641話 『天空の開幕戦』
「着いたぜリーナ! ここが世界一危険な城、‶最果ての魔龍城〟だ! その恐ろしさは地獄がかわいく見えるほどだ」
「……ゴクリ」
リーナは颯太の言葉に思わず息をのむ。そんなやり取りを見てソースイウルフは呆れた顔を浮かべる。
「今脅してどうする? もう後には引けないんだぜ!」
「何言ってやがる! リーナはこの程度じゃあ怖気づいたりしねぇよ。仲間のためなら地獄の果てまで向かって行く強い女なんだ!」
「そうだろ? リーナ!」と颯太が彼女の方を向いて尋ねると、リーナはコクリと頷く。
「ああ、前へ突き進むだけだ!」
「あ~そう言う友情くせぇ話はやめてくれ。魔獣の俺からしたら反吐が出そうだぜ」
味方側にいるソースイウルフだが颯太たちと仲間意識はないようだ。
そのようなやり取りをしているうちに、前方から無数の黒い影が接近してくる。
「てめぇら武器を取れ。敵軍の‶天空部隊〟だ」
「‶天空部隊〟だと?」
ソースイウルフの言葉に一番に反応したのは円城敦だった。
「だったら必ず奴も来るはずだ」
敦はそう呟き、拳に炎を込める。
「雑魚共は私に任せろ! ‶最強の雷撃〟」
リーナは槍を上空に向け、雷撃を空に放つ。すると雨雲が雷雲と変化していき、雷が雨のように降り注ぐ。
「ギャァァァァ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
飛んでいる敵に落雷は効果的で、短い時間で多くの敵を掃除することができた。
しかしそんな攻撃を躱して接近してくる魔獣もいた。
「お前の血頂キィィィ‼‼‼‼」
コウモリタイプの‶幹部補佐〟がリーナの肩に鋭い牙をむけようとするのだが。
「‶海神槍〟‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
ロゼの三叉槍から放たれた海水の槍はコウモリ魔獣の大きな羽を撃ち抜き、地面へと墜とす。
「なんて水圧だ! あんなのくらったらひとたまりもないぜぇ!」
飛行魔獣たちは彼女の攻撃に戦慄し、進行を止める。
「止まったところでもう遅い! ‶海神銃〟‼‼‼‼」
ドドドドドドドドド‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
機関銃の如く水の塊が発射され、多くの魔獣のご自慢の翼が撃ち抜かれてしまう。
「さぁ、どうする? 引き返すか!?」
どちらかと言えばおとなしめなはずのロゼが今回はかなり強気な態度で‶魔獣軍〟を脅す。それを聞いた魔獣のうち何体かは一目散に逃げ出していく。
しかしそんな彼女の脅しに一切怖気づかない魔獣がおり、逃げ出す魔獣を自分の体から伸びる鋭利な鉄で串刺しにする。
「俺にそんな水鉄砲は通じねぇよ!」
鋼の体を持つメタグリフィンが高速接近し、硬い爪をロゼに振りかざす。しかし……
「蒼炎天暴流脚〟‼‼‼‼‼」
ドォォォォォォン‼‼‼‼‼‼‼‼
蒼い爆炎をまとった右足でその硬い爪に迎え撃ち、見事その爪をドロドロに熔かかしてしまう。
「ほーう、あの時はまだ本気を見せてなかったってわけか? 円城敦」
「お前の攻撃は俺が全部熔かしてやるぜ!」
「熔かすだけじゃあ俺には勝てないんだぜ」
「何!?」
メタグリフィンは敦の炎を体に取り込んで急激に発熱し、自身の体を半液体状態にまで柔らかくする。
「目の前で見せてやるよ。特大花火をなぁ!」
半液体金属となったドログリフィンは自分の体の一部を抜き取ると、その液体金属の塊を勢いよく投げつける。すると……
ドォォォォォォーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
鼓膜を突き破るような爆発音と共に多くの液体金属が各地に散らばる。爆散した2000℃の鉄は地面に落下っすると一瞬にして火の海と化す。
雀臨に乗っていた颯太はリーナを守るために、黒刀から暴風を放って軌道を逸らし、敦たちを乗せている龍長老は氷の壁を張って全弾防ごうとする。しかし2000℃の熱はいくら龍長老の氷とは言え勝てるはずがなく、簡単に氷の壁を破壊してしまう。
「マズイ!」
ロゼは突き抜けてきた液体金属の弾丸を慌てて大量の海水で受け止める。海水の浮力を使って液体金属はたただのきんぞくとなって浮上するのだが、大量の海水を生成させてしまったことでロゼは相当体力を消耗していた。
「‶ケモビト族〟の村で魔獣料理を食べたことで魔力量が格段に上昇したのはいいけど……やっぱり大量の海水を生成するのはきつすぎるわ」
ロゼはハァハァと息を切らしながら‶魔導神装〟を解除する。
「こいつはかなり厄介だな! このドログリフィンと‶刀剣部隊〟の骸骨剣士に限っては‶魔獣王〟の次に倒すのが困難な魔獣と言われてるからよぉ」
ソースイウルフは舌打ちをしながら爪に神力を送り込む。するとそんなソースイウルフの両手を謎の糸がグルグルと巻き付き動きが封じ込まれる。
それだけではなく、大量の糸が颯太たち全員に襲い掛かり、まるでクモの巣にでもかかったかのように体が完全に拘束されてしまう。
「‶シルクトラップ〟」
拘束されたソースイウルフの前に現れた蝶の魔獣、‶シルクスター〟は高笑いしながら絹糸を垂らす。




