614話 『劣火の強襲・後編』
‶ケモビト族〟と‶地獄部隊〟の戦いは時間が経つにつれて激しさが増し、10分ほどで‶万物の世界樹〟周辺の森林は焼き尽くされていた。
魔獣同士の戦いということもあり、東西から‶魔獣砲〟が飛び交い、この戦場に逃げ場など存在しない。
人間同士の戦いは兵の数が多い方が勝率が上がるのに対して、魔獣同士の戦いはより強い個体の魔獣を持っている方が勝率が上がる。
それはすなわち、‶第一幹部〟よりも強い者がいない限り、‶ケモビト族〟側に勝機は薄いということになる。
「おい、さっさと儀式を始めるぞ。早く雀臨を上へ引き上げろ!」
御鬼はこの戦いが長引けば、儀式の開始が遅くなることを危惧して、部下の魔獣に封印棺をロープで持ち上げるように指示を出す。
しかしこの儀式を未然に防ぐために戦いを吹っ掛けたリーナたちがそんなことを許すはずがなく、
「‶最強の雷撃〟‼‼‼‼‼」
バリバリバリバリーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼
雷鳴が激しく響き渡り、封印棺を引き上げていた魔獣を感電させる。そして御鬼の前に一人の少女がスッと降り立つ。
「そんな儀式、させるわけないだろ!」
「リーナ・マリアネスか。戦力130万でマリアネス王国第三王女……厄介な奴が来たな」
「そうだ、私はとても厄介な女だ! 駄目だと思ったことは意地でもやめさせてやる!」
リーナはそう言い、デバイスを起動させ、モンスタートラックを出現させる。
「トールよ! この鉄の魔獣に雷神の生命を与え給え! ‶魔導神装!」
バリバリバリバリーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
再び雷鳴が響き渡り、リーナは分解された車の中へと吸い込まれる。そして分解された部品が形を変えながらドッキングし、1体の巨大ロボットが出来上がる。そのロボットからは凄まじい神力が解き放たれる。
「くらえ! これがパワーアップした雷神の力だ! ‶閃光拳〟‼‼‼‼」
雷神が振り上げた右拳が光輝き、その鉄塊を御鬼に振り下ろす。しかし……
「貸し1だ! 御鬼!」
突如、御鬼の背後から雷神ロボットよりも巨大なアシュラSコングが現れ、6本の剣で攻撃を受け止める。
ガキィィィィーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
甲高い金属音が鳴り、リーナの攻撃は簡単に押し返されてしまう。
「別にお前の手なんか借りなくてもよかった」
「っるせぇ! こんな斬りがいがある敵が現れてじっとしてられるか! ついでに助けてやっただけだ!」
「フッ、そいつは返す必要がなさそうだな」
「仲良しか!」
リーナは殺し合いするほど仲が悪いはずの2体の魔獣のやり取りに思わずツッコミを入れる。
「そのロボットってやつは硬ぇのか?」
「ああ、頑丈に決まってんだろ! そんなやわな剣くらい、簡単に砕いてしまうぞ!」
リーナはそう言い、左拳に電気エネルギーを最大まで送り込む。
「覚悟しろ! ‶雷神の一撃〟‼‼‼‼」
リーナは雷をまとった左拳でアシュラSコングに殴り掛かるのだが、アシュラSコングはその攻撃を前にしても一歩も下がらず、剣を構える。
「‶破裁断頭剣〟‼‼‼‼」
ズバァァァァァァァーーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
6本の剣を一点に向けて振り下ろし、巨大ロボットの左腕を斬り飛ばす。そして斬られた腕は何十回転もしながら宙を舞う。
「……なっ!?」
リーナは機体が傾いたことに動揺し、後ずさりする。
「リーナ! そこを離れろ!」
下からフリックの声が聞こえ、咄嗟に‶万物の世界樹〟の枝から飛び降りる。
するとアシュラSコングは6本の腕を交互に連続で振りまわす。
「‶殺斬剣〟‼‼‼‼」
ズババババババァァァァーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
今度は連続斬りで、一本一本の剣から斬撃が放たれ、地上に斬撃の雨が降り注ぐ。飛ばされた斬撃は大樹の枝や、下部の森林を次々に伐採していく。リーナのロボットもそれに巻き込まれ、装甲に無数の傷が入る。
リーナは機体の限界を察して‶魔導神装〟を解除させる。解除されたモンスタートラックの左前輪は根元から破壊されていた。
「大丈夫か? リーナ」
フリックが慌ててリーナの下へ駆けつけ、彼女の心配をする。
「大丈夫ですフリック先生。ダメージは全部この子が受けてくれましたので」
リーナは先生に笑顔で応え、車を指す。
「あまり正面切っての戦闘はやめた方が良さそうだ。あれを見ればわかるよ」
フリックはそう言いリーナにある場所を指し示す。リーナは言われた通りにその場所に視線を向け、驚愕する。
何とそこは大きく斬り裂かれた大地があり、その断面からはアシュラSコングの魔力が感じられる。
「これほどの力を持つ魔獣がこの場に2体もいるんだ。奴らとの戦いにこだわって戦力を減らすよりもまず、ここにいる雑魚たちを倒す方が利口だ」
こればかりにはさすがのリーナも納得せざるを得なくて渋々頷く。
「リーナはしばらく休んでいなさい。個々の敵は全部僕が倒す!」
フリックはそう言い、剣を抜く。そのとき……
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
巨大な‶魔獣砲〟が彼らの真横を通り過ぎ、大勢のケモビト族が吹き飛ばされていった。
「な、何だ!?今の‶魔獣砲〟は‼‼‼‼」
明らかにその辺の魔獣が放った魔獣砲ではなかった。ましてや威力だけで言えば、‶第一幹部〟のアシュラSコングよりも上かもしれない。
「な、何だこいつ~!」
「逃げろ~‼‼‼‼」
嘆くケモビト族が次々となぎ倒されて行く。そしてリーナたちの前にその巨体を見せる。
「こいつってさっき倒れてた……」
「い……生きてたのか?」
彼女たちの前に現れた怪物、それは‶地獄部隊・第二幹部〟のブリズリーだった。
「き、北の方からも巨大な魔力が!」
ケモビト族の一人の報告に全員が北の空を見上げると、その先からこちらへと近づく鳥がいた。
「あの魔力は前にも感じたことがあるけど……なんで姿が違うの!?」
ロゼは高速接近してくる怪鳥を見て汗水が止まらなくなる。
10メートルを超える怪鳥は視界に‶万物の世界樹〟が確認できると甲高い声で雄叫びを上げる。