633話 『白き目醒めの兆し』
「チィィィ! ‶龍斬り〟の奴、俺の邪魔ばっかりしやがってぇ!」
アシュラSコングは3人がかりで颯太を叩き潰せないことに‶第一幹部〟としてのプライドがズタズタにされ、かなり腹を立てていた。そんなアシュラSコングを気にもせず、颯太は怒り狂うアシュラSコングの斬撃を全て二刀で受け流していく。
「調子に乗るんじゃねぇ! ‶龍斬り〟‼‼‼‼」
ガルーダはそう叫ぶとくちばしの中から激しい光を放つ‶紅王の魔獣砲〟を発射する。しかしその閃光を颯太は直視せずに背面を向けたままかわし、その光はアシュラSコングに直撃する。アシュラSコングはそのまま勢いよく押し出されていった。
どうやらアシュラSコングだけではなくガルーダも相当イラついていた。それも当然であろう。ガルーダは‶魔龍城〟でも颯太に敗北に近い形で足止めをされ、今度は同格の魔獣3体相手でも颯太を止められないことにアシュラSコング以上にプライドや面子を潰されたのだから。
「こいつら……十数年程度しか生きてない小僧なんかに翻弄されやがって……!」
御鬼は颯太相手に怒りの感情をむき出しにしている同じ‶第一幹部〟の2体に憤りを感じていた。しかし本人は気づいていないだろうが、この魔獣も‶最強冒険者〟に翻弄されている。
その後も御鬼は颯太に棍棒を何回も振るうのだが、アシュラSコングの斬撃と同じように容易く刀で受け流される。
(何故だ! なぜこんな短期間でここまで力をつけてきた!? まさか‶邪滅教〟と‶魔龍城〟での連戦が奴の限界を超えさせたというのか?)
御鬼は以前、‶クリミナルアカデミー〟の抗争時の颯太の動きを映像で見て知っていたため、全く別人のように強くなった颯太にかなり焦っていた。
「やっぱこいつらに俺の攻撃はほとんど効いてねぇようだな~。奴らにダメージを与えるにはあの時の力しかねぇのかな~……」
颯太はそう呟きながら‶人間界〟で‶魔獣王〟に与えた一撃を思い出す。
あの時の白い邪神力、どうやって使えたのかいまいち覚えていないが、‶第一幹部〟の敵に致命傷を与えられるとすればそれしか方法はない。
しかしいくら全力で斬撃を振るっても颯太の邪神力は漆黒のままだ。
「ハッ! その程度の攻撃、いくら受けても効かんわぁ!」
「んなことわかってるさ! だがあくまで俺はお前らの足止め……封印棺を探すリーナに指一本触れさせなければ十分だ!」
そう言いつつも内心颯太はかなり焦っていた。斬撃を一切通さない‶第一幹部〟の頑丈な体に詰んでいた。
そしてその焦りは御鬼には見抜かれており、颯太への攻撃を突然止める。
「どういうつもりだ? まさか自分の手には負えないと思って逃げるつもりじゃねぇだろうな?」
颯太は巨大樹を見つめる御鬼に危機感を抱き、自分に注意を向けるように煽る。しかし御鬼は颯太のあおりに全く動じず勢いよく飛び上がる。
「待てぇ! ……って何だこりゃ!?」
颯太は御鬼を追うため黒翼を広げようとするが、その翼は微動だにしない。
「翼が……いや全身が全く動かせねぇ!」
颯太はすぐに御鬼の仕業だと察する。それも相手の影の動きを完全に封じる‶影鬼〟であることに。
「ガルーダ、アシュラ……お前らは動けない‶龍斬り〟の始末をしろ。俺はあの王女の首を吹き飛ばす!」
ガルーダは2人にそう命令すると、右腕に神力を流し込み、そのエネルギーを棍棒にまとわせる。しかしリーナは御鬼が殺意をむき出しにして接近していることに気付かず封印棺を探していた。
ガルーダとアシュラSコングは「言われなくてもわかってるわぁ」と言わんばかりの勢いで颯太に攻撃を仕掛ける。
颯太はその2体の魔獣を前にしても体の力を抜いて頭だけを働かせていた。
(ソースイウルフが言ってたな……確か以前ジャグバドスが‶第一幹部〟の4体をまとめてねじ伏せたことがあるって……だったらあの時御鬼は確実にジャグバドスに‶影鬼〟を使ったはずだ。‶影鬼〟を使われたら相手は攻撃を受けるのをただ待つだけの厄介な技。それを使ってもジャグバドスに勝てなかったというと、ジャグバドスの力は止められなかったと考えられる。つまり……)
颯太は何かを確信したのか、突如邪神力を全開にする。
「圧倒的な神力は数多の力をねじ伏せることができる!」
颯太はさらに邪神力を放出し大地を揺らす。
仮に‶影鬼〟を神力で抜け出すことができるとしても、それは‶魔獣王・ジャグバドス〟という最強の魔獣だからこそできたことである。しかし颯太はジャグバドス本気で倒す意思があるため、ジャグバドスと同等以上の力を持っているという根拠のない自信を持っていた。
人間であろうと魔獣であろうとそんな考えを持っている者はほとんどいないであろう。だが颯太は持っていた。最強に打ち勝つ信念を。
何故ならば彼は……‶最強冒険者〟だからだ!
「な、何だこのエネルギーは!?」
「白い邪神力……こいつまさか!?」
アシュラSコングは颯太の体から放出される漆黒の邪神力がみるみる純白のエネルギーに変わっていくことに驚愕する。ガルーダはその白い邪神力に既視感があった。
「ウオォォォォォォォォーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼」
颯太の体から純白のオーラが溢れかえり、影に憑かれていた呪いのようなものを打ち払っていく。
そして颯太は影の呪縛を解き放ち、突風と共に急上昇する。その白い神風はガルーダとアシュラSコングの人間の何倍もある体を遠く吹き飛ばす。
「やっと見つけた! あとはこれを破壊すれば……」
リーナは封印棺の蓋にレイピアを突き刺しててこの原理を使ってこじ開けようとする。しかし頑丈な蓋は中々開くことはなく、リーナはその作業で周りが見えなくなる。
殺意の塊が近づいて来ていることなど知るはずもなく。
「フハハハハハ! 初めから俺が本気で殺しにかかればよかったんだ! 王女を捕まえればこちらに有利になるどうこう考えることもなく!」
御鬼は開き直った子どものように高笑いをし、棍棒に赤い閃光で包み込む。
「‶落鬼殴り〟‼‼‼‼‼」
‶紅王の魔獣砲〟のエネルギーをまとった棍棒をリーナに向けて振りかざす。しかし……
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
背後から先回りしてきた白い刃がその棍棒を受け止める。
「邪魔をするなぁ! ‶龍斬り〟‼‼‼‼」
「俺の名は雨宮颯太」
「今更何を名乗ってやがる!?」
「世界を守る男の名だ」
ズバァァァァァァーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
颯太の斬撃は御鬼の棍棒を両断し、鬼の体に深い傷をつける。花火のように飛び散る紅い血は御鬼と共に地上にゆっくりと落ちていく。
「行けぇぇーーーーー‼‼‼‼‼‼‼」
リーナは両腕を‶鋼筋武装〟し、最大パワーでレイピアを押し込む。すると封印棺が徐々にひび割れはじめ、ついに……
棺の穴から復活の炎が噴き出し、巨大樹を神聖なる業火が包み込む。