654話 『地下牢での語り合い』
地下牢獄で囚われている静香たちはこの事実をもう少し早く知ることとなる。
彼女たちは‶魔獣軍〟の幹部に敗北し、戦いの傷を残したまま地下牢に連れて来られた。
「‶零龍〟が一命をとりとめたけど、長くはもたないかもしれません。あと何日もここに閉じ込められたままでしたら間違いなく命を落とすでしょう」
ユマはブリズリーと静香が戦っている間、敢えて戦いには加勢せず、体力を温存しつつ低いレベルであるが回復魔法を零龍にかけ続けていた。
しかし回復魔法と言うのは魔力の回復をするのがメインであり、体の傷などはその治癒力を促進させる程度の物であるため、一向に零龍の重症の体は治らない。
「ユマっち……少しは休みなよぉ~。もう3日間も寝ずに回復魔法をかけ続けているから~」
「ハハ……私はこれくらいしか役に立ちません。だから大丈夫です!」
ユマは気丈にふるまうが、素直な子だからその疲れ切った表情は一切隠せていない。
そんな時、看守の魔獣が2体ほどで何か会話をしていたので、ヘーボンは聞き耳を立てる。
「‶魔獣王〟様も随分と大胆な行動をするもんだな!」
「言えてる! まさかこの‶魔龍城〟をたった一人で死守して、あとの幹部の方々を全員‶人間界〟に送り込むなんてことを言いだすんだから!」
「幹部が‶人間界〟に侵攻!?」
ヘーボンは思わず声が出そうになる口を両手で塞ぐ。ヘーボンの言葉を聞いた静香も驚愕した顔を見せる。
「確か以前も‶第三幹部〟のレオメタル様が攻めに行って、大国が壊滅しかけたんだったっけ?」
この魔獣たちの言う大国とは‶マリアネス王国〟のことである。
「そんなレオメタル様と同格、いやそれ以上の強さを持つ魔獣たちが押し寄せてくるとなると‶人間界〟なんて1日も持たずに壊滅だな! ガハハハッ!」
魔獣たちは高笑いしながらユマたちの牢を通り過ぎていき、それに腹を立てた静香が鉄柵にしがみ付くのだが、ヘーボンは慌てて引き止める。
「でもこれは逆にチャンスじゃないですか? 厄介な幹部たちが皆いなくなるから‶魔獣王〟を倒しやすくなります! だからさっさと奴を倒して‶人間界〟へ……」
「そんな甘い考えは早々に捨てた方がいいよ」
牢屋の奥でスラッシュバイツがボソッと呟く。
「何故‶魔獣王〟がたった一人で城を守ると言っても他の幹部が反対しなかったか? それは‶魔獣王〟だけで俺達を全滅させられるという絶対的な自身があるからなんだ」
「ぜ、絶対的な自身?」
ユマと静香はゴクリと息をのむ。実際彼女たちは‶魔獣王〟を間近で見たわけではないため、その恐ろしさをよく理解していなかった。
スラッシュバイツの話を聞き、静香たちはしばらく黙り込んでいたのだが……
ドォォォォォォーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼
城全体に強い衝撃が加わり、地下全体が激しく揺れ始める。
「何ですかこの衝撃は!?」
「この地下室は外の魔力を完全に遮断してるから俺たちが魔力感知することは不可能なはずだ!」
「でも颯太っちともう一つ大きな魔力がはっきりと感じられるよぉ~!」
静香は地下室が崩れることを危惧して慌てふためく。すると途端に地揺れが収まり、巨大な魔力も感じられなくなる。
「一体何だったのでしょうか?」
ヘーボンは恐る恐るスラッシュバイツに尋ねる。
「うーん……多分‶魔獣王〟と‶龍斬り〟が外で戦ってるかもしれない」
「……颯太っち」
静香は颯太の戦いの無事を祈り、天上を見上げる。すると、天上に亀裂が入っていることに気付き、その亀裂がみるみると広がって行くことに驚愕する。
「ウソウソウソ~‼‼‼‼ これってまさかぁ?」
静香が想像していたことと同じことが起こったのだろう。地下全体の天井が崩落し、地下を見回っていた魔獣をペシャンコに押しつぶす。さらに天井の崩落は静香たちのいる牢獄にまで広がっていき、スラッシュバイツ以外が全員大声で叫び出す。
ガラガラガッシャァァァァァーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
地下全体が‶魔龍城〟の瓦礫によって埋め尽くされるのだった。