629話 『猿神の強襲』
「みんな颯太に続けぇ!」
リーナの掛け声とともに彼女たちの巨大樹を駆け登る速度が格段に上がる。
「行かせるかよ! ブァーカ!」
‶幹部補佐〟を筆頭に大勢の魔獣がリーナたちを追いかけて攻撃を仕掛けてくる。しかし……
「人間たちを援護しろぉ!」
龍長老の命令と共に‶龍の一族〟が一斉に魔獣の群れに火を吐く。激しい炎にもがき苦しむ魔獣たちを、龍の背に乗っていた‶ケモビト族〟たちが追い打ちをかける。
「彼らは俺たちの希望の光だ! 絶対に邪魔はさせない!」
「クソッ! 死にぞこない共がぁ!」
吹き飛ばされた一体の魔獣が怒り交じりに‶魔獣砲〟を放とうとすると、その背後から数十倍の大きさの‶魔獣砲〟が放たれる。
「ギャァァァァーーーーーーー‼‼‼‼‼」
先程の魔獣は巨大な‶魔獣砲〟の巻き添えを受け、木端微塵に消滅していった。その巨大な‶魔獣砲〟はリーナのいるところへ突き進んでいき、いち早く勘づいた敦が炎の拳で受け止める。
「ウォォォリャァァァーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼」
敦は気合で炎の威力を高め、力づくで上空へ打ち上げる。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
その辺の魔獣とは比べ物にならない破壊的な雄叫びにリーナたちは驚き、全員動きを止める。
「この鼓膜を突き破るような雄叫びは……」
「こんなにも知能の無い叫びは奴しかいねぇだろ!」
バキバキと木々を薙ぎ倒し、敵味方関係なく叩きのめしながら突き進んでいく大熊にリーナたちは嫌な顔を浮かべる。
「グオォォォーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼」
「マズイ! ‶第二幹部〟だ! 確か奴はフリック先生が足止めしていたはず……」
リーナは先程までブリズリーと戦闘していたため、この魔獣の恐ろしさはここにいる誰よりも理解していた。そのためフリックに戦いを任せたことに深く後悔する。
「奴は私が止める! だからみんなは……」
「いいや、ここはにゃあに任せるにゃ!」
ミリファが木の幹から飛び降りて、ブリズリーに攻撃を仕掛ける。リーナはミリファの突発的な行動に驚愕する。
「フリック先生の仇は……絶対にとるにゃ!」
「俺はまだ死んでいなぁーい!」
ミリファに即座にツッコミを入れながらフリックが駆けつけ、光の弾丸をブリズリーに撃ち込む。
「フリック先生!」
リーナはフリックが無事だったことに一安心する。
「クソッ! 俺との戦いの途中に逃げ出しやがって! でもケモ耳少女と一緒に戦えるなんて夢みたいだ。グフフ……」
「なぁ第三王女、俺たちはフリックのあのキャラを受け入れなきゃならねぇのか?」
「それを私に聞くんじゃない」
敦が不思議そうにリーナに尋ねるが、リーナは呆れて答える気にもならなかった。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
フリックとブリズリーの戦いは次第に激しくなり、大きな爆発音が聞こえる中、リーナたちは後ろを見ずに巨大樹を登っていく。
そしてリーナたちが‶万物の世界樹〟の天辺まで登っていくと、そこには封印棺を探すソースイウルフがいた。
「よく来たなてめぇら、てめぇらも封印棺を探しやがれ!」
‶万物の世界樹〟世界一巨大な大樹ということもあり、枝葉だけで百メートル以上もある。そのため中の枝に引っかかってしまった封印棺を探すだけでも一苦労なのだ。
「とりあえずここは私とロゼで探す! トムと敦は上から襲撃してくる魔獣に備えてくれ!」
「ああ、とはいってもここを襲撃するのはガルーダくらいだぞ」
「そのガルーダも今は颯太の攻撃を凌ぐだけで精一杯そうだし」
敦とトムはガルーダが止められていることにかなり安心しきっていた。しかしそう言う時に限って危険がつきものであることを知らずに。
巨大樹よりはるか遠くから凄まじい足音が響き渡り、その足音はだんだんと大きく聞こえてくる。
「この神力……まさか!?」
ソースイウルフは見覚えのある波動を感じ、戦慄する。そして数百メートルもある‶万物の世界樹〟の天辺まで一飛びでたどり着く。
「グハァッ!?」
強烈な蹴りが敦とトムに直撃し、その足はメリメリと音を鳴らしながら鳩尾に入り、2人は滝のように血を吐き出す。
「不意打ちで厄介な人間どもを2人も始末できたぜ! 儲け!」
猿の魔獣はそのまま敦たちを蹴り飛ばして巨大樹から退場させる。
「誰だ!」
リーナたちは慌てて上へと駆け上がると、そこにはバチバチと雷を全身にまとう猿と人間が合わさった怪物がいた。
「‶聖霊界〟に侵攻してたあんたがなぜもう魔獣界〟へ帰ってきてんだ? ハヌマーンさん?」
「何ってそりゃあ……裏切り者の人狼を始末しに来たに決まってんだろ?」
ハヌマーンは長い爪でソースイウルフを指してドスの効いた声で威圧する。
「てめぇにこれ以上好き勝手されてしまったら‶牙爪部隊〟のメンツが丸つぶれだろうがよぉ!」
ハヌマーンは怒りでみるみると神力を放出させていく。その神力のオーラに‶ケモビト族〟の何人かは膝をつく。
そしてハヌマーンは大きく息を吸い込み、胸が風船のように膨らむ。
「‶電磁鳴音〟‼‼‼‼」
ULGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
ハヌマーンの激しい遠吠えはバチバチと強い電磁波を放ち、リーナたちや下にいる龍、ケモビト族までを行動不能にさせる。
この遠吠えにはさすがの颯太や‶第一幹部〟までもが耳を塞ぐ。