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――誰かに視られてる。
気のせいと言われてしまえばそれだけのこと。でも、ここ最近、しかも数日おきに感じる視線には背筋をぞくっとさせる得体の知れない不気味さがある。誰かいるんじゃ……そう思って振り返ってみても、誰もいないのは当然とでも言うかのように、歩いてきた道があるばかりで誰もいない。ましてや、私を見ている人もいるわけではない。
誰にも言わずに悩むより、友人に相談すればいいだけ、とは思って納得してみた。だけど、友人である麻友に心配してもらっているわけにはいかない。その気持ちが勝り、結局、誰にも相談できずに、ここひと月は耐えている。
高校の時から憧れである都会の女子大生に折角、なれた!と思ったのになんでこんな目に…と、名も知らない誰かの視線を怨んでみたりもした。
やっぱり麻友に相談してみようかなぁ。そんなことをふと考えていると、さっきまでスマホを操作して上の空だった麻友が唐突に話しかけてきた。
「ねぇ、巫子。前に言ったあの『晴屋』に行ってみたら?何か最近、ずっと悩んでることあるよね。私に相談できないならさ、そこに行って相談してみるしかないよね。」
「ごめん。なんか心配してもらってたんだね。」
「巫子はわかりやすいからね。」
麻友は私は巫女のことなら何でもお見通しだと言わんばかりの表情で笑っている。
やっぱり、気づかれてたのかぁ。
麻友が気付いていたという驚きよりも心配をかけていたという罪悪感が少し胸を締め付けた。巫子は友人である麻友に相談していなかったきまりの悪さを感じたが、それ以上に麻友の優しさや気づかいに感謝した。
「うん。麻友が頼りないとか、そんなんじゃないんだけど、迷惑もかけたくないしさ……。だからさ、麻友に教えてもらった『晴屋』に勇気を出して行ってみようかなって…。明日の講義終わりに。」
「なんでも相談していいのに。気ぃ使いすぎだよ。何もないかもしれないけど、あそこは訳分かんないサークル多いし、薄気味悪いとこだからなんかあるかもしれないし気をつけてね。」
ありがとう。そう答え、明日に行くであろう『晴屋』に思いを馳せた。どんな場所なんだろう。怖いとことかじゃなきゃいいな。そんなことを考えていると、麻友が最近は一緒にいない麗子についての話を始めている。
「最近さ、麗子は何でいないんだろうね。巫子は何か聞いてる?」
「いや、ぜんぜん。麗子には麗子の人間関係とか付き合いがあるんだよ。たぶん。」
「でもさ、麗子は最近は全然、私たちと一緒にいてくれないじゃん。」
確かに、麗子は四月の入学から一緒にいた。しかし、ここ最近は一緒に講義を受けることすらなくなった。原因はたぶん、私にあるんだろう。麗子の好きになってと思われる先輩が、私に対して積極的だったからだ。麻友に止めてもらったりして何とかなっていたが、その様子を麗子は悲しげに見ていることが多かった。
麻友から聞いた。麗子が好きなんじゃないかって。やっぱり私が悪かったのかな。
「気にすることはないよ。いそがしいんだよ。麗子も麗子の用事があるんだよ。巫子は何も悪くなんかないよ。」
「ありがと。」
でも、私が麗子を傷つけてしまったんだろう。麗子の思いを私が踏みにじってしまった。どうすることもできない。この現状にため息をつくしかできない自分が嫌になるなぁと考えることしかできなかった。