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他人の海外に行った話は死ぬほどどうでもいいが、いざ自分が行くとなるとそれなりに高揚する①


 私は薄暗い夜の街を早足で歩いていた。薄暗い夜の帳に溶け込んでしまいそうな黒のスーツに身を包み、サングラスをかけ、目的地に向かっている。


 時計を見ると、約束の時刻まであと十分しかなかった。

 予想以上の時間の無さに思わず舌打ちが出る。今日は仕事が一切無く、一日休みだったのにこの体たらくだ。時間に余裕がある時の方が遅刻しがちなのは昔からの自分の悪い癖だ。

 これから組織のトップと会うのに「家でダラダラしていたら遅れちゃいました」など口が裂けても言えない。


 午前一時のメイン通りはがらんとしていた。日中は人の往来で賑わっているが、十二時を過ぎると人も疎らで、日曜のこの時間になるといつもこのような具合だ。きっとこの近辺に酒を飲める場所が少ないことが原因だろう。


 私は大通りから路地に入り、細い道をさらに進んだ。


 少し内側の道に入っただけで、この街の印象は大きく変わる。

 看板を出していない雑居ビルが立ち並び、路地には怪しげな男がちらほらと散見する。非合法の匂いというか、どこか人を寄せ付けない雰囲気が漂っている。


 ただ私の用事はその「人を寄せ付けない場所」にあるので、遠慮をせずに更に歩を進めた。


 なんとか時間通りに目的のビルに着くと、安心したのも束の間、ビルの入り口に頭の悪そうな若者二人組が立っており、入り口を塞いでいた。


 こいつら、うちのファミリーの連中ではないな。身形からしてカタギでないことは確かだが、この辺りで見かけたことのない顔だった。

 

 二人は私に気が付くと、こちらを見ながら何かを話し始めた。好意的な内容では無さそうだ。


 私に薬でも売りつける気か、もしくは何か因縁でもつける気か。いずれにせよ面倒事になりそうな予感がする。

 ただ、私はこの二人組が入り口をふさいでいるビルの中に用事があるので仕方が無く声をかけた。


「おいお前ら」


「あ? 何だてめえは」


 左の短髪の男からテンプレートのような返事が返ってきて、そのまま勢いよく胸ぐらを掴まれた。


 予想通りの出来事に思わず溜め息が出る。

 全くどうしてこの業界の連中はこんな奴らばかりなのか。普通初対面の人間の胸ぐらを掴むか?

 礼儀というものを知らず、自分本位で周りが見えていない。こいつらのファミリーのボスは一体何を教えているのだろうか。


「このビルの中に入りたいんだが」


 私は短髪の男の手を冷静に振り解いた。


「すかしやがって。調子乗ってんじゃねえぞこら」


 もう一方の髭の男がこちらを睨み付けた。どうやら私が冷静に対応したのが気にくわなかったらしい。


「わかった。用事が終わったらいくらでも相手をしてやるから」


 ここでこいつらに構っていたら結局ボスを待たせることになってしまう。


 時計を見ると約束の時間まであと三分。これはまずい。さっさと二階に上がって、ボスのところに行かなくては。


「何様だてめえは。やっぱり調子に乗ってやがるなあ」


 だからどうしてそうなる。そもそもこのビルはうちのファミリーの所有物だ。お前らのビルではないだろう。


「やっちまうか?」


「そうだな。こんなヒョロッヒョロの男一人。ボコボコにしちまうか」


 若者二人はニヤニヤしながら互いに目を合わせ、薄ら笑いを浮かべながらジリジリと私の方へ近づいてきた。


 ほう。「ボコボコにしちまうか」か。やれやれ。随分と舐められたもんだな。この業界で生きている人間が私のことを知らないとは。


 本当はビルの中に入りたいだけなんだが仕方がない。裏の世界で最強と名高い、「沈黙の死神」がこのチンピラ共にお灸を据えてやるとするか。

 ボスにはこの二人がお寝んねするまで、少し待ってもらおう。

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