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後方から何かがこちらに向かって近づいてきている気配がした。振り返る時間も惜しくそのまま振り切ろうと廊下を駆け抜けた。
すると、前方の体育館へと通じる扉が勢いよく閉まったのであった。やってくれたなと思い振り返ると頭部から血が滴っている女がこちらに向かってきていたと分かった。
女といったが、制服を着ており高校生くらいの女の子だろうか。華のJKとやらなんだろう。血が滴り制服が真っ赤に染まったその様子では少々、不気味ではあるが。
「なんで逃げるの?ねぇどうしてみんな私をいじめるの?」と、いきなり話しかけてきた。
地縛霊かヨリコさんに引き付けられた浮遊霊だろうが、言葉を発するや否やあたりは静かになり、異様な静寂に包まれた。返答をしないという選択肢もあったが思わず声を返してしまった。
「俺はいじめていない。用があるんだ。立ち去ってもらえないか?」
「話せるならお話ししようよ。わたし、誰からも話しかけてもらえないの。」
女子高生の霊は嬉しそうにしている。どうやら、対応をミスってしまったようだ。女子高生の霊と話したとたんに体が重く感じられた。返事してもらえなくなったら、怒り始めて殺されたりするかもな。浮遊霊じゃなく悪霊で決定だな。
目を凝らすとその女の周りには何人か若い男女と思われる霊魂がある。形はないが、たぶん心霊スポットだとでも聞いてここにきて、こいつに捕まって殺されたんだろうな。
早く切り抜けないと同じ目か。どうしようか考えていると不意にこちらに向かってくる四人の足音が聞こえた。
「何にも出ねーじゃん。最強の心霊スポットとかいうからここまでわざわざ来たのによ。」
「でも雰囲気はあるよ。さっきからへんなかんじするし」
心霊スポットにやってきた大学生の団体様がこちらにやってきたことが分かった。すると、どうやらその女子高生の霊も四人組に気付いたようでそちらを見つめニタァと気持ち悪い笑みを浮かべた。
俺はそいつの異圧に対して、抵抗もしていたし殺しにくかったんだろうが、あちらさんは抵抗も出来ないだろうから楽に殺せるってか。
「おい、なんかいるぞ。見て見ろよ。」と誰かが声を挙げてしまった。
すると、その霊は四人組に向かって走り出した。逃げられたと思ったときには遅く、巫子の悲鳴が聞こえてきた。
おいおい、見境ないな。あいつらに力を見られても面倒だ。どうするべきか。
考えているうちにも悲鳴は聞こえなくなりあたりは静寂に包まれていた。考えても仕方ないと諦め、走り始めると巫子にどんどん近づいているあの霊が見えた。
「これ以上手を出すなら本気で行くぞ?」と無視されると知りながらも声をかけた。しかし、思った通りに特に動きの変化は見られなかった。
舌打ちしながら霊のいる方向の空間を殴りつけた。すると、霊は吹き飛ばされ巫子から距離を取らされた。
「おい、大丈夫か?」と聞くと、真っ青な顔をした巫子がこちらを見た。
「え、想思さん?なんでここに?」と聞いてきたが、吹っ飛ばされた霊が諦めずにこちらに向かって走ってきているのが見える。
「説明はあとでするから目をつむっとけ。」というと巫子はおとなしく従ってくれた。
俺は霊をにらみつけると、手を差し出し下へ押し付けた。すると、霊は上から重いもので押し付けられているかのように、地面に押さえつけられている。動けないことを確認すると俺は霊に語りかけた。
「本当ならお前レベルなら何らかの術式を使って浄化と逝くもんだが、悪いが顔見知りを襲った罰だ。俺の異圧に押し潰されて消えてくれ」
そう呟いた後に勢いよく地面に手を付けた。すると、霊はぐちゃっと何かに押しつぶされたように潰れ、光の粒子となって消えていった。
「まだ目を開けちゃだめです?」とおびえた声で巫子が言っている。
改めて周りを見ると三人の男女が倒れているが生きてはいるようだ。このままにしておくわけにもいかない為、話しかけてきている巫子を無視し、その巫子の近くに三人を運んだ。
「功式、幻夢。守式、玄武」とつぶやいた。巫子には異圧によって幻を見せて寝かせ、四人の周りに怪異に近づかれないように結界を張った。
結局、力、使っちゃったか。仕方ないな。そろそろ良い機会だろう、ばれてもしかたないか。そう言い聞かせ、今夜の騒動を招いた主であるヨリコさんの待つ体育館へと歩を進めた。