは血肉と引き換えに凄まじい快感を与えてくれた。俺と兄はその快感を求めて、どちらが死んでもおかしくない、世界を滅ぼしかねない戦いを繰り返してきた。


 その日も10メートル級の2体の龍が‶魔獣界〟上空で雷鳴のような音を鳴らしながら爪と爪をぶつけ合っていた。


 この世界で俺に傷をつけられるのは兄であるジャグボロスのみ。そんな兄の一撃をまともに受けた俺は数千里離れた山岳地帯まで蹴り飛ばされてしまった。


「痛ぇ、痛ぇぞ兄貴ぃ! もっとだ……もっと楽しませろぉ!」


 俺はボロボロと落ちる龍鱗を引き剥がして叫ぶ。その声は‶魔獣界〟全体を振るえ揚げるほどだった。


 そんな時、俺の目の前に突如として現れたのは光輝く謎の門。


 異空間につながっている門だったのか、その門の先は何一つ分からない。


 だが俺はそんな謎の門に胸がざわついた。後に‶闇ギルド〟から聞いた話によればその門は‶楽園の門(パラダイス・ゲート)〟と言うらしい。


 命を懸けた戦い以外にこんな気持ちになるのは初めてだった。その先を見てみたい。新たな世界にはどんな強者がいるのか。俺の好奇心が漆黒の閃光を生成し、渾身の‶魔獣砲〟を放つ。


 ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼


 これを地面に放っていれば世界は消し飛んでしまうかもしれない。そんな‶魔獣砲〟を至近距離で放ったはずなのに、その門には傷一つ入らず神々しい光を出し続けていた。


 このとき俺は正攻法以外ではこの門をこじ開けることはできないと確信し、その門に書かれている文面を読んだ。


『この門を開けたくば、‶ダイハードの邪神力〟を持つ者と戦うべし』


「ぬわぁっ! ぬわぁんだとぉぉー!? だっ、‶ダイハードの邪神力〟だとぉぉー!?」


 俺は‶ダイハードの邪神力〟と言うものが何なのか全く分かっていなかった。だが何故か驚きの声が勝手に口から出ていた。


 その声に反応して兄貴がやって来るのだが、来ると同時にその門は跡形もなく消滅する。


「どうしたバドス? このあたりにお前以外の強力な神力が感じられるんだが……」


「なぁ、兄貴……‶ダイハードの邪神力〟ってのは一体何なんだ?」


 兄貴はその質問を聞いた途端表情が曇る。‶龍斬り〟に見せたときの俺のような顔をしたんだ。


 その直後、兄貴の表情は一変してみたことないような不敵な笑みを浮かべた。


「さぁな……俺も知らねぇ」


 今思えばあの発言は嘘だということはすぐに分かったはずなのだが、あの門の存在が強すぎた俺は冷静じゃなかったんだろう。


 その翌日、兄貴は邪神力一つ残さずこの世界から消え失せた。

 あれから数千年が経ち、ジャグボロスが最弱の‶人間界〟で死亡したという事実を知るのは最近のことだった。




 ――現在


「ジャグボロスが消えてからの時間は長かった。俺が楽しめるほどの強さを持つ魔獣は現れず、いつの間にか‶魔獣界〟の頂点に立ち、‶魔獣王〟と呼ばれるようになった」


 ジルジオンはジャグバドスに斬撃を当て続けながらその話を聞き続けていた。


(‶楽園の門(パラダイス・ゲート)〟……確か颯太の記憶で一度見たことがある奴だったな。まさかここで繋がって来るとはな……)


「ジャグボロスの死を知ったのは‶闇ギルド〟の鉄仮面のリーダーがこの世界へとやってきたときだった」


「っ!?」


 ジルジオンはその男の姿と焼け果てていく‶悪魔界〟が頭をよぎり、攻撃の手が止まる。


「おい! 手が止まってやがるぜ!」


 ジャグバドスは呆然とするジルジオンを煽り、異空間の穴を生成し、大量の岩石を降り落とす。


「異世界の塵でも降らして目を覚ましてやろうか?」


 ズドドドドドドォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼


 ジャグバドスは異空間から岩石の雨を降り注がせ、ジルジオンを生き埋めにする。


 ‶龍牙斬衝(りゅうがざんしょう)〟によって巨大な入り江ような地形に変えられた台地はその無数の岩石が積み重なることによってあっという間に埋め立て地となってしまう。


 ジャグバドスは龍の姿から基本の10メートルサイズの形態に戻り、ゆっくりと埋立地に降り立つ。


「鉄仮面の男の名はメギルド・ブラック・デスターク。ダイハード一族(いちぞく)によって滅ぼされた元魔王の名だ。こいつにも聞き覚えがあるよな?」


 生き埋めにされているから声は聞こえない。だが憤りが抑えきれないのは明白だろう。


「メギルドから話を聞いた俺はひどく絶望し、奴を怒りのままに勝負を仕掛けた。さすが‶悪魔界〟を滅ぼしただけの力はあった。俺に傷をつけることはできなかったものの、それなりに善戦はしていた。数千年ぶりの喜びを感じられた。奴には今も感謝している」


 ジャグバドスはゆっくりと腰を下ろし胡坐をかいて語り続ける。


「メギルドを好敵手と感じた俺は奴に戦いの相手になるよう頼んだが、あっさりと断られた。だが奴の話を聞き、俺の胸はさらに躍った。ダイハードの生き残りがまだいるという話にな!」


 ジャグバドスの興奮に反応し、突如強風が吹き荒れる。


「その生き残りこそが俺の退屈だった長い人生に終止符を打てる、数千年前に見たあの門の先の世界を見ることができるとな!」


 ジャグバドスは両手を上げて高らかに笑いだす。この姿があまりにも隙だらけだったからか、埋立地が急激に盛り上がり、岩石の山からジルジオンが飛び出す。


 ズババババババァァァァーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼


 ジルジオンの重い斬撃が腹部に直撃し、ジャグバドスは真上へと打ち上げられる。ジルジオンは悪魔の翼を力強く羽ばたかせ急上昇する。


「メギルドは‶ダイハードの邪神力〟のことをよく知っていたから俺は奴の言う通りに、定期的に‶人間界〟へ魔獣を送り込んでいた。絶望の淵に立たされるほど‶ダイハードの邪神力〟は覚醒するらしいからな」


 ジャグバドスは‶ダイハードの邪神力〟を語りながらジルジオンの斬撃を鉤爪で受け止め続ける。


「‶闇ギルド〟はてめぇの存在に早い段階から気づいていたらしい。だが‶魔獣界〟に‶人間界〟の情報は届くことはねぇ。てめぇがことごとくうちの部下を葬り続けていたからなぁ!」


 バキィィィーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼


 ジャグバドスは長い尾でジルジオンの頭部を打ち付け、マッハの速度で地面に叩き落す。

 通常の魔獣では木端微塵に粉砕されるほどのダメージだが、ジャグバドスの好敵手となる男はその程度の攻撃ではくたばることはない。しかし額からの流血は隠せなかった。


「1ヶ月ほど前、メギルドの部下が‶魔龍城〟にやってきてお前の存在についての報告を受けた。俺はそのときお前がダイハードの生き残りだということを確信し、俺の方から‶人間界〟へ出向いた。いろんな奴から反対されたがなぁ!」


 ジャグバドスは地面に降りると、仰向けになって倒れるジルジオンに連続で殴り続ける。


「だが結果はどうだ? 大成功じゃねぇか! お前は絶望の淵から‶ダイハードの邪神力〟に目覚め、この俺の鱗を見事に破壊してみせた! 喜びに満ち溢れたぜ! メギルドと戦った時の何十倍にもなぁ!」


 ジャグバドスは狂喜しながらジルジオンを一方的に殴り蹴り、投げ飛ばす。もはやサイコパスの境地に立っている。


「どうした? 早く見せろよ! ‶ダイハードの邪神力〟とやらをなぁ!」


 ジャグバドスはラディーゴを圧倒したはずの‶漆黒の第三形態〟が手も足も出ないほどまで本気で攻撃する。ジルジオンは剣や邪神力を体にまとわせて必死に防御し続けているのだが、ガードが間に合わず頬を勢い良くぶたれる。


「どうした? やっぱり雨宮颯太じゃねぇとあの力は出せねぇのか? ガッカリだなぁ」


 フラフラになって倒れようとするジルジオンを憐みの目で見つめたジャグバドスはとどめを刺そうと口を開き、‶漆黒(ベスティア・)(ピストーラ・デル)魔獣砲(・シュヴァルツ)〟を放つ体勢に入る。



 しかしそのとき……



 スバァァァァァーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼


 純白のオーラをまとった黒刀‶滅龍丸〟がジャグバドスの腹部の鱗を斬り裂く。


「な、んだと!?」


 あまりの衝撃にジャグバドスは‶魔獣砲〟を明後日の方向に放ち、斬撃の勢いで吹き飛ばされる。

 空中で翼を広げて受け身を取り、もう一度ジルジオンの方を向くとその姿に再び驚かされる。


 ジルジオンの邪神力は黒から白へと移り変わり、黒い模様の線もゆっくりと白くなっていく。


「おお~! これこそまさしく俺の好敵手! その力をもっとも見せてみろ!」


「悪いな颯太。こいつも……メギルドも……すべて俺がこの力で倒す!」


 ジルジオンは‶漆黒の第三形態〟改め‶純白の第三形態〟となり、ジャグバドスに斬りかかる。

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