小休止
サフィラ視点に戻ります
バルクベアの襲撃により、馬が怯えてしまったので今日はもう先に進めない
移動は疲れるし、会ってみたい人(?)もいるので早くドーリンの谷に着いてほしい
「サフィラちゃーん!一緒にご飯食べよう!」
ロレンスが呼んでくれたが、今はお腹が空いていないし、何より返り血で汚れた体を洗いたい
どうやって断ろうかな…
「うっせぇロリコン!1人で食ってろ!」
「グリム君って俺に対して酷いと思うんだけど〜」
「ロリコンに人権は無い!」
「そんな趣味ないって!サフィラちゃんどう?」
「すみません。お腹が空いていないので、食事はまた後ほどにします」
「甘いオヤツもあるよ〜」
「結構です」
「じゃあ飲みものだけでも!」
「結構です。失礼します」
「ちょっとだけ!」
しつこく食い下がってくるロレンスから走って逃げる
こんな格好で食事なんて絶対嫌だ
まったく乙女心が分かってないなあの人
「グリム、この辺りに温泉とか無い?」
「あそこの活火山の麓の鍾乳洞の奥に、地下水脈がある。温度は分からないが、水は綺麗だし体なら洗えるんじゃないか?」
「連れてって!」
「よっしゃ!」
森を越え、鍾乳洞の入り口に降り立つ
「何か居るな」
「魔獣?」
「おそらく」
ご飯ゲットだ!
鍾乳洞に入り、魔獣を確認する
長い体にツヤツヤとした黒い鱗、縦長の瞳が金色に輝きこちらをじっと見ている
これは、蛇?
「ノワルヴァイパーだな、牙に猛毒がある」
めっちゃ危ないんじゃ…
「見てなって」
グリムは左右にぴょんぴょんと跳ねながら距離を縮め、頭に噛みつく
あっけなくノワルヴァイパーが動かなくなった
「前しか狙えないから、横から襲いかかればいい」
普通の蛇と変わらないんだ
「よーし、食料が増えたな!」
狼の魔獣は美味しかったし、バルクベアとノワルヴァイパーはどんな味がするんだろう?楽しみだ
「奥に水がある。行こう」
グリムに乗ったまま奥へ進む
それほど距離は進んでいないはずだが、足場が悪いせいでかなり時間がかかっている
「お、あった!」
グリムの声に顔を上げると、幻想的に青く輝く泉が洞窟の奥で静かに存在していた
綺麗だけど光る水ってヤバそう、まさかチェレンコフ光じゃないよね
「ちぇれ、こふう?」
「チェレンコフ光。青く光ってて、近づいたら死ぬ光があるの」
「これは近づいても死なないし、違うんじゃないかな」
なら安心だ
「温度もいい感じじゃないか?」
グリムから降りて、泉に手をつける
40℃ぐらいで丁度いい
「最高!」
服を脱いで温泉に入る
「ふいー、生きかえるー!」
「なー」
あれ?なんかマナが回復してる気がする
「あー、魔水だったのか。色々便利だし持って帰るか」
持って帰る?どうやって?
「固体じゃなくても、収納出来るぞ!」
白い魔方陣が描かれ水を吸い込んでいく
簡単とか言われて一番初めに覚えたけど、これってかなりすごい魔法なんじゃ…
「素質があれば誰だって使える。無いヤツが多いだけだ」
そういうもんなのか
「こんなもんかー」
水を大半吸い込み、グリムが一息つく
奥まで続いていたし、水量は凄まじいはず
どれくらい収納出来るんだろう
「術者によるかな。オレならこの池10個分くらいならしまっておけるよ」
ヤバい
「よし、戻ろうか」
馬車の所に戻るとロレンスが駆け寄ってきた
「どこ行ってたの!?ずっと待ってたんだよ!」
ちょっと、なんでそんな泣きそうな顔してるの!?
「お腹空いてないって言うし、紅茶とかも用意したのに…」
せっかく気を遣ってくれたのに、それを無駄にしたくはない
「えっと、ありがとうございます…今からでもよろしければいただきます…」
「こっちだよ!」
ロレンスが私の手を握ろうとする、がグリムにはたかれてしまった
「気安く触ろうとするな!」
「ちょっと、サフィラちゃんにべったりすぎない?」
「当たり前だ!オレはサフィラの番だぞ!」
「人とドラゴンが番になれるわけないじゃん!」
「お前の基準で決めつけるな!」
「世間の常識でしょ!」
「ニンゲンの常識なんて知るか!とーにーかーく!これ以上サフィラにちょっかいかけるなら、お前の首引き裂いてやるからな!」
ケンカしないでほしいけど、私のために怒ってくれているので止めづらい
あんまりグイグイ来られると怖いんだよね
「次何かしてきたら、腕食いちぎってやる」
グリムが怒っているので、ロレンスの所へ行くのはやめておこう…
馬車の中に戻りグリムの上に寝転ぶ
「今日は災難だったな」
本当にね
グリムベアと縁があるのかもしれない
「嫌な縁だな」
グリムと一緒の時ならいいけど、1人であんなのに遭遇したら死を覚悟する
「オレはサフィラから離れる気は無いぞー?」
「頼りにしてるよ、ダーリン」
「はは、任せてくれ」
他愛ない話をしながら過ごす
いつもこれぐらいのんびり出来たら良いのに
私のそんな想いは叶わないようだ




