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652話 『命がけの持久戦』

 崩れた陸に海水が流れ込み、戦場は一瞬にして海上となった。


 爆炎をまともに受けた颯太の体はゆっくりと落下し、奇跡的に浮島の上に落ちることで水没を免れた。しかし彼の意識は完全に遠のいており、心臓も動いているかどうかも怪しいくらいだ。


「颯太ぁ!」


 いち早く颯太を見つけたリーナは急いで彼のもとに駆けつけようとするのだが、それを龍長老に止められる。


「今あそこに行けば君の命がない! 奴は雨宮颯太という好敵手を失ったことで今度は目に入ったものを皆殺しにするかもしれない」


「でもあんなところに放置してたら颯太君が……」


 ロゼもリーナに便乗して不安げな表情をする。


「彼の傷なら私が治せます。しかし彼の魔力までは回復させられない。だから君たちは城の中で魔力ポーションをできるだけ多くかき集めてください!」


 ジャクリンはそう言うとリーナを‶魔龍城〟のテラスに降ろし、颯太の元へ駆けつける。その後を追うように龍長老も飛び去って行く。


「今はあの方たちに任せましょう。私たちは颯太君の魔力を回復させるのが最優先だわ」


 ロゼは仲間内の最前線を走り、リーナや敦たちを先導する。




「……本気を出した結果がこのざまか。脆い……」


 ジャグバドスは真下で倒れている颯太を見下ろして軽くため息をつく。


「もうどの道放っておいても死ぬだけだろう。ならばこの‶魔獣王〟が最後に弔ってやろう」


 ジャグバドスは同情した目で彼を見つめ、指先から漆黒の光を生成する。


「これから俺は‶人間界〟の侵攻を開始する。だがもうお前と戦った時のような昂揚感はもうないのだろう……残念だ」


 ジャグバドスは最後にそう言い捨てると、‶漆黒の魔獣砲〟で颯太にとどめを刺す。漆黒の閃光は容赦なく颯太に接近し、浮島ごと破壊する、かと思いきや……


「‶不死鳥の守り(イモータル・ガード)〟‼‼‼‼」


 突如、業火の壁が現れ、漆黒の閃光から颯太を守る。黒光りは業火に吸収されていき、炎とともに消滅する。


「何のつもりだ雀臨。敗者に行き恥をさらさせる気か?」


「まだ彼は負けてません。彼はあなたとの戦いよりこの世界を守ることを優先した。あなたはそんな彼の善意に付け込んで勝負から逃げ出したのです!」


 颯太の前で雀臨はジャグバドスに啖呵を切る。


「この俺が勝負から逃げただと? よくもまぁそんな冗談が言えたもんだ! 俺は‶魔獣王〟だぞ!」


 ジャグバドスはたいそうご立腹で、地上に怒りの火炎放射をぶちかます。


 しかし運悪く、その炎が‶魔龍城〟に侵入していたリーナたちの方へ飛んでいき、雀臨は焦った顔を浮かべる。


「マズイ! あの方向にはリーナさんたちが!」


 ズバァァァーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼


 大火炎を爪のようなものが一振りで斬り裂き、その裂け目からソースイウルフが堂々と姿を見せる。


「何のつもりだ? まさか‶魔獣軍〟に所属しているお前が俺の強さを知ってて、その上で挑もうとしてるとは言わねぇよなぁ?」


「そのまさかだとしたら?」


「その無謀さだけは褒めてやる! 俺に挑みに来る奴は好きだ。だがそれなりの覚悟をしておけよ! 俺は手加減してでもお前らを消し飛ばしちまうんだからよぉ!」


 ソースイウルフはジャグバドスの忠告に聞く耳を持たず、‶超速移動〟でジャクリンのところへ駆けつける。


「あんたはこいつの傷を治すことができるんだろ? だったら‶龍斬り〟回復だけに専念してくれ!」


「承知しました。ですが相手は‶魔獣王〟ですよ?」


「ああ、‶龍斬り(あいつ)〟みたいに勝つ見込みで戦うわけじゃねぇ。この命に懸けてこいつの足止めをするだけだ」


「そう言うことでしたら、是非わしも力を貸そうではないか!」


 流れ込んだ海水を全て凍らせた龍長老がやって来る。


「これでもわしは‶王格の魔獣(ロイヤルビースト)〟じゃ。少しは役に立つと思うが」


「あんたの強さくらい敵だった俺が一番知ってるさ。だが命の保証はできねぇぞ」


「そんなもんとっくの昔に覚悟してるわい! 死んでいった同胞たちの無念を晴らすためならこの命、安すぎてまとめ買いできるくらいじゃ!」


「まとめ買い? 何じゃそりゃ!?」


 ソースイウルフは龍長老の冗談に不覚にも笑ってしまう。


「俺と戦える根拠は‶王格の魔獣(ロイヤルビースト)〟か……確かに魔獣の階級は同じだが、俺はそれ以上の階級がないからそこにいるだけだ! 格の違いをすぐにでも見せてやるよ」


 ジャグバドスはそう言い残すと、再び自身の姿を変え、10メートル越えのデフォルトの姿に戻る。


 ソースイウルフはその変身が戦闘開始の合図だと確信し、氷上を凄まじい速度で駆け出し、自身の鉤爪に神力をまとわせる。

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