660話 『初めての味』
ガラガラガラーーーーー‼‼‼‼
玉座の部屋はハヌマーンとの戦いによって天井の崩落が始まる。
「マ、マズイ! 天井が全て落ちてしまったら‶邪神の秘薬〟の瓶が割れてしまう!」
リーナは玉座の隣に置かれた瓶ボトルの近くに瓦礫が落下してきたことに危機感を覚え、すぐに走り出す。
「でもあの量を運ぶのは難しいから小さなボトルに告ぎなおさないといけないな!」
リーナは巨大瓶ボトルの蓋を開け、自分の水筒に液体を注ぎ込む。どのぐらい必要なのか分からないのでとりあえず1リットルの水筒が満タンになるまで注ぎ込む。
「よし、あとはこの薬を颯太のところに届ければ颯太はきっと復活してくれる!」
リーナは水筒を絶対に落とさないようにギュッと握り締めて玉座の部屋を脱出しようとする。しかし……
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
突然この部屋に漆黒の業火が襲い掛かり、部屋全体が黒い炎に包まれる。
「な、なに!? 今度は……」
リーナは水筒を必死に守りながら炎から離れる。すると崩れた壁の穴から巨龍の目が映りこむ。
「ハヌマーンの神力が感じられなくなったから様子を見に来たら……なるほど、どうやらお前にやられたようだな」
「そ、そうだ! お前んとこのあのクソ猿は私が倒してやった! なんか文句でもあんのか?」
リーナは鼓膜が破れるくらいの声量で話しかける巨龍、ジャグバドスに震えながらも言い返す。
「これでも俺は‶魔獣軍〟のトップをやらせてもらってる。だから倒された部下の仇はきっちりと取らないと面目丸つぶれなんでね。悪いがここで消えてもらおう!」
ジャグバドスは口を大きく開き、再び口内で漆黒の炎を生成する。リーナはその激しい熱気に皮膚が焼かれそうになるも必死に我慢し、その場から離れようとする。
「冗談じゃない! さっきやっとのことで‶第二幹部〟を倒したって言うのに、その上ましてや一番上の奴を相手にするなんて!」
リーナは急いで玉座の部屋から脱出し、その通路の窓から飛び出す。
「‶魔龍咆哮〟‼‼‼‼‼」
バキバキバキバキーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼
激しい黒炎がリーナのいた部屋を焼き払い、‶魔龍城〟の最上階が完全に崩壊する。リーナはその爆炎の熱風で吹き飛ばされ、手に持っていた水筒が熱で破損してしまう。
「そんな! ‶邪神の秘薬〟がぁ!」
リーナは飛び散る薬の液体を見て思わず絶望的な表情を浮かべる。
(駄目だ! 水筒の予備なんてないし、手ですくって持っていこうにも絶対に漏れてしまう。どうしたら……ハッ!?)
リーナは一瞬思い描いたことに躊躇するも、勢いが大事だと思い、飛び散った黒い液体を全て自分の口の中に吸い込む。しかしこれは悪魔で颯太が飲むための液体のため、リーナは飲み込むことはせず、フグのような顔をしていた。
「もご、もごもごもご!(絶対に、口か出してたまるかぁ!)」
リーナは必死に手で口を押さえながら‶魔龍城〟から落下していく。黒い液体を呑み込まないように顔を下に向けながら。
「もごごっ!? もごもごっごもごー‼‼‼‼(ヤバイ!? 下に落っこちちゃうー‼‼‼‼)」
‶魔龍城〟から脱出したリーナは自分が高所にいたことをすっかり忘れており、涙を流しながら落下していく。しかしそれでも彼女は口に入れた液体は吐き出さない。そのとき……
フワッと柔らかいものに包まれながらリーナは地面に落ちることなく何者かの背中に乗ることができた。
「大丈夫ですか? リーナさん!」
「もごご! もごもごもごごー!(雀臨! ナイスタイミング!)」
リーナは相変わらずもごもごとしかしゃべられないのだが、そこはさすが雀臨と言うべきであろう。彼女の言いたいことが完全に伝わっていた。
「彼のもとに降ろせばよろしいのですね?」
雀臨がそう聞くとリーナはコクコクと頷き、颯太のいる方向を指す。しかしそのリーナたちの神力に勘づいたジャグバドスは再び漆黒の炎で追撃する。
「‶不死鳥の守り〟‼‼‼‼‼」
雀臨は炎の体を激しく燃え滾らせ、ジャグバドスの黒炎のブレスを全身を使って防御する。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
(キャァァァーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼)
炎と炎の衝突によって大爆発を巻き起こし、ジャクリンの背中に乗っていたリーナは爆風で吹き飛ばされていき、心の中で泣き叫ぶ。
「すみません、リーナさん……」
さすがの雀臨であってもジャグバドスの炎を耐え切れず、漆黒の炎が雀臨を押しのけ、リーナに襲い掛かる。
「させるかァ‼‼‼‼」
冷気をまとったドラゴンが身を挺してリーナの盾となり、炎を防ぐ。
「もごもごもご! もごもごもごもごもごごごー!(龍長老さん! そんな体でこの炎は危険だー!)」
ジャグバドスにやられたであろうボロボロの姿になった龍長老を気遣うリーナのもとへ一体の狼が抱きかかえる。
「おい、よその心配しないでてめぇの心配でもしてやがれ!」
彼女を抱えたソースイウルフもまた満身創痍な状態と言っても過言ではないほど傷を負っていた。特に重症なのは左腕が無くなっていたことである。
「さっさとそのリスみたいにため込んでいるもんを奴に飲ませてやれ!」
ソースイウルフにそう言われた瞬間、リーナは肝心なことに気付き顔を赤らめる。
「今更赤面してんじゃねぇよ! もし躊躇でもしたら無理やりにでも飲ませてやる!」
「もごご!?」
ソースイウルフは驚くリーナを無視して颯太のところへと駆けつける。
「もごもご……」
もごもごともじもじしながら言うリーナを見てソースイウルフは深くため息をつく。
(これってあれだよね……いざするとなると緊張するなぁ~! でもこういう時ってどんな感じですればいいんだっけ? ロマンチックなお話をもっと読んでおけばよかった~)
緊急事態だというのに挙動不審な子どもみたいな態度をとるリーナにソースイウルフはイライラが抑えきれなくなり、
「さっさと飲ませやがれ! バカ女が!」
ブチュゥゥゥ‼‼‼‼
ソースイウルフはリーナの頭を鷲掴みし、颯太の顔面に勢いよく叩きつける。
リーナは突然の唇の違和感に思わず口に入れていた液体を吐き出す。
「ムギュゥーー!?」
リーナは我に返り、彼の顔が目の前にあることに目を丸くする。
そして血生臭い初めての味にリーナは両方からの刺激により思考が完全に停止する。
そんな彼女たちを容赦なく漆黒の業火が直撃する。