657話 『雷撃(ショック)を乗り越えて』
「……おおっ!? 早速連絡が入った。なになに……作戦成功、幹部一同‶人間界〟へ進軍!」
ハヌマーンは部下からの連絡を受け、思わずテンションが上がる。その通信の声を聞いたリーナはショックのあまり、手の力が抜けていく。
「聞こえたか? どうやらそう言うことらしい。残念だったなぁ!」
ハヌマーンはリーナを見て笑いながら煽る。リーナは悔しさを押し殺しながらレイピアを構える。
「あくまで平静を装うつもりか? だが無駄だ、いくらてめぇがあがこうと幹部が侵攻した現実と‶人間界〟が滅ぶ未来は変えられねぇ!」
「……確かに‶魔獣軍〟の侵攻は止められなかった。変えられない現実だ。だがどうして‶人間界〟が滅ぶ未来を勝手にお前が決めてるんだ! 未来は誰にも分からないから未来なんだ。未知数だから未来なんだ! 未来はお前だけの物なんかじゃない!」
リーナはレイピアから神力を解き放ち、雷撃の槍を模る。
「そうやって悔しさを乗り越えて強くなったつもりだろうが、そんな奇跡が起きんのはお話の世界だけだ! 現実は非情なんだよ!」
ハヌマーンは辛辣な言葉を投げながら魔力を爆発的に上昇させる。
そしてリーナのレイピアととハヌマーンの爪が衝突し、2つの雷が暴れ狂い玉座の部屋を震撼させる。
「そんなもんか? マリアネス王女の力は!」
「そんなわけないだろ!」
リーナはハヌマーンの煽りを全力で振り切って遠くへ弾き返す。
「マリアネス王国を救いたい。そして颯太も救いたい。そのためにはお前なんかに負けてられないんだ! ‶乱射雷突き〟‼‼‼‼‼」
リーナは大量の魔力を消費し、雷速で突撃すると、雷をまとったレイピアで高速の連続突きをお見舞いする。
ズドドドドドドォォォォーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
しかしリーナの突きはハヌマーンの皮膚を貫くことはできず、長い尾でレイピアを持つ右手を掴まれる。
「ぬるいな、その程度の電撃じゃあ!」
ハヌマーンはそう言い尻尾の締めをきつくする。
「‶雷猿〟‼‼‼‼‼」
バリバリバリバリバリバリーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼
ハヌマーンから放たれる数億ボルトの雷が直接リーナに伝わり、雷鳴でかき消されながらも甲高い声で絶叫する。
「ハハハッ‼‼‼‼ 3割程度の雷撃でいちいち叫んでんじゃねぇよ! だがまぁ‶雷の奇才者〟ってだけはあるなぁ。普通ならこのレベルの電気でも息の根は止まるってのによぉ!」
ハヌマーンはリーナを煽りながらも感心していた。しかしリーナにとってはその言葉全てが憎らしく聞こえるため、レイピアで掴んでいる尾を突き刺そうとする。
「……おっとぉ!」
ハヌマーンは即座にリーナの手を離し、空振りした彼女の顔面に尻尾を勢いよく打ち込む。
「グハァ!」
「二度と叫べねぇようにその喉嚙みちぎってやるよ!」
ハヌマーンは犬歯を伸ばし、再びリーナに突っ込んで行く。リーナはすぐに体勢を立て直し、上手に受け身をとると、突っ込んでくるハヌマーンにレイピアを突き付ける。
ガキィィィーーーーーーーーン‼‼‼‼‼
ハヌマーンはリーナのレイピアに噛みつくと、先ほどのように体内から数億ボルトの電圧をかける。
「負けるかぁぁ‼‼‼‼ ‶最強の雷撃〟‼‼‼‼」
バリバリバリバリーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼
リーナもレイピアから電撃を放ち反撃する。すると、ハヌマーンが放っていた電撃が逆流し、ハヌマーンの身を感電させる。
「ギャァァァーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼」
「お返しだァァァ‼‼‼‼‼‼」
リーナは拳に‶鋼筋武装〟を施し、本気のパンチをハヌマーンの頬にぶち込む。頬にめり込んだ拳はレイピアにかじりついていたハヌマーンを引き離し、部屋の壁にめり込ませるほどの勢いで殴り飛ばす。
「クソがァァーーー‼‼‼‼」
イラついたハヌマーンはめり込んだ壁を力づくでこじ開け、3度目の突進を測る。
するとリーナはなんとレイピアを床に突き刺し、両手両足に‶超神武装〟を行う。
「なめんじゃねぇ‼‼‼‼‼」
ハヌマーンは長い爪でリーナに斬りかかろうとするが、リーナはその攻撃を紙一重でかわし、ヒールを履いた足で下から蹴り上げる。長いドレスがフワッと浮き上がる美しい蹴りだった。
ピンヒールの底がハヌマーンの顎に直撃し、視界が一瞬で天井に向く。その隙を逃さなかったリーナは腹部に蹴り、正拳突き、回し蹴りの順番で攻撃を加える。そして最後にレイピアを抜き、‶雷突き〟で再び横壁に突き飛ばす。
「さっきお前が言ってた感情の昂ぶりで強くなるのはお話の世界だけだということだが……私もそう思う! だがなぜそんな私がお前にここまで攻撃を与えられるのか、それは元よりお前を倒す実力を私が身に付けてるからだ!」
リーナは腹部を押さえるハヌマーンに力強く断言する。
「……このクソ尼ァ‼‼‼‼」
ハヌマーンはリーナの言葉にひどく怒り、神力を放出させながら立ち上がる。