森での出会い
この世界に産まれて、もう5年が過ぎようとしている
ここでは元の世界とは1年の数え方が違う
国の何処からでも見えるほど大きく聳え立つ霊峰
そこに雪が積もり、麓まで白くなったら1年というかなり適当な数え方だ
頂上の雪が溶けることはないので、季節が非常に分かりにくい
誰かカレンダー作ってくれないかな
そんなこんなで、私は赤ん坊から少女へと成長した
母譲りの艶めく白い髪とビスクのように滑らかな肌
父譲りの美しい青い瞳と整った口元
素晴らしい、どこからどう見ても美少女だ
このまま成長すれば女優も夢ではない!
前世とは大違いの、鏡に映った自分の姿を眺めていると父の声がした
「サフィラー!朝ごはんが出来たよー!」
「はーい!すぐ行くー!」
返事をして父の居るダイニングへと向かう
テーブルには2人分の、目玉焼きとベーコンの乗ったトーストが置かれている
「あれ?お母さんの分は?」
「今日はもうお仕事に行っちゃったんだ。お昼には帰ってくるから、それまで1人でお留守番していてね」
やったぜ!産まれてから初めてのお留守番、テンションの上がる私
...何も起きないはずがなかった
父が仕事に向かい1人になったのをいいことに、いつもは入ってはいけないとキツく言い含められている森に向かう
かつてドラゴンが棲んでいたと言われるその森は我が家のすぐ近くにあった
もともとファンタジーな生き物に強い憧れを抱いていた私はその痕跡だけでも...とドラゴンを探すべくその森へと足を踏み入れた
母が帰ってくるまで3時間はあるし、すぐに戻ればバレないはず
そんな悠長考えはすぐに打ち破られることになる
川に沿って森を進んでいると、鳥かトカゲのような生き物の足跡を見つけた
1つ1つは10㎝もないくらいで4つセットになっている
お腹や尻尾を引きずったような跡はなく、体は完全に地面から離れているのだろう
4足の鳥か、犬のような骨格のトカゲでもいるのかとワクワクしながらその足跡を辿っていく
「ギャアアアアアアア」
人のものではない叫び声が響く
木々に止まっていた鳥が一斉に飛び立ち、森が急に騒がしくなる
恐怖で腰が抜け、その場に座り込んでしまった
どうしよう、もし肉食の生き物なら襲われて食べられてしまうかもしれない
じっとしているのが安全か?背中を向けているのは危険か?とにかく恐怖を抑えて立ち上がり、叫び声のした方へと体を向け身構える
...どれほど経っただろう
時間の感覚も分からないまま、動けずにその場に留まっている
ガサガサと草が揺れ何かが近づいてくる...
ひょこっと可愛らしい擬音がつきそうな仕草で草の陰から現れたのは、猫ほどの大きさのまさにドラゴンと言えるような見た目をした生き物だった
大型の獣じゃなくて良かった
息をつきドラゴンへ尋ねる
「さっきの叫び声はあなただったの?」
「ぴゅい」
声も可愛らしい、人違い(?)のようだ
手を伸ばしてみたが、逃げる様子は無い
そのまま触れてみる
鱗の上には短い毛が隙間なく生えていて、ベルベットのような手触りだ
タテガミは想像よりもずっと柔らかくふわふわとしていて心地いい
「くるるぅ」
調子にのって撫で回していると、ドラゴンは喉を鳴らして擦り寄ってきた
抱き上げても暴れないようなので、ペットにしていいか両親に聞いてみよう
叫び声の主が遠くへ行ってくれていることを祈りつつ、やけに大人しく私に抱かれたドラゴンを連れて家へと帰った