632話 『聞きたかった言葉』
――時間軸は元に戻る。
ハヌマーンの遠吠えが鳴り止むと、巨大樹の下で大勢の魔獣や‶ケモビト族〟が倒れていた。
ハヌマーンが放った音波を耳にすることでその音波に紛れていた強い電磁波が鼓膜を伝って体内に浸透したことで、全身が感電したと思われる。
しかし電磁波を受けても尚立っていられる者もいた。
‶龍の一族〟だ。
龍の一族は巨体であるが故、電磁波を受けても全身の機能まで停止させられることはなく、翼や指先など繊細な動きを必要とする器官だけが使えなくなるだけで済んだ。
それほど強い電磁波のため、目の前で受けたロゼたちはかなり致命的なのではないかと思われたのだが、一人だけ立っていられる人物がいた。
「リーナ、あなた何故動けるの?」
「いや、それが私にもわからないんだ。確かにあの音はうるさくて鼓膜が破れるかと思ったが、特に体の痺れなんかはないぞ」
ロゼにそう言われ、リーナ本人もたいそう驚いていた。彼女から放たれる電気を感じ取り、ハヌマーンはそのからくりを見破り軽く舌を打つ。
「なるほど……能力に恵まれたか。だがこいつは面白い……だったら直接物理的に体を動かせなくさせるまでだ!」
ハヌマーンが長い尾を大きく振り回し、鞭のようにしならせながらリーナに打ち付けようとする。しかし……
「‶狼牙爪握〟‼‼‼‼」
ガキィィィィーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
横から飛び出したソースイウルフの爪に掴まれ、長い尾の高速の動きが一瞬で無力化される。
「てめぇも動けたか? ソースイウルフ!」
「あんたの攻撃は始めから分かっていたからな! ミミさえ塞げば感電の心配はねぇ!」
ハヌマーンはそうかとだけ言い残し、そのまま自分の体を後ろへと引っ張っていく。すると引っ張られた長い尾がゴムのような性質を持ち、そのままみるみると長く伸びていく。
「こ、こんな性質、聞いたことない!」
ソースイウルフは驚き、その爪を開こうとするが、尾先も勢い良く伸び、その手をからめとる。
そして何倍にも尻尾を伸ばして助走をつけると、そのまま下半身の力を一気に緩め、長い尾が凄まじい速度で収縮しようとする。その勢いに身を乗せながら両腕に神力をまとわせる。
「‶反動爪砲〟‼‼‼‼‼」
バゴォォォーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼
鈍い音が響き渡り、ソースイウルフの口元から紅い噴水が上がる。しかしソースイウルフの意識はまだ揺らいでおらず、長い鉤爪と強い握力でハヌマーンの顔面をガッチリと拘束し、血のようなドス黒い閃光を放つ。
「転んでもただで起きないのが狼の執念だ!」
ソースイウルフの手のひらから激しく輝く‶紅王の魔獣砲〟が発射される。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
至近距離の‶魔獣砲〟を顔面で受けたハヌマーンはさすがにダメージが大きかったのか、勢いよく吹き飛ばされていき、‶万物の世界樹〟からどんどんと離れていこうとする。
「ここから追い出されてしまえば封印棺を破壊されるに違いない! 何としてでも阻止せねば!」
ハヌマーンは危機的状況を察して再び長い尾を伸ばして枝を掴み、そのままゴムのように収縮させ、一瞬にして巨大樹に復帰する。
ソースイウルフは復帰してきたハヌマーンを追いかけるために枝葉の中へと突っ込んで行く。
「リーナ・マリアネス! あとはお前に任せる! お前に世界の命運を任せた!」
「ええぇ! いきなりそんなこと言われても~!?」
リーナは突然、元宿敵から世界の命運を任せられたことに驚愕し、困惑する。すると……
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
突然爆発音が響き、颯太が巨大樹の天辺まで吹き飛ばされてきた。
「颯太!?」
「俺からも頼む! お前ならできると信じてる!」
リーナは颯太からの言葉に衝撃を受ける。今まで彼の口からそのような言葉を聞いたことがないから。
それにリーナ自身が彼の口から一番聞きたかった言葉。
颯太は少し照れ臭そうな顔をすると、すぐに巨大樹から飛び出て向かってくるガルーダに攻撃を仕掛ける。
「絶対に……絶対に雀臨を助け出す!」
「そんなことさせると思うか?」
颯太がガルーダに応戦することでフリーになったアシュラSコングは剣を全て鞘に収め、手のひらから‶魔獣砲〟を生成する。しかも手が6本もあることで一度に6発も放つことができる。
「死ねぇ!」
アシュラSコングは殺意をむき出しにしてワインレッドの閃光を勢いよく解き放つ。
「させるかぁ!」
颯太は6発の‶魔獣砲〟を1発の‶魔獣砲〟で見事に相殺し、アシュラSコングのを睨みつける。
「てめぇらの相手は俺だ!」
颯太はそう啖呵を切り、アシュラSコングに斬撃を放つ。