618話 『新しい弱点』
――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
熊の雄叫びが‶ケモビト族〟の戦士を吹き飛ばす。リーナはレイピアを地面に突き刺して踏ん張るが、突き刺したレイピアごとズルズルと後ろへ引きずられる。
やがてブリズリーは気が済んだのか急におとなしくなり、自分の胴に付けられたバツ印の傷を触る。すると再び大声を出しリーナに襲い掛かる。
「何なのこいつ! 怖すぎるんだけど!」
「奴の名はブリズリー。‶魔獣軍地獄部隊・第二幹部〟の‶王格の魔獣〟なんだけど、知能がとても低いんだ。やることと言えば雄叫びを上げることや力のままに敵を殲滅することだけ。ただ目的もなく暴れ続けるから‶魔獣軍〟の中でも一番厄介だったりするの」
ウサギ耳の少女がリーナの横でぶるぶると震えながら説明する。彼女は‶隠蔽〟の能力で自分の身を隠してはいるけど、あまりの緊張と動揺により、肝心の魔力が隠しきれていないでいた。
ブリズリーは知能が低い反面、高い魔力感知能力を持っているため、ウサギ耳の少女の存在を認知している。そしてリーナも彼女の魔力を感知しているので、今ここを離れた彼女が危険な目に合うのは重々承知している。
だからこそリーナは担任教師〟に戦いを任せているのだ。
「させるかぁ!」
フリックはリーナたちに向けて‶魔獣砲〟を放とうとするブリズリーの頭部を力の限り剣で打ちつける。
そう、通常の魔獣であれば、このひと振りで頭部はきれいに両断されるため、斬りつけると言うべきなのだが、ブリズリーの耐久力はその他の魔獣とは比べ物にならないから打ち付けると言った表現のほうがしっくりくる。
「刃が……通らない!?」
フリックはブリズリーの硬い頭を打ったことで自分の腕に振動が伝わったことに驚愕する。するとブリズリーは右手でフリックの頭をガシッと握り、そのまま自分の眼戦へと持ち上げる。そして大きな口を広げ、赤く輝く‶魔獣砲〟を生成させる。
「マズイ! こいつを至近距離で受けたら!?」
フリックは慌てて指先から光のレーザー砲を発射する。
「‶壊滅及ぼす光砲〟‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
フリックは眩しい閃光を至近距離から大熊に直撃させて離れようとする。
彼の放った閃光は‶魔獣砲〟と酷似しているように見えるが、‶魔獣砲〟は無属性の魔法であり、‶壊滅及ぼす光砲〟は光属性という大きな違いがある。さらに‶魔獣砲〟よりも魔力のコストパフォーマンスがよく、‶魔獣砲〟と同等の威力を放つことができるので、魔力量が上昇したフリックはこの技を連射することができるようになった。
先程の閃光も今までよりも多くの魔力を送り込んでいたため、その威力は以前の何倍も誇る。しかし……
「グルルル……」
ブリズリーはその光を受けても一切動じることはなく再び口を開いて‶魔獣砲〟を放つ体勢をとる。ついでにフリックの頭を離すこともなかった。
「クソッ! なんて頑丈さだ!」
ブリズリーは人の言葉など分からないため、彼の声を聞いても止めることはなくワインレッドの閃光を大きくさせる。
そのとき……
「ハァァァァ‼‼‼‼ ‶雷槍〟‼‼‼‼」
リーナが雷の速度で突撃し、雷をまとったレイピアでブリズリーの傷口を突く。その傷口から電気が流れ始め、体全身へと伝わっていく。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼
大熊の鳴き声が響き渡り、その手からフリックが解放される。彼女にとって大技でもない攻撃がブリズリーに強烈な一撃を与えたのだ。リーナはその結果に驚き、思わず攻撃の手を止める。
「助かったよ……リーナ」
「はい……でも一体何で?」
「恐らくあの傷口は相当深くつけられたものだね。それも結構新しい……だからこれはチャンスだよ! 誰に付けられた傷なのかは知らないけど、ここを攻撃すれば僕たちに勝ち目がある!」
フリックはそう言い、ブリズリーの傷口を狙って光弾を放つ。さすがのブリズリーもこれ以上痛い思いはしたくないらしく、その傷口を守りながら攻撃を受ける。
「…………」
リーナはあの傷口から感じられる自分以外の魔力に見覚えがあり、黙り込む。
(まさか……ね……)
リーナは余計なことを考えないようにし、フリックの攻撃に続く。