627話 『天空の王者』
「まさかあの‶第一幹部〟3体をたった1人で相手するのかにゃ!?」
さすがに無謀すぎると思うミリファの横でリーナはトムの回復を受けながら颯太の強さを信じていた。
「あいつは昔から勝算の無い戦いはしてこなかった。だからと言って勝負から逃げることもしなかった。あいつは絶対に勝算を作ってしまう、そんな強さと自信を持ってるんだ。悔しいことにな!」
敦はライバルながらも颯太の実力を賞賛しており、リーナと同様に彼を信じている。ミリファはそんな2人を見て颯太の戦いに胸を膨らませる。
颯太と‶第一幹部〟は互いに睨みつけ合い、その目を離すことはなかった。しかし、しばらくして先に目線を逸らしたのは颯太の方だった。
「あっ! あんなところにジャグバドスが!」
「「「何っ!?」」」
颯太の指した方向に全員が注目するが、そこには魔獣の気配すらしなかった。すぐにそれがハッタリだと気付いた御鬼が視線を戻す。
「チッ! ガキ見てぇなことしやがって! いつまで上を向いてやがる! お前ら!」
御鬼はよそ見をするアシュラSコングとガルーダを怒鳴り、背後から高速で不意打ちを仕掛ける颯太の斬撃を棍棒で受け止める。
「3対1なんだ。これくらいの小細工あってもいいだろ?」
「それだけには共感できるな。フェアな戦いばかりにこだわって無様に負ける愚か者よりは何千倍もましだ」
「チキショォォォーーーー‼‼‼‼ 正々堂々戦いやがれボケェェーーー‼‼‼‼‼」
御鬼が言ったそばからアシュラSコングは不意打ちに対して部ちぎれた。そんなアシュラSコングに颯太は思わずバカ笑いする。
「ブハハハハ‼‼‼‼ いたじゃねぇか! 愚か者がぁ!」
「フッ! 役立たずのバカがいなくても俺が負けることはない!」
御鬼はそう言い、颯太の斬撃を振り払って手のひらから氷の壁を生成する。
「これが‶氷鬼〟ってやつか! ソースイウルフの言ってた通り鬼の技は同時使用できないようだな!」
どうやら颯太は事前にソースイウルフに会っていたらしく、そいつからかなりの情報を入手していたようだ。
御鬼は氷鬼を使用したため、先ほど使用していた色鬼の効果が消え、黒以外の色の魔法も通じるようになった。
「じゃあ少し試してみるか! ‶烈風斬鉄剣〟‼‼‼‼」
颯太の刀に緑炎がまとわれ、その刀を振ると同時に炎の突風が生じる。
ズババババババァァァァーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼
熱風の斬撃は氷の壁に傷をつけるも、砕くことはできなかった。
「やはり異常な硬さだな! この氷で凍らされないようにしないとな」
「横ががら空きだぜ! ‶龍斬り〟‼‼‼‼」
ガルーダが横から割り込み、翼を大きく広げる。
「‶弾丸の羽根〟‼‼‼‼」
ガルーダは怪鳥の姿になり、自身の羽根からエネルギー弾を作り出す。そしてそれを一斉に発射して颯太に降らすが、颯太は反射的にもう一本の刀から風の斬撃を放つ。
「‶神風裂破〟‼‼‼‼」
突風で加速した斬撃が弾丸の雨を全て相殺する。ガルーダは相殺されることは想定内だったらしく、その隙を狙って颯太を鷲掴みし、空高く急上昇する。
怪鳥の掴む力は凄まじく、岩石も握りつぶせるくらいの力で掴まれている颯太は手足を動かすことすらできず、上空数千メートル地点で離される。
「ようこそ天空の世界へ。‶魔龍城〟では地上付近で戦ってたから本領発揮できなかったが天空では違う! 天空の王者相手にどれだけ抗えるか試してやろう!」
「天空の王者ねぇ……悪いがその称号、今日俺が奪い取ってしまうことになるかもしれねぇが悪く思うなよ!」
颯太は漆黒の翼を広げ、高速旋回を繰り返す。
「面白い。奪えるものなら奪ってみやがれ!」
ガルーダは颯太を上回る機動力で旋回し、颯太の後ろをとって‶魔獣砲〟を放つ。
「うぉっ! あぶねぇ……スピードでは勝てないな」
颯太はすぐに作戦を変え、2本の刀に邪神力を送り込み、雷と旋風をまとわせる。
「‶風刃雷刃・双鬼鉄裁〟‼‼‼‼」
颯太は風と雷の刀で斬りかかる。ガルーダは最初の一撃をかわして、両足に颯太と同じように雷をまとわせて蹴る。
「‶金雷の足武装〟‼‼‼‼」
バチバチと雷が走る両足と颯太の雷の刀が衝突し、地上に雷が降り注ぐ。その後も颯太の二刀とガルーダの両足が衝突を繰り返し、激しさは増していく。
それを地上から見ていた御鬼は棍棒を突き上げ、
「天空での戦いに‶地獄王〟はただ眺めるだけの見物者に……なるとでも思ったか?」
棍棒から銃口が姿を現し、ワインレッドの閃光を生成させる。
「‶紅王の魔獣砲〟‼‼‼‼」
御鬼はワインレッドの閃光を小刻みに発射し、機関銃の如く上空の颯太に撃ち込む。
「地上から‶魔獣砲〟!? あんなに距離あるのに的確に俺を狙い撃ちしてやがる!」
颯太はこまめに旋回を繰り返して御鬼の追撃をかわし続けるのだが、そのせいでガルーダの蹴りに遅れてしまう。
「俺も同じだぜ‶龍斬り〟……修羅の斬撃はたとえ天空にいたとしても逃れるすべ非ず! ‶殺斬剣〟‼‼‼‼」
アシュラSコングはそう言い凍らされた鞘から剣を力づくで抜き取り、御鬼に続いて上空に無数の斬撃を飛ばす。
アシュラSコングの斬撃は減速することなく上空を突き進み、分厚い雲を斬り裂いて颯太に襲い掛かる。
「今度は斬撃か!?」
颯太は焦って刀でその斬撃を打ち払うのだが、ガルーダへの注意が疎かになり、ガルーダの炎の蹴りを受けてしまう。
「‶火炎の足武装〟‼‼‼‼」
颯太は黒刀でその蹴りを受け止めようとするも、右手に力が入っていなかったため、刀を蹴り飛ばされてしまう。
「しまった!」
颯太は慌てて急降下し刀を拾うのだが、その隙をガルーダは逃すはずがなかった。
「その体にでっかい風穴ブチ空けてやる! ‶嘴爆裂〟‼‼‼‼‼」
ガルーダは颯太を超える速度で急降下し、颯太の背中に光輝くくちばしで突っ込む。
「ガハッ‼‼‼‼」
颯太は強い衝撃に思わず血反吐を吐き、そのままガルーダと共に地面に直行していく。そして……
ドゴォォォォォォォーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
落雷のように地面に直撃し、隕石のように大爆発を起こす。
リーナたちはその爆風で吹き飛ばされないように踏ん張る。
「颯太ァァァ‼‼‼‼‼‼‼‼」
彼女の叫び声は激しさを増す爆音にかき消されるのだった。
しかし、戦いに参加するすべての者がその爆風に気を取られている間に、何者かが足音を立てずに‶万物の世界樹〟の侵入に成功する。