622話 『厄災の監獄』
「よそ見してると痛い目合うぜ」
アシュラSコングの強さに気を逸らしてしまった敦に御鬼が棍棒を振りかざす。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
土埃が一面に舞う中、敦はその衝撃で吹き飛ばされて行く。しかし棍棒の直撃は何故か免れていた。
「龍が人間ごときを守るか……誇り高き‶龍の一族〟の名を汚すつもりか?」
御鬼は敦の代わりに棍棒の攻撃を‶龍鱗武装〟で受け止めたフレアドスを嘲笑する。
「ハァ……ハァ……馬鹿野郎、里の恩人をくだらない龍のプライドために見捨てたりなんかしたら……それこそ‶龍の一族〟の面汚しだ!」
フレアドスはそう啖呵を切り、両腕の鱗が砕けながらも棍棒を力で押し返す。
「すまねぇ! よそ見してた俺なんかのために! この失態は、この一撃で返す!」
敦は受け身をとるとそのまま走り出し、無詠唱で‶魔導神装〟を発動させる。そして蒼炎の炎をまとい、さらに火力を底上げし、今度は牛の化身を顕現させる。
「神の壁を超えたか!?」
御鬼は敦の神力が解放された姿を見て驚きの顔を浮かべる。敦はそんな御鬼の独り言は当然聞こえているはずもなく、右拳に蒼い炎をまとわせる。
「‶魔獣界〟の果てまでぶっ飛べ! ‶蒼炎天爆裂拳〟‼‼‼‼」
敦の拳から放たれる激しい炎に隠された殺気を御鬼は咄嗟に感じ取り、棍棒を構えてその拳を受け止める。
ドォォォォォーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
蒼い爆炎が広がり、その業火の中から御鬼が弾き飛ばされる。しかし御鬼は棍棒を地面に叩きつけることで衝撃波を生み出し、垂直に飛び上がって華麗に着地する。
「フッ、お前の中の‶魔獣界〟の果てとはここだったのか?」
自分を数メートルほどしか殴り飛ばすことができなかった敦を、御鬼は鼻で笑いながら煽る。
「お前の相手は敦だけじゃないことを忘れんなよ!」
フレアドスはそう叫ぶと、龍の姿になって敦の援護に入る。そして口を開いて高温の火炎を吐き出す。
「その程度の炎……くだらん! ‶氷鬼〟‼‼‼‼」
御鬼はそう言い棍棒を勢いよく振り下ろす。するとその振った方向に沿って氷の壁が生成され、激しい炎を完璧に防ぐ。
「お前らは鬼ごっこをいくつ知っている?」
「鬼ごっこだと?」
敦の頭に一瞬はてながよぎる。しかし彼が首をかしげる時間の余裕はなかったのだ。
「み、身動きがとれない!」
敦は傾げようとした首が全く動かず、手足すらも微動だにしないことに驚愕する。
「俺は人間どもが考えた鬼遊びを基にした攻撃をすることができる。この技の名前は‶影鬼〟……お前も知るあの遊びだ」
(か、影鬼か!)
「ご明察。この世に実在するすべての存在は、光に当たれば必ず影ができる。俺は実体の形をはっきりと映し出した影をどんなところからでも必ず止めることができる。そして影を止められた人や物は、その影に連動して止まる」
(クソッ! なんにも動かすことができねぇ! どうなってやがるんだ!? 奴は特に何かしらの合図をしてるわけでもねぇってのに……)
敦は解決策が見つからないからか、焦りと不安の気持ちばかりが募る。しかし表情すら動かすことができないため、他の者たちには伝わることがなかった。
「さぁ、チェックメイトだ」
御鬼はそう言うと、棍棒を正面に突き出す。するとその棍棒が縦に割れ、その中から銃口が露わになる。
そしてその銃口からワインレッドの閃光が輝き、‶魔獣砲〟が放たれる。
(クソッ! 動け! 動け! 俺の体ぁ‼‼‼‼)
敦は心の中で何回も叫ぶのだが、体を動かすことができず、ただじっと‶魔獣砲〟の直撃を待つだけだった。しかし……
バサッ‼‼‼‼
敦の上空をフレアドスが飛び、彼の影を巨大な翼の影が覆い隠す。すると途端に敦の体が動き出し、間一髪で‶魔獣砲〟を回避することができた。
「チッ!」
これにはさすがの御鬼も予想外で思わず舌打ちする。フレアドスはその動揺の隙を逃さず、炎の牙で襲い掛かる。
「‶氷鬼〟‼‼‼‼」
御鬼は咄嗟に手を出して氷の壁を生成させる。フレアドスはその氷にかみついたのだが、フレアドスの炎ではその氷を溶かすことはできなかった。
「今度は氷鬼か!」
敦はフレアドスの炎の牙が凍らされたことに驚愕する。フレアドスは炎を吐いて牙を溶かそうとするが、氷が溶ける気配はなかった。
「どうなってやがるんだ奴の氷は!?」
フレアドスは冷たい牙を触りながら困惑していた時、突然意味不明なタイミングで氷が溶け始める。
「一体何が……っ!?」
フレアドスは御鬼の方を見ると、その光景に唖然とする。
そこには何と同じ姿をした御鬼が何十、何百といたのだ。
「なんて数だ!? それよりも何で同じ姿をした奴があんなにいるんだ!?」
「まさか増え鬼か!?」
敦は幼少期に遊んでいたのを思い出す。
「こいつは‶増鬼〟……俺と同じ姿をした分身を無限に生成することができる。だが能力すべてをコピーしてるわけじゃねぇから敵を撹乱させるくらいにしか使えねぇが……」
「撹乱だと? そんなもの魔力を感知すれば……まさか!?」
敦は良からぬことを察してすぐに魔力感知をしたのだが、もうすでに遅かった。御鬼は魔力の気配を隠して分身の魔力量に合わせた。これにより完全に識別方法が無くなってしまった。
「どいつが本物だ!?」
「片っ端からぶっ潰せばいいだけだろ!」
フレアドスは考えるのをやめて、ひたすら鉤爪で御鬼の分身を斬り裂いていく。敦もやむを得ず分身を殴り続けて数を減らす。
「そう言えば言い忘れてた。‶増鬼〟で増やしたこの分身たちに一つだけ攻撃手段があったんだった」
「何っ!?」
敦とフレアドスの周りを分身が取り囲み、一斉に彼らに掴み掛かる。そして分身が山積みになったところで本物が魔力を放出する。
「行け! ‶鬼爆〟‼‼‼‼‼」
御鬼の合図とともに分身たちが一斉に光出し……
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
一斉に分身が自爆し、‶魔獣界〟の森や仲間の龍もろともあたり一帯が消し飛ばされる。
魔獣名:御鬼
説明 :‶王格の魔獣〟
‶魔獣軍・地獄部隊〟を指揮する‶第一幹部〟であり、‶魔獣王〟の側近。‶王格の魔獣〟の中ではかなり小柄な体格だが、どの魔獣よりも腕力があり、棍棒の一振りで山を一つ消し飛ばすことができる。また‶奇才者〟のような多彩な能力を使うことができ、目が合ってしまえば逃げ場などなく、‶厄災の監獄〟恐れられている。しかし部下からは‶地獄王〟と呼ばれ、慕われている。
全長 :2.1メートル
戦力 :590万
危険度:38