639話 『信頼できる仲間』
悪い情報と言うのは尋常ではないくらいのスピードで伝達される。すなわちリーナたちの耳に届くのに時間はいらなかった。
「なっ! 静香たちが捕まったって!?」
「そいつは本当の話なのか?」
ケモビト族の集落からリーナと敦の驚く声が聞こえる。
「ああ、事実だ。俺の持つ‶幹部フォン〟には‶魔獣軍〟の指令や情報共有を瞬時にできる機能が付いている。恐らく‶魔獣王〟が城に帰った直後の出来事だろうな」
ソースイウルフが携帯電話のような機械を触りながらリーナたちにそう言う。それを横で聞いていた颯太は悔しさのあまり床を力強く叩く。
「お、俺が勝手にこっちに戻って来たからあいつらが……」
「そんなことはない! 君が‶万物の世界樹〟に来てくれなければ雀臨様を助けるのはおろか、僕たちはとっくに全滅していたよ」
後悔する颯太を担任教師であるフリックがフォローする。
「だがそもそも俺がこの世界に連れてこられなければお前たちがこっちに来ることなんてなかったはずだ! 全部全部……俺のせいなんだ!」
「颯太お前いい加減に……」
バキィィーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
敦が颯太に何か言おうとしたその時……リーナが‶鋼筋武装〟した拳で力の限り颯太を殴り飛ばす。
「…ッ!?」
「いい加減にしろ! 俺さえいなければなんてお前らしくもないことばっかり言いやがって! そもそも今までの戦いで私達がここまで生きて来られたのは全てお前のおかげなんだぞ!」
殴られたことに困惑していた颯太にリーナが声を荒げて怒鳴りつける。そのとき彼女は今まで颯太に助けられてきたことを順番に思い出していた。
「いいか颯太! 私達はここまで私達の意思でやって来たんだ! この戦いも私達の意思だ! お前を助けようと思ったのも私達の意思だ! 全部私達の意思でして来たことだからお前が私達を悔やむ筋合いなんてない!」
「……リーナ」
「確かにお前から見たら私達は非力だ。魔力も神力も足りてない! でも私たちはお前の力になれるはずだ! だから私達を頼ってくれ!」
リーナがそう言うと敦がスッと立ち上がり握り拳をつくる。
「颯太、刀を構えろ」
「何?」
颯太は言われるがままに刀を構えると、敦はその刀に思い切り殴りつける
壁をぶち抜いて颯太は吹き飛ばされ、何とか足に力を入れて勢いを押し殺すことができた。
「これでも俺たちは力不足か?」
敦は指を鳴らしながら颯太に問いかける。
「そう言うことだ。何なら私の力も試してみるか?」
リーナも敦に便乗して拳を構える。颯太はリーナの顔を見て駆け出しの冒険者の頃を思い出す。そのときに出会った白髪の女性が颯太の視界に浮かび上がる。
『颯太君……決して人を信じることをやめないで。いつかきっと信頼できる仲間ができるから!』
「……信頼できる仲間……ね」
颯太はボソッと呟くと、刀を鞘にしまい、大きく深呼吸する。そしてバチンと自分の両頬を叩くと、
「よし! それじゃあ静香たちを助けに行くぜ! お前たち、足引っ張るんじゃねぇぞ!」
颯太が立ち直ったことに微笑むリーナ、敦、ロゼ、トム、ついでにポトフ。
そこへ空から雀臨が舞い降りて来る。
「戦いの準備ができたようですね」
「ああ、静香たちは絶対に助ける! ついでにジャグバドスをぶっ倒す!」
「フフッ、随分と強気な姿勢で関心ですね。では私の背中に乗ってください。ですが私が最高速度で飛び続けるためには3人までが限界ですね」
「ならばわしの背中に乗って行けばよい! 何人でもウェルカムじゃ!」
龍長老が自分の背中を見せつけて得意げに言う。颯太たちが大笑いしている中、ソースイウルフが新しい情報を入手し、颯太たちのところにやって来る。
「また悪い情報だ。‶魔獣軍〟が5時間後に‶人間界〟へ侵攻することが決まった。休んでる暇が無くなっちまった」
しかしそんな情報を聞いても颯太はもう動じることはなく、
「元からすぐに行くつもりだったんだ! 関係ねぇ! 雑魚魔獣一匹たりとも‶人間界〟には行かせねぇ!」
颯太はそう叫んでリーナの手を掴んで雀臨の背中に飛び乗る。そして雀臨は翼を大きく広げて勢いよく飛び出し、ソースイウルフもその背中に急いで飛びつく。
「待ってろよぉ! 静香、ユマ、ヘーボン! 覚悟しろよぉ! ジャグバドス!」
雀臨は颯太の掛け声と共に炎をまとい、さらに加速していく。その後を龍長老が凄まじい速度で追いかける。