12
巫子の部屋の前に着くまでにいろいろあったがそこに関しては思い出したくはない。
部屋の前にくると部屋に入らなくてもその異質さが伝わってきた。ここからでもわかるな。この部屋はやばい。
気を抜いてると持ってかれるかもなと思っていると、梓が「早くいくぞ」と不用意に扉を開け入ろうとしている。
「まて」と声をかけたが遅く梓は扉を開けて中に入ろうとしてしまった。その瞬間、周囲の空気が冷え肌寒く感じてきた。
中に入ろうとしていた梓は、何者かに突き飛ばされたかのように廊下に押し戻された。咄嗟に身を入れた。どうやら、壁とぶつかるのだけは防げたようだ。すぐに、梓を立たせて
「いてーな、ちくしょう。おい、話はちゃんと聞けよ」
梓はこちらを心配そうに見ている。そんな梓を気にせず、扉を開けようとする。しかし、ドアノブすらピクリとも動かなくなっていた。チッと舌打ちが思わず出てしまった。
悪霊ってレベルじゃねーな。扉とかにまで干渉できるようになってやがる。俺以外は部屋に入れないほうがいいな。
「三人は部屋に入るなよ。邪魔になるからな。ここから先は俺の領分だからな。」
扉の前に立ち、扉にまとわりつく黒い靄のようなものを払った。すると、扉は勝手に空いた。二人からしたら、扉の前で手を払ってるだけにしか見えないんだろうなと想像したら笑えてきた。
そのまま、部屋に進んでいこうとすると物が飛んできたが、特に関心もなく避け、叩き落していった。さぞかし中には入ってきてほしくないんだろうなと思い進んでいると部屋にたどり着いた。
部屋には巫子が寝ていた。その前には自殺したであろう首の長い男が立っていた。目からは血が出て、なかなかにグロテスクで気持ち悪いものだった。
「おい、その女から離れろよ。」
「こ…の…子は…ぼくの…もの」
そういうと、男はのどがつぶれているために満足には話せていなかった。しかし、その男の様子は巫子の周りから離れずにこちらを威嚇している。
「話しても無駄だし端的に言うが、巫子をあきらめねーなら消す。」
しかし、男はあきらめる様子など微塵も見せなかった。はぁとため息が出そうになったがこれ以上は巫子も危険なためにさっさと消すことにした。
「消えろ」というと男を祓うように手を払った。すると、男はこちらに手を伸ばし襲い掛かろうとしたが、その指の先から徐々に粒子のように消えて行ってしまった。
地獄じやねーし安心しろよと思いながらその様子を見続けていた。完全に消えるのを見届けてから、三人を部屋に呼んだ。巫子を三人に介抱してもらっている間、今回の霊に関して考えてみたが、霊の強く成り方がおかしかった。
憑屋の奴らが関わっていたとはいえおかしい。基本的に霊の期間、術式、想いの強さで決まるはずなんだが、麻友の力ではそこまでの奴の力は頼れないはずなんだが。
巫子が関係しているのかもな。いわゆる霊感がかなり強かったんだろう。あそこまで耐えれたのも巫子だからだったんだろう。とかってに結論付けてえしまうことにした。面倒なことはもう考えたくもない。
「俺はもう帰る。吟子と梓は巫子の介抱とか頼むわ。」と言い真魅を連れて部屋から出た。
「麻友に関してはどうするの?」
「とりあえず、放置だな。」
二人は今日の出来事がいつものことのように片付けて帰っていったのであった。
翌日になると晴屋に巫子がやってきた。昨日と比べると顔色はだいぶ良くなっており、体調も回復しているのが見て分かった。安心していたが、表情は難しく、昨日の現象の訳でも聞きに来たのだろう。
「昨日のは、何だったんですか?」
「簡単に言うと、この世のなかには需要があるから、相手を呪ったりする職業で憑屋ってのがあるんだ。麻友はそこに巫子を呪うように依頼したってことだ。あの幽霊は自殺したあんたの元ストーカーだ。」
そういうと巫子の表情が険しくなっていっている。大方、麻友にやられたってのと、自殺した元ストーカーってところだろうな。
「もう、あらわれることはないし安心しろ。なぁ、よくあるのか?みえるとか、いわゆる心霊体験が」と聞くと、巫子は何かを思い出しおびえた様子で「はい」とだけ返事をした。
元々の体質が関係して、あの強さの訳か……なるほど。勝手に納得していると、巫子が「ありがとうございました。」と出ていこうとする。
俺は焦って「待ちなよ」と声をかけた。
「麻友に対しては何も手を打たないのか?もしかしたら、また何かあるかもしれないぞ?」
「大丈夫です。私が何か悪いことをしてしまったので怒ってるんです。私が我慢してしまえばそれで済むんです。」と強く決意したような表情で言った。
おいおい、どこまでお人よしなんだよ。事の大きさが分かってない、死にかけたっていうのに。巫子がそれでいいのならばそれでいいか。金にもならんし時間の無駄だからな。
だけど、次に俺に喧嘩を売ってきたのならその麻友は許さないが……
「そうか。逆恨みかなんかで危害を加えられたら俺は反撃するがいいか?」
「麻友はそんなことしませんよ。私にだけなはずです。根はいい子なんです。もし何かあったなら私に言ってください。無理だったら少しの防衛は仕方ないです」
と言い、大変お世話になりました。ありがとうございました。とお礼の金も置いて部屋を出ていった。
「ねー、想、気づいてるかもしんないけど来てるよ。」と真魅が話した途端に部屋の電気が消え、部屋の空気がかなり冷え込んだ。
「呪いか。しかも、麻友自身が行う術式だな、憑屋の誰かも報復を恐れて、自分の身にリスクがない方法を選んだか。」
気づくと黒い人影がいくつも二人の周囲を囲んでいる。真魅に「離れるなよ」とだけ言い、周囲に視線を走らせた。
小物か、あの女ならこの程度の呪いしか無理か。気づくと黒い影は大きな一つの影になっていた。
「消し飛ばすだけでもいいが、むかつく上に暇つぶしがてら返してやるしかないか。誰に喧嘩を売ったか分からせてやるか。」
黒い影に手のひらをむけ、「我に来たりし呪詛よ、想いの主の所へと帰るがいい」とだけいい、手に力を込めた、そして、その黒い影を払うかのように手を払うと、黒い影は消え部屋は明るさを取り戻した。
「いつ見ても怖いよね。ふつうはいろいろと準備してから行うもんなんだけどなー。想は基本的に身一つで祓っちゃうよね。」
「最小限で最大の利益だ。」
後日談をすると、麻友は帰ってきた影響からか事故にあったらしい。けがは少なく済んだようだ。想いの強さが少なかったことによるのだろう。その麻友を懸命に介護したのが巫子であったということだ。そのきっかけで二人は前みたいに仲良くなったらしい。少々、麻友が巫子にべったり過ぎらしいが。
原因は麻友が上条とかいうサークルの先輩を好きになっていたことだったらしいが、そこはなんかうまい感じになったとか真魅はいっていた。たぶん、探偵研究会の連中の資料が役に立ったのだろう。真魅に恋愛程度でとかいったら、かなり怒られた
何はともあれ一件落着ってとこだ
更新遅れてすいませんでした。評価、感想よろしくお願いします。
一章が終わったので次章からはバトル要素が加わります。