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晴屋~あなたの想い、晴らします~  作者: 晴屋
第一章 嫉妬
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 総宗大学文化系サークル棟の七階、そこには民俗学研究会やオカルト研究会、犯罪心理研究会、超常現象研究会など、少々変わった様々な研究会の部室が存在している。一見すると、どこにでもありそうなサークルだろう。

 

 しかし、面白いことに一部のサークルはネットや学内の噂では、胡散臭いものや怪しいものが多いのだ。例えば、犯罪心理研究会なんかは警察とのコネがある、幽霊をお祓いできる人がいるらしいなどなど、挙げたらきりがない。


 そして、その怪しいサークルのほぼすべてが文化系サークル棟の七階には怪しいサークルが集められ、固められているんだと学生は噂している。


 しかも、七階にはごく少数のサークルの部室しかないために、大きい部室を使えることへの僻みや嫉妬から、不自然に悪評な怪しい噂が流れていることへの拍車をかけているのかもしれない。

 

 そんなことがささやかれるため、総宗大学文化系サークル棟七階は「変人の巣窟」とも言われている。そして今、その変人の巣窟に巫子は足を踏み入れようとしていた。


 

 ここ?麻友の言っていた『晴屋』がある階は…。

 サークルの先輩に話してたら変人の巣窟になにしにいくんだ!ってすごい心配されたっけ。後で中条先輩にしつこく聞かれそうだな。麗子のこともあるからあまりかかわりたくないんだけどな。


 そんなことを呑気に考えながらエレベーターを降り、一番奥にあると言う『晴屋』へと進もうとする。夕方であるということもあるためか、廊下は薄暗く、その上、扉に書かれている怪しいサークル名が一層、巫子の恐怖心を高める。


 足を止めてしまうと、不意に耳には囁く声のような音やギギィーと何かが開く音が鮮明に、今、鳴り始めたかのように聞こえ始める。早く行かないと!と、不気味に感じ、足早に廊下を歩き始めた。

 

「きゃっ。」

 

 突然開いた扉に驚きを隠せず、巫子は思わず情けない声を挙げてしまった。見ると「霊的民俗学研究会」と書かれた扉から、和服を着た色っぽいお姉さんという言葉が似合う美女が顔をのぞかせていた。

 

 「あら、驚かせてしまったみたいで悪かったね。大丈夫かい?」

 

 申し訳なさそうに和服の美女は尋ねた。巫子もやっと落ち着きを取り戻したが、冷静になれば今度は、普段、学内や町では見かけないほどの美女である。そんな美女が、いかにも怪しい所から出てきたことの驚きが頭を占める。

 

 「だ、大丈夫です。突然のことで驚いてしまっただけです。すいませんでした。」


 巫子はとりあえず謝ることしかできなく、驚いたことと美女を前にした恥ずかしさから足早にその場から立ち去ろうとした。しかし、美女は扉から廊下に出てきて、ゆったりとした動作で腕を組み、巫子に耳触りの良い声で声をかけた。

 

 「あんた、ここらのサークルの連中じゃあないよね。六月にもなるんだ。入りたての一年生でもここはサークルが少ないし、この私が見たことがない奴はいないはずなんだけどね。何しに来たんだい?女の子には薄気味悪い所のはずだ。どっかに用事なら案内したげるよ。」

 

 美女はにこやかに微笑みながらも、目は巫子がこの場所に何をしに来たのかと探るような表情で巫子を見ている。美女はどうやらこの階のサークルの人間をよく知っている人物であり、巫子は先ほどまで感じていた不気味さに怖がることをしなくて済むのだと安心に包まれていった。


 

 さっきからずっとこの綺麗な女の人は微笑んでくれるし、心配もしてくれる、なんて優しい人なんだろう。さっきからずっと怖かったけど、これで安心できる、よかったなぁ…。なんて巫女は呑気に安心していたが、場の状況に慣れてくると、徐々になんでこんなにきれいな優しい人がこんなところにいるのかと巫子は疑問がでてくる。


 

 「すいません。ここに『晴屋』があると聞いたので来たんですけど…。入ってはいけないって知らなくてすいませんでした。あなたは何でこちらにいらっしゃるんですか」


 巫子はとっさに美女に謝ったが、『晴屋』の場所を教えてくれるのではないかと淡い期待を抱き始めた。そして、美女がどんな人であるのかも気になっていく。しかし、美女は『晴屋』の単語を聞いた瞬間に少し顔を強張らせ、腕を組んだまま少し射貫くような視線で美女はじっと巫子を見ている。


 

「すいません。」


 巫子は場の雰囲気に耐え切れず咄嗟に美女に謝る。怒らせてしまったのではないかと巫子は不安になった。美女は決まりが悪そうに笑いながら話し始める。


「なんだい、あんたは『晴屋』に用事があったのかい。あんたが謝らなくてもいいよ。『晴屋』の奴とは合わないだけだからねぇ。私は三年の吟子って言うんだよ。このサークルの長だよ。よろしく頼むよ。」


 部員はいないようなもんだけどね、と呟いているが驚いている巫子には聞こえているはずもない。吟子は先ほどまでの雰囲気とは打って変わって柔和な態度で自己紹介をし、「霊的民俗研究会」という壁から下がっている木の札を指差している。

 

 「えっ、部長さん!このサークルの部長さんでしたか。吟子先輩…いや、吟子さんですね。よろしくお願いします。」

巫子が吟子先輩といった瞬間に吟子はその顔を少し強張らせたため、巫子はすぐに言い直すことになった。

 

 「じゃ、早速、あの『晴屋』に向かおうか。」


 と吟子が言うと、薄気味悪いその廊下を、我が物顔でどんどんと進んでいく。


 なんか、怖そうな人だと思ったけど、面倒見のいいお姉さんみたいだなぁ、と巫女がのんきに考えているそのうちにも、吟子は振り返ることもなく進んでいる。巫子は置いていかれないように少し小走りにその後ろ姿を追いかけるのであった。

 

「怖がりのお譲ちゃん、着いたよ。ここが噂の晴屋だよ。」

 

吟子は、巫子に廊下の突き当たりの少し古びた扉を指差しながら言った。


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