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――まただ、やっぱり視線を感じる。
麻友から離れた瞬間に誰かが後ろにいる気配を感じる。なんていうんだろう。前はじっと見続けられる感覚に似ていたけど今回のは少し違う。ねっとりと絡みつく視線に肉食獣の獲物にでもなった気分になる。
逃げるように部屋に入ろうとすると、入り口にある郵便受けに封筒があったのでそれを取り部屋へと急いだ。何とか部屋に入ると違和感があった。
しかし、気にせず、封筒の中身を見ると、白い紙に赤いインクのようなもので「君を見ている。逃がさない。」と書かれていた。
鳥肌が立ち思わず封筒を床に落としてしまった。すると、封筒の中から、たくさんの写真が落ちてきた。食事をしている写真や勉強している写真、さらには着替えをしている写真もあった。そのどれもが私の写真であった。
言い表せない不安が私を襲った。すると、スマホの着信音が鳴った。その電話に出ると、テレビで聞くような加工された声が電話の向こうから聞こえた。
「ボクノプレゼント、キニイッテクレタ?」と、それだけ言うと電話はすぐに切られた。
私は、まだ終わっていないことを確信した。不安で頭がいっぱいになりながらもなんとか平静を保つためにも、飲みものでも飲もうかと冷蔵庫を開けると、中にはぐちゃぐちゃに散乱した食材があるだけであった。
まるで恨みを晴らすかのように食材はすべて潰されていた。
もしかしてと思い、クローゼットの中を見るとそこには切り裂かれた衣服があるだけであった。
するとまたスマホの着信音が鳴った。恐る恐る電話に出ると
「イガイトダイタンナシタギナンダネ。ダメダヨ、ダレカニランボウサレチャウヨ。ボクガミツヅケテ、マモラナイトネ。」といい、また一方的に切られたのであった。
この部屋に入ることができるようになった、理解した瞬間、恐ろしくなり部屋を出て駆け出した。こんな状況で頼れるところは今の巫子には一つしかなかった。『晴屋』だけだ。
「そんなに慌ててどうしたんですか?」と優しい声で巫子を気遣うように話しかけた。
どう考えても普通ではない焦り方であり、入ってきて座ってからも少し震えているのが見て取れる。よっぽど怖い目にあったみたいだ。まさか、あいつが……と考えたがそんなことはないだろう。
男子大学生飛び降り自殺 ストーカー行為の末に
と大きな見出しで書かれた新聞が想思の手のもとにはあった。
「誰かに見られているのがまだつづいています。今度は、家に入られて服や冷蔵庫が荒らされました。しかも、こっちの様子を見ているみたいに電話してきて」巫子の震えは止まっていない。
彼女を落ち着かせるのが先だなと判断し、真魅とともに落ち着かせるのであった。
しばらくすると巫子もどうやら落ち着いてきたようだった。
「前の視線の犯人のストーカー行為は確かに辞めさせました。」そう言い信じてもらうためにも「ほら、見てください」といい、新聞を巫子に渡した。
「え、死んじゃったんですか?なんで?」と逆に動揺を与えたみたいだったが、頭の中には解決していないということへの疑問が頭を占め、巫子のことなど気にもしていなかった。
真魅が「ストーカー行為がばれた末の自殺なのでお気にせず」と慰めにもなっていないことを巫子に対していっていた。
「おい、今回の視線は前とどう違う?前の奴は死んだんだ。今回は違うやつに決まってる。」と巫子に乱暴に話しかけ、しまったと思った時には遅かった。
巫子の顔には驚きが見て取れる。猫被んの忘れたー、まぁいい、このままでいくか。そう思いなおし、話し続けた。
「なんでもいい。気づいたことは話せ。」
「えっと……視線を感じるのは一人でいるときです。家の中にも入られるようになりました。」と想思の変化に動揺しつつも答え、「麗子と麻友は部屋に入れるとは思いますけど、二人ではないですし」と続けた。
「麗子か、最近会ってないんだっけか?でも、そいつじゃねーぞ。調べさせてもらったが、麗子は休学中みたいだな。実家の方で何かあったみたいだな。聞いていないのか?」
巫子は「え、何も聞いてない」とつぶやきうつむいて何か考え始めていた。そんな巫子を真魅に任せて俺は今回の件について考え始めた。そうすると何か引っかかるものがあり、それをずっと考えこんでいった。
しばらくしてから、「あー、なるほどな」とつぶやき、巫子に対して、想思は不敵に笑いながら言うのであった。
「お前の心、晴らしてやるよ」
評価などよろしくお願いします。
本日は二話投稿させていただきました。