617話 『命を懸けた虚勢』
「あと一歩跳べることくらい最初から知ってたわ! 読みが外れて残念だったな!」
ガルーダはそう言うとくちばしを大きく開いてワインレッドの‶魔獣砲〟を放つ。
トドメの一撃化に思えたが、落石の中から同じ色の‶魔獣砲〟が放たれ、2つの閃光は勢いよく衝突する。
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
激しい爆風により、族長を押し込めていた岩石が全て取り払われ、炎を燃え滾らせた族長が姿を見せる。
「まぁ、この程度じゃあ死なないよな。俺に戦いを挑むくらいだから」
「いつまで俺たちのことを劣種と下に見ている? お前は今に‶ケモビト族〟の真の恐ろしさを目の当たりにすることになるぞ!」
族長はそう言い全身の炎の威力を底上げしてガルーダに突っかかる。ガルーダは族長の空中でのスピードを完全に把握していたため、人型の姿に戻って最小限の動きで彼の攻撃をいなす。
族長の攻撃は爆炎の広さが増し、より強力になった……かのように思えたが、実際は今までの攻撃に火力を少し上乗せした程度で、ガルーダはすぐに族長の意図を見抜いた。
「やはりただのハッタリだったか? 全魔力を放出してあたかも真の姿を見せたかのように見せかけて俺の注意を自分だけに向けさせる。そして俺の視線から逸れたあの小娘共の安全を確保させるつもりだったんだろ? よくできた考えだったがはったりを見せるには少しパワーが物足りなかったな!」
ガルーダはそう言うと素手で族長の蹴りを受け止めて地面へと叩きつける。
「残念ながら‶魔獣軍〟は非情な集団。俺が指図せずともあの小娘共はいずれ死ぬ」
「な、何を……」
「よく見てみろよ」
ガルーダがそう言い親指でロゼたちのいるところを指す。族長もその方向に目を向け、絶望する。
「ガルーダ、こんな劣種相手に時間をかけすぎだ!」
「相変わらず仕事が速いな、御鬼」
ガルーダは御鬼のいるところに目線を傾ける。御鬼の手のひらからは氷が生成されており、その氷でロゼとミリファが凍らされていた。
「君たち!?」
「この氷に衝撃を加えれば、この女たちの体は無惨に砕かれる。ガルーダの言う通り、お前の読みは完全に外れたな」
御鬼はそう言い、その場を立ち去る。見逃してくれたかと思いきや、その先でガルーダが怪鳥の姿になって、くちばしに最大限の神力を送り込んでいた。
「ここはお前に譲ってやる。その代わりに族長のトドメは俺が指す」
御鬼はそう言い、棍棒を引きずらせながら族長に近づく。
「俺はお前を殺したつもりでいたが、まさか生きていたとはな……これは俺の失態、俺自身でけじめをつけてやる」
「クソッ! 体が重い、めまいがする」
族長はこの‶野生神爪〟が使えるようになって間もないため、その代償がかなり大きい。その代償の大半を疲労が占めており、元々御鬼の攻撃を回復しきれなかった状態にさらにその代償が加わっているから意識があるだけでも大したものである。
そして絶体絶命の危機は族長だけではなく、ロゼとミリファにも迫っていた。
ガルーダは自慢のくちばしを光輝かせ、突進する体勢をとる。あれだけ神力をまとわせていれば、直撃した際、彼女たちは塵も残さないくらい完膚なきまでに消滅してしまうだろう。
「あの子たちだけは絶対に……」
族長は霞んだ眼をゴシゴシとこすって力づくで立ち上がる。そして両足に神力を送り、炎を噴き上げる。
「その足で俺の一振りをよけられると思ってんのか? おめでたい奴だぜ! 俺の忠告通りに逃げてればこんなことにはならなかったのによぉ……」
「逃げたら苦しみが続くだけだ。お前もジャグバドスにいつまでもビビッてんじゃねぇぞ」
族長の一言が御鬼をブチ切れさせる。
「……殺す!」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
地面は大きく抉られ、岩盤が盛り上がり、味方の魔獣すらその奈落へ叩き落す。
しかし崩れる地面をまたいで族長は空中を走る。それと同時にガルーダが光のくちばしを構えて突進する。
「‶嘴爆裂〟‼‼‼‼‼‼‼‼」
「させるかァァァァァーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
ドォォォォォーーーーーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
族長の魂の叫びと共に大爆発が生じる。しかしその爆風はある一点を境にV字型に逸れていき、その一点先の木々は火の粉すら当たることがなかった。
ロゼとミリファは凍り付いていても意識を保っており、ガラスのように透き通っていた氷に大量の鮮血が付着する。そして煙の中から族長の背中が垣間見え、その背中から……
((ぞ……族長……))
ガルーダのくちばしが肉を破る。