ドーリンの谷へ
コンコン
「お二人ともー!休憩ですよー!」
御者に起こされ、のそのそと馬車から出る
外はすっかり暗くなっている
夜は馬を走らせることが出来ないので、朝まで休憩することになっている
みんなは眠る準備をしているが、私は先ほどまで寝ていたせいで全然眠くない
ちょっと散歩でもするか
少し歩いてみるが、外はかなり寒い
「よっと」
元の大きさに戻ったグリムが肩に乗り、首が暖かくなる
移動中は眠っている方が楽なので、朝まで起きていたいけど暇だなぁ
「朝まで歩き続けたらいいんじゃないかな?」
「それなんの罰ゲーム…」
「良い案だと思ったんだけどなー」
グリムの戯れ言は置いておこう
「戯れ言って…」
この辺りは来るのが初めてだ
見たことのない植物ばかり生えている
「薬に出来る植物が多いな」
「作り方知ってるの?」
「ちょっとだけな」
「教えて!」
「大したものは作れないぞ」
「薬があるだけで安心出来るの!」
「分かったよ…詳しくないし、あんまり期待するなよ?」
「ありがとう!」
「これはシソラス、葉が痛み止めになる」
薄っぺらくて濃い緑の葉っぱを何枚かむしる
「こっちはストーマリー、花が下剤になる」
丸っこく咲いたオレンジの花を何輪かむしる
「これがフィラーナ、これはナナジョン、あれがセシリリィ、フィラーナの葉、ナナジョンの根、セシリリィの葉を混ぜると傷薬になる」
毛の生えた葉っぱと、芋っぽい根っこ、多肉植物のようにぷにぷにした葉っぱをまとめて袋に入れる
「崖に咲いてるのはツヅラオラン、根が幻覚剤になる」
取りに行けない
「幻覚剤まで作る気か?」
何かに使えるかもしれないし
「まあいいけど…」
崖の一部をえぐり取り、ツヅラオランの根を取って来てくれた
「じゃあ次はココナトート、実が解熱剤になる」
ぶどうのようになっている実を房ごと摘みとる
「えーとブラッシュナット、幹の皮が酔い止めになる」
ナイフを使って皮を剥ぐ
「ちゃんと分かるのはこのぐらいかな」
詳しくないとか言ってたけど、完全に嘘でしょ
「もっと詳しいやつ知ってるし…」
ぜひお会いしたい
「ドーリンの谷に居るはず」
ああ、人間じゃないんだ
「シルフィードだし、ニンゲンだぞ」
グリムの言うニンゲンと、私に思う人間って違うのかな
「人型で、話が出来る程度の知能があればニンゲンだろ?」
「かなり範囲が広いんだね」
「似たようなヤツがいっぱいいるから区別が付かなくて…」
「そっちの方が分かりやすいかも」
「とにかく、谷に着いたらソイツに会ってみる?」
「うん!」
かなりの量の薬草が集まったので、馬車まで戻る
グリムに教えてもらいながら、薬へと加工していく
砕いたり、すり潰したりするので結構な重労働だ
苦戦しながら作業を進めていたが、空が明るくなって来てしまった
御者達が起き出し、馬車を出す準備を始めている
まだ全部終わってないのに…
「明日また続きしよう!」
「うん、また教えてね?」
「出来る限り頑張るよ」
元の馬車に入り、再びグリムの上に乗る
疲れていたようだ
横になった瞬間酷い眠気に襲われ、そのまま闇の中に意識が溶けていった




