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30話 『飢える者たち』

「……朝か?」


 颯太は旅館の一人部屋の中で目を覚ました。しかしその周りにはクラスの女子たちがひどい恰好をして寝ていたのである。

 颯太はその光景を目にしたら、急に頭が痛くなり頭を抑え始めた。


「思い出せ! 昨日何があったのかを……」





 ――昨日


 ソウチョーウルフを倒した颯太とクラスのみんなは他のクラスよりも3時間遅れて旅館に到着したのだった。

 颯太たちが旅館に到着した時にはもうすでに夜になっており、宴会を始めようとしていた。

 フリックが颯太の場へやってきて、


「颯太君、君はかなり疲れているだろう? 部屋でゆっくりと休んでおくといいよ」


と優しい声で心配してきた。


「何を言っているんだ、先生! 修羅場を乗り越えての酒ほどおいしいものはないじゃないか!」


 颯太は心配するフリックに断言した。


 宴会が始まり、颯太は酒を飲みまくっていた。リーナは酒を飲んでいてみるみる体力を回復していっている颯太を見て驚いて、声も出なかった。

 そこにロゼが酒瓶を持ってきてやってきた。


「私が注いであげる」


「おお! すまねえな!」


 頬を赤くした颯太はロゼに酒を注いでもらった。


「颯太君、本当にお酒が好きなのね」


「ああ、冒険者やっていた時も、ダンジョンに入ったらろくな食事なんてできやしないんだよ。そんで死に物狂いで魔獣を討伐してやっとのことで酒場まで戻ってきて他の冒険者たちと宴をしてみんなで楽しく酒を飲むのがたまらなくてな! 魔獣との勝負の疲れなんて忘れてしまうんだよなあ! でもそのせいで依頼金全部吹っ飛ぶんだけどな!」


 酒を飲みながら楽しそうに笑う颯太を見てロゼもニコッと笑っていた。


「どうだロゼ! お前も一杯どうだ?」


「じゃあ私も飲んでみようかな」


 颯太の誘いにロゼも頷いて注いでもらった。


「おい! ロゼばっかりずるいぞ! 颯太、私にも注げ!」


とリーナが怒りながら言ってきた。

 リーナの後ろからもクラスの女子たちが、「私にも注いでー!」や「キャー!」など言いながらコップを持ってきてぞろぞろとやってきた。

 颯太はソウチョーウルフとの戦いによってクラスのみんなから英雄扱いされているのだ。


「あわてるな! お前ら順番に並べよな!」


 颯太はクラス全員に酒を注ぎ終わると、ため息をつきながら酒を飲んだ。そこにトムがやってきて、


「大変だな、英雄様は」


と言って颯太をからかった。


「からかうなよ! お前だってモテモテのくせに」


「僕はロゼさん以外には興味がないんだ。それにしてもあの黒い力はいったい何なんだ? ‶魔導神装〟っていうわけでもなさそうだな」


「ああ、俺にもよくわからねえんだ。あの刀をダンジョンで見つけて以来この力を使えるようになったんだ」


 颯太は宴会広場の隅に置いてある黒刀を指さして言った。


「じゃああの刀にその黒い力が宿っているのか?」


「いや、そういうわけでもないみたいなんだ。あの力は紛れもなく俺自身の力なんだ。あの刀は俺の奥底に眠っている力を引き出すための物ではないかと思うんだ」


「なるほどね~」


 トムは颯太の言っていることに納得してその場を立ち去った。


「さすがに眠いな、そろそろ部屋に戻ろうと」


 颯太は目をこすりながら宴会広場を出ようとすると、


「ギャァァァァァーーー‼‼‼」


とトムの叫び声が聞こえてきた。


「!?」


 颯太は急いでトムの方へ駆け寄ったら驚愕した。

 何とトムは身ぐるみをはがされて、全身にキスマークがついて気を失っていた。

 颯太は身震いして周囲を見渡すと、先生や男子生徒たちがみんなトムと同じような目にあっていた。

 しかしポトフだけは被害を受けていなかった。


「おい、ポトフ! これは一体どういうことだ!?」


 颯太は恐る恐る聞いてみると、


「女は、恐ろしいでフ!」


とポトフはガタガタと震えながら言った。

 颯太は焦って女子たちの方を振り向くと、女子たちの様子が変だった。


「この男でも満たされないぞ、やはり颯太だ、颯太はどこにいるーーーーーー‼‼」


 リーナは何かに飢えているような顔をして颯太を探している。


「リーナ様~、颯太君いましたよ~」


 ミーアもリーナと同じような顔をして颯太のいる方へ指をさした。

 リーナは颯太を見つけると、目の色を変えてよだれを垂らしながら、


「み~つけた!」


と言って飛びかかってきた。そして奥からも女子たちが大勢で颯太に飛びかかってきた。


「ひぃぃぃーーーー‼‼‼」


と颯太は悲鳴を上げながら逃げ出した。颯太にとって今の彼女たちは性欲に飢えている動物のように思えた。


「一体なんであんなに性格が豹変していたんだ?」


 颯太が走りながら試行錯誤をしていたら、


「…………酒か~‼‼」


と自分のしたことを思い出して後悔していた、。


 颯太はいち早く自分の部屋に戻ろうと思ったが、


あっちに行っても、


「ギャーーーー‼‼‼」


こっちに行っても、


「ギャーーーー‼‼‼」


そっちに行っても、


「ギャーーーー‼‼‼」


とどこへ行っても女子たちが回り道をして待ち伏せをしていたので颯太は思うように移動することができなかった。

 しかし颯太は女子たちの防壁の隙間を見つけて、


「‶疾風脚〟‼‼」


と言って超速移動で女子たちの防壁を突破することができたのである。

 そして颯太は自分の個室に入ることができて、急いで鍵をかけた。

 颯太はふぅと汗を拭きながら、


「やったー! 脱出成功だー‼‼」


と喜びをかみしめていた。しかしつかの間の喜びだったのである。

 颯太の個室の押し入れから飢えた女子たちが飛び出してきた。さらにせっかく颯太が鍵を閉めていたのに、1人の女子がドアの鍵を開けたのである。

 ドアの鍵を開けたことによって大勢の女子たちの進行を許してしまったのである。


「さーて! 颯太、風呂場の仕返しとでも行きましょうか‼‼」


とリーナがよだれを垂らしながら近づいてきた。


「や、やめっ! ギャァァァーーーーーーーー‼‼‼」


と颯太は旅館全体に響き渡るくらいの悲鳴を上げて、目の前が真っ暗になった。






 ――現在


「うぅぅぅ! この先のことがどうしても思い出せない!」


 颯太は寒気を感じながら、体全身につけられたキスマークを見た。

 颯太は自分の体にしがみついて寝ているリーナの頭をポンと触りながら、


「もうお前らには酒を飲ませないようにしよう!」


と心に決めて洗面所に向かった。





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