模擬戦
「おはようございます」
「おっはよー!サフィラちゃん、待ってたよー!」
訓練場の扉を開けると、カミラに抱きつかれた
「もうあの可愛い服着ないの?」
「制服をいただいたので」
「残念〜」
あれはもう着たくない
「理事長から聞いたよ〜。すごくテイマーの才能あるんだってね!」
「ありがとうございます」
「ライセンス貰う前に訓練の許可が出るなんて、初めて聞いたよ!さ、早く行こう!」
カミラに手を引かれて訓練場の奥へ向かう
短く整えられた白髪の、初老の男性が立っている
「コーチー!サフィラちゃん来たよー!」
「カミラ、お前はもう少し落ち着きなさい」
「だってこんなの初めてだよ!」
「すまないね、私の弟子が騒がしくて」
「とても明るくて素敵な方だと思います」
「ほーら!サフィラちゃんはこう言ってるもん!」
「静かにせんか!私はテイマー達の指南役を任されている、ドロテオだ。君のことはグレゴールから聞いている。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「オレはグリム!よろしく!」
「では早速訓練を始めようか」
他のテイマー達が待っていてくれたようだ
軽く自己紹介を済ませ、彼らの列に加わる
「まずは模擬戦をしようか。各々ペアを組みなさい。フィデルはサフィラ君の相手をするように」
「分かりました」
「よろしくお願いします」
この人校内最強じゃなかったか?
「手加減出来るって判断なんだろう」
なるほどね、ちゃんとパートナーをコントロール出来る人物が相手の方が良いという事か
「頼むよディオン」
「ブルルルル...」
フィデルは脚が三対ある黒い馬に跨り、槍を構える
対するこちらは武器なんて持ってない
めっちゃ不利じゃね?
「魔法使えるんだから、問題無いだろ」
「人に向けて使うのは怖いよ...」
「遠慮しなくていい。ここの制服には魔法の衝撃を和らげる機能があるんだ」
「そうなんですか。では、胸をお借りしますね!」
「行くぞ!」
フィデルの掛け声と同時にディオンが駆け出す
身体能力を上げるために、自分に電流を流し痛覚軽減をかける
「そこだ!」
迫る槍の切っ先を拾った石で弾く
そのまま反対の手でディオンの脚の一本に触れ、過重力をかける
「ヒヒィン!」
狙い通り膝は砕けたが、動きが鈍くなった様子はない
ディオンは距離をとり体制を立て直す
その間に両手で石を持ち、炎熱操作で溶かす
ナイフの形にし、ディオンの首にめがけて振りかぶる
寸前、躱される
何度か繰り返すが、かすることも出来なかった
うーん、身体強化をしても私ではディオンの反射速度に追いつけないようだ
「オレの事忘れてない?」
忘れてはないけど、戦わせちゃいけないのかと思っていた
「テイマーとパートナーは一緒に戦うもんだろ!」
グリムの体が闇に溶け、直後大きな姿で現れる
「マナの消費が激しいから、すぐ終わらせよう。乗って」
背に乗ってみる
おぉ
全身の毛が伸びて、ベルベットのようだった手触りがペルシャ絨毯のようになっている
タテガミは絡まりなど無くさらさらふわっふわ、思わず首に抱きつき顔を埋める
「ふわぁ...」
「終わったけど」
はっ、いつのまに!?
ディオンは倒れ、フィデルはその隣で膝をついている
「終了ー」
グリムが元の大きさに戻る
極上の上を行く、まるで天国のような心地だった…
もうちょっと堪能していたかったなぁ
「寝る時ならそんなにマナ消費しないし、あの姿でもいいよ?」
ぜひお願いします
「すごいな。ディオンがこんな簡単に倒されたのは初めてだよ」
「ブルルゥ」
フィデルとディオンが悔しそうにしている
「見た目で判断したのが悪かったな」
「本当にそう思うよ。まさかあんな姿になれるなんて、これっぽっちも想像出来なかった」
あれは反則でしょ...
「遠慮しなくていいって言われたしな!」
「次はもっと粘りたいね」
勝ちたい、じゃないんだ
「勝ってやるって言わないのか?」
「ははは、勝てる想像が出来ないからね。自分の実力を正しく判断するのも、時には必要だよ」
「まさか、サフィラ君とグリム君が勝ってしまうとはな」
「全力を尽くした結果です」
「そうか…」
ドロテオが何かを考え込んでいる
「明日からは、サフィラ君達には別の訓練をしてもらう」
「分かりました!」
初めての模擬戦は、なんだかよく分からないうちに終わってしまった
明日はどんな訓練をするんだろう




