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「ねぇ、結局、晴屋には行ったの」
所属しているボランティアサークルの集まりに参加し、隅っこの方でちびちびと飲み物を飲んでいたら、いきなり麻友から声をかけられた。
「うん。いい人に出会えたし、視線の問題も何とかなりそうだよ。」
「良かったじゃん。早く解決して楽しく出かけようよ。」
麻友と話していると、「やぁ」とサークルの先輩である中条先輩が話しかけてきた。
中条先輩は悪い人ではない。優しいイケメンの先輩と皆に人気だ。だけど、私はなんだか苦手なんだよなぁ。なんか笑顔の裏に何かがありそうな感じがするんだよね。それに仲良くしていると他の一年の女の子にいろいろ言われるし。だけどよく話しかけて来るんだよなぁ。どうしよ…。
なんて巫子が少し困っていると中条は少し酔っているのか顔を赤らめながら話しかけてきた。
「え、巫子ちゃん、あの変人の巣窟に行ったの?なんか困っていることがあるなら俺に相談しなよ。」
「いや、迷惑をかけたくなかったので…」
巫子ちゃんのお願いならなんでも聞くのにー、迷惑じゃないよーと笑いながら中条先輩は答えてくれたがどこか信用できないんだよなぁと考えつつ、どうやって中条先輩から逃げようかと考えていると麻友がいきなり会話に混ざってきた。
「ねー、中条先輩。最近は麗子と会ったり、話したりしましたか。どうしたんですか?」
すると、中条先輩は何かバツの悪そうな顔をして彼女は忙しいみたいだよねと麻友に応えていた。
「おーい、そろそろ次に行くぞー」とサークルの先輩が声を張って呼びかけていた。「あ、お開きみたいですね。私と巫子は先に帰りますね。」そういうと麻友は私の手を掴み外へと連れだした。
「ありがと。何とか抜け出せたよ。これからどうする?帰る?」
「どっかで話していこうよ。最近いいとこ見つけたんだ。」
麻友が連れてきてくれたのは「fool」と書かれていたBARだった。中に入ると若い白のような銀のような髪色の青年が「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。
中は薄暗かったがカウンターと少しのテーブル席が見え、格式高いBARというよりは若者向け、カジュアルといった感じの雰囲気であり、若い男女や女性同士が楽しくお酒を飲んでいるのが見える。青年に促されカウンターに腰掛けた。
「私はこの店のマスターの遊人と言います。店共々、よろしくお願いします。お飲み物が決まったら、声をかけてください」
というと遊人は名刺を二人に差し出し、他の客の飲み物を作り始めた。
「ね、マスターもかっこいい人だし、いい雰囲気だし最高でしょ!」
麻友は興奮気味に話してきたので圧倒されつつも、「そうだね」と曖昧に返事してしまった。
まず飲み物頼もうかーとマイペースに麻友はメニュー表を見ていると、「おすすめをお作りしましょうか?」と遊人は微笑みながら提案してきたので、二人は「お願いします」と頼んだのだった。飲み物が来るのを待っていると
「ねぇ、晴屋の人はどんな人だったの?」と麻友は興味津々の表情で聞いてきたのだった。
「うーん、優しそうな人だったよ。ちょっと怖そうな感じしてたけど。話してみると優しい人ってすぐにわかったし。」
と麻友に返事してみたが麻友は「そういうとこじゃなくてさー」と不満げな様子である。麻友の気分を上げるためにも巫子は正直に想思について話し始めた。
「顔はイケメンに分類してもいい人だとは思うな。髪は真っ黒で少し長かったかも。細身ですらっとしたひとだったよ。常にニコニコしてたからかな、雰囲気は居心地よかったよ。」
「イケメン上条先輩に対しては興味もない巫子がそこまでの高評価する男なんていなくない?すごく気になるねー。惚れちゃった?」
麻友は「冗談だよ」とは言っているが、その目は興味津々に私を見つめていた。「いつもニコニコか、怖いなー。」とつぶやきながら巫子はバーにおいてある様々なボトルをみつめている。
確かに、視線のことで頭がいっぱいだったからよく考えなかったけど、いつもニコニコしてるのは不気味だったかも。慣れてるからかなとか思ってたけど楽しんでそうな笑顔にも見えたな。
私は少し、晴屋について不信感を持ってしまった。なんて考えていると麻友はいつの間にかこちらを真剣な表情で見つめ話しかけてきていた。
「でもさ、よかったよね。巫子の悩みを晴らしてくれるって言ってくれたんでしょ。解決まではいかないかもしれないけど、安心はできるじゃん。」
麻友は自分のことのように嬉しそうにしている。話が終わったタイミングを見計らったのか遊人はドリンクを出してきた。
「おすすめとのことだったので、シンデレラというノンアルコールカクテルを作ってみました。見たところ、お二人は女子大生みたいですし、ここは駅から少し遠い。終電に乗るなら気を付けてくださいね。」
と言い残してほかの客のドリンクを作り始めていた。シンデレラか…魔法の解ける時間ね。変なのーと麻友はつぶやきながら、おいしー!!とシンデレラを飲んでいた。
ふと、私は仲良くしていた麗子のことを思い出していた。最近はいろいろとありすぎて、気にしていられなかったが、心に余裕ができたためか麗子と会えてないことが気になった。久しぶりに三人で遊びたいなぁ、麗子に会いたいし、相談もしたい。
「ねぇ、麗子は本当に最近は何してるの?」と聞くと麻友は少し気まずそうな表情で、「麗子?えっとね…麗子は忙しいんだよ」と答えてくれた。
いつも、はっきりと物怖じせずに言ってしまう麻友であるだけに少し違和感が残った。ここで引いてしまっては何もわからないのではないか、そう感じて咄嗟に「本当のことを言ってよ。」と麻友に行ってしまった。しまったと思った時には遅く、麻友は驚きからか少し目を見開いていた。麻友は表情を曇らせ話し始めた。
「巫子が最近悩んでいた様子だったし、気にしすぎちゃうと思ったからさ、言えなかったんだけど、麗子は実は上条先輩のことを好きみたいなんだよね。でもさ、どう見ても上条先輩は巫子に気があるようにしか見えなくてさ。麗子は好きな人の好きな人が親友である、その事実に嫉妬したりしていることがつらかったみたいなんだよね。多分、それが原因で最近、巫子に会えなくなっちゃったんじゃないかな。」
巫子も麗子も悪いわけじゃない、気を使いすぎなんだよと麻友は言っていたが私の耳には一切届いていなかった。私が悪い、それしか頭の中に浮かんでこなかった。わかってはいたことではあった。そうなんじゃないかと思ったことは何度もあった。いざ、私が悪いとわかると心に来るものがある。
確かに麗子の前で上条先輩に言い寄られているときや話しかけられる時が多かったが、麗子の表情は変わらなかったし、周りに勘違いされないようにしてきたつもり。今となってはただの言い訳かな。
事実、麗子を傷つけていたことに変わりはない。私が悪くはないと麻友はいっているけど、どうにかできたかもしれないという≪もし≫から離れることはできなかった。どうすればいいんだろう。また、悩みが一つ増えてしまった。
「そろそろ帰ろうか?終電も近いしさ、シンデレラの魔法が解ける時間なのかもよー」
麻友は冗談を含ませながら言ったのだった。しかし、麗子への罪悪感から麻友の話もシンデレラの味も私には届いてこなかった。