606話 『時間との戦い』
‶魔獣砲〟の暴発の音を聞き、流石のユマも気づいて後ろを振り返る。
「ヘーボンさん!? それに魔獣も……一体いつの間に」
「ユマさん! 無事でしたら急いで邪神力を送り込んでください!」
「は、はい!」
ユマはヘーボンに言われ、慌ててセンサーに手をかざし邪神力を送り込む。
(ヘーボンさん、私を守ってくださりありがとうございます。あなたが作ってくれたこの時間、決して無駄になんかさせません!)
ユマはそう心の中で思い、彼のためにも急いで邪神力を送ろうとする。
「てめぇらええ加減にせぇよ! ‶魔獣王〟様しか入られへん部屋をこんなにも無茶苦茶にしよって!」
「いや、部屋をこんな風にしたのはあなたの‶魔獣砲〟が原因ですよね!?」
ヘーボンはシルクスターの復活に驚きつつも、この魔獣の言っていること矛盾さに思わずツッコミを入れる。しかしツッコミを入れることに夢中になっていたせいか、肝心なことに気付くのが遅れる。
「待ってください……な、なぜあなたが動けるんですか!?」
「胴体をぶった切ったはずなのに、ってか? 残念だったな? 勝手に体をぶった切れば死ぬと思い込んだてめぇの負けや! 魔獣の生命力……舐めたらあかんでぇ!」
何とシルクスターは自身の斬られた胴体を自慢の絹糸で固定することで疑似的に断面を接合させていたのだ。
「‶シルクテープ〟……こいつで張り付けた傷口は3分もあれば完全回復を果たすんや。それに張り付けている間は痛みも全く感じひんからほぼ万全に戦うことができるんや!」
その証拠に‶龍の里〟でトムの光の弾丸によって、羽に風穴を空けられてしまったが、今ではその傷が完治されていた。
「素の治癒の力を持った絹糸は厄介ですね。再生しきれないほどに木端微塵にするしか方法はなさそうですね!」
「おいおい、誠実なやつかと思ったら結構残虐な性格してるやないか? こりゃちょっとは楽しめそうやな」
シルクスターはそう言うと絹糸を大量に放出して強靭な剣を生成する。そして同じ物を後5本生成するとそれを6本の足でつかみ取る。
「‶シルクブレード〟‼‼‼‼」
シルクスターは‶天空部隊〟の幹部に相応しい高速旋回を行い、ヘーボンに斬りかかる。しかしヘーボンは圧倒的な剣術で6本の糸剣による高速連撃を全てたった1本の剣で受け捌く。
「なんやと!? 1本の剣ごときに負けるやと!?」
シルクスターは生成した6本の剣全てが刃こぼれしていることに驚愕する。
ユマもヘーボンの強さを目の当たりにして同じように驚愕していた。
「ユマさん! 今のうちです! 僕がこいつの足止めをしている間に早く!」
ユマはヘーボンの言葉で我に返り、急いで邪神力を送り込む。
「させるかと言っとるやろうが!」
「それはこっちのセリフです!」
シルクスターは再び剣を生成させ、その刀身を糸の特徴を生かして極限にまで伸ばして攻撃する。しかしそれをヘーボンが防ぐ。
「ヘーボンさんが命を懸けて時間を稼いでいるんです! だから私も絶対に任務を達成しないと!」
ユマは颯太と違い、膨大な邪神力を持っているわけではないため、邪神力蓄積のメーターが50%まで達した時にはかなり疲弊していた。
不幸なことに彼女が息を切らし始めたのと同時にヘーボンの‶魔導神装〟も解除されてしまったのだ。
「オイオイ!? バテるのがちょっと早すぎるんやないか?」
‶魔導神装〟が解除された途端、ヘーボンの動きが格段に悪くなり、先ほどまでは軽々とかわしていた絹糸の鞭攻撃もまともに受けてしまう。そして彼の手足を拘束すると、その鞭全体に茨を追加して連続で打ち続ける。
「ガァァァーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
ヘーボンの悲鳴が部屋越しから廊下に伝わっていく。