655話 『意外な再会』
大量の瓦礫に埋め尽くされた地下室からはかすかにうめき声が聞こえる。どうやら静香たちは無事だったようだ。しかし大量の瓦礫に閉じ込められてしまったことで牢屋にいたときよりも窮屈になっていた。
「ちょっと~! がれきの下敷きになって死ぬなんて絶対に嫌だからねぇ~! 『こんな死に方嫌だランキング』第2位に入るレベルだからねぇ~!」
「何ですかその変なランキングは? ってかそのランキング第1位がメッチャ気になるじゃないですか!」
ヘーボンは静香のボケにツッコミを入れられるほどには元気そうだった。
「け……剣さえあればこんな瓦礫、木端微塵にできるのに……ってあぁ!」
スラッシュバイツは瓦礫を手でどかしながら道を空けていくと、瓦礫に彼の武器、‶天刹那〟が転がっていた。
「これさえあれば……俺に斬れねぇものはねぇ!」
ズババババババァァァァーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼
目にも止まらぬ高速の斬撃が地下全体を飛び交い、何百トンも重さがある瓦礫の山を一瞬にして砂利にしてしまった。
「やった~出られたぁ~‼‼‼‼」
砂利の中から顔を出した静香は数日振りの外の景色を見ることができて感激する。
静香と同じように顔を出す者たちがいた。
「ああユマっち! 零龍さんは無事かな……ってあぁ!」
静香は数日振りに再会した仲間の顔を見てスラッシュバイツと同じようなリアクションをとる。
「静香! 無事だったのね!」
ロゼが静香の顔を見て思わず叫ぶと、「どこだどこだ!?」と叫びながら敦やフリックも砂利の中から顔を出す。
「みんな~、よくここまでこれたねぇ~! あれ? トムっちとポトフっちは?」
「え? さっきまで一緒に走ってたけど……」
ロゼが砂利山の上からあたり一帯を見渡すが、彼らの姿はない。すると砂利の奥深くから……
「ポトフ! さっさと出てこい! これくらい自分で上がれるだろ?」
トムの声が聞こえ、砂利が少しずつ盛り上がっていく。
「ポトフさん! 僕が今から引っ張り上げるので覚悟してくださいよ!」
今度はヘーボンの声が聞こえ、砂利の山が勢いよく噴き上がる。
200キロの巨体が宙を舞い、砂利の山を一撃で吹き飛ばす。
砂利山から転げ落ちたポトフは何故か重症の零龍とそれを看病するユマを抱えていた。恐らく奇跡的に彼らの上にポトフが降ってきて、その分厚い肉壁が重い瓦礫を弾いてくれたのだろう。
「ユマっち、零龍さんも無事でよかった」
静香がほっと胸をなで下ろし、天井を見上げる。
どうやら‶魔龍城〟の最上階以外すべての階の床が抜け落ちたようで、現在この城はドーム状の空間となっていた。
「一体何があったらこんなに城が壊れちゃうの~?」
「実は……」
ロゼは静香に今までのことを言いづらそうに話す。
「なるほど……ジャグバドスはそんなにも強かったのか~。それで‶幹部連中〟にあんな指示を出したのか」
「あんな指示とは一体何だ?」
敦は食い気味に静香に詰め寄り、問い質す。静香は若干驚きながらも地下牢の外で魔獣たちが話していたことを全て彼らに伝える。
「おい……それは本当の話か?」
敦の額から汗が流れ落ちる。‶人間界〟への侵攻という言葉がかなり刺さったようだ。
「本当の話だ。現にこの城にはすでに幹部連中はおろか、‶幹部補佐〟だっていない」
「……てめぇは誰だ?」
初対面の男がいきなり話し出したため、敦は抱いて当然な疑問を抱くのに少し間があった。
「彼は皆さんご存じのスラッシュバイツ・ザンザードさん。‶王の騎士団〟最強の剣豪ですよ」
「「「「えぇぇぇぇ――――‼‼‼‼‼‼」」」」
本人の代わりにヘーボンが説明し、ロゼたち一同は一斉に驚愕する。
「まさかまだ生きていたとは……」
「今まで一体どこへ?」
「そんなことはどうでもいいよ。ただ言えることは、今は幹部補佐を野放しする方が危険だって言うことだ」
スラッシュバイツはフリックとトムの質問を無視して説明する。ついでに剣を収めた瞬間、彼の性格が豹変したことにロゼたちは再び驚かされる。
「場所はこの城から東に数キロメートル離れた巨大な湖、‶魔獣湖〟……そこで恐らく空間転移の儀式でも行うつもりだと思うよ。僕は先に向かうけどみんなも早く追ってきてね!」
スラッシュバイツは優しい口調で話すと即座にこの部屋から消え去っていく。ロゼたちは彼の情緒の移り変わりに戸惑いながらも急いで後を追う。