先輩テイマー
大きな扉を開き中に入る
外からでは分からなかったが、めちゃくちゃ広い
というより壁と天井が無い
「空間操作の魔術だな。あのグレゴールってやつがルーンを持ってる」
色々すごいって聞いたけど本当にすごいな
グレゴール理事長ってことは、あの人もマナを宿してるのかな?
「アイツは動物だよ。魔術と魔法は違う。既存のルーンを使って発動させるのが魔術で、魔法はルーンを作る側だ。サフィラもこれくらい出来るようになるぞ」
マルクスは魔法と魔術の違いが分かってなかったってこと?
「違いを定義する必要があるのは魔獣と幻獣だけだからな。それに分かってないんじゃなくて、理解の範疇に無いんだ」
よくわからない
「マナを宿してない動物は、魔法そのものに触れることができない。起きた現象の影響は受けるけど、そもそもそれが魔術なのか魔法なのか区別をつける必要が無いから違いも何もない。だけど魔獣は違う。どっちを使われているかで対応が変わる。魔術ならルーンに刻まれた魔方陣に干渉すれば術式を解くことが出来るし、魔法なら相手から主導権を奪ってしまえば影響を受けなくなる。他のニンゲンと話すときは全部魔法でいいけどね」
なるほど、どっちも魔法なんだね!
「サフィラは分かれよ。重要だぞ」
師匠厳しい...
「そのうち感覚で分かるようになるって、一番弟子」
「その服すっごい似合ってるね。あなた、どこの子?」
ライトブラウンの髪を後ろで1つに結った、快活そうな女性が声をかけてくれた
「今度初等部に入学するサフィラと申します。テイマーを志望しており、訓練の見学をさせていただこうと思いこちらに参りました。こちらはパートナーになる予定のグリムです」
「うわぁ、しっかりしてるぅ!どっかすごいお屋敷のお手伝いさんかな?」
「...この服は趣味です」
グリムのな!
「そうなんだ〜、そこまで似合ってるなら普段から着るのも納得かな!」
普段着じゃない!!
「自己紹介が遅れたね、私はカミラ!高等部2年なんだ!それとこっちはパートナーのミルキーだよ!とっても可愛いでしょ〜」
ブラックアイリューシをそのまま大きくしたような蛇がずるずると近づいてきた
目がまん丸で、鼻先は細め、口の形も整っていて正面から見るとωのようになっている
確かに可愛い
「美人ですね!」
「あ、分かってくれるんだー!なかなか可愛いって言ってくれる人いないんだよね〜」
見る目が無いな
こんなに美形なのに
「確かミルキーは美人だけど、蛇の顔の良し悪しが分かるなんて2人ともすごいな」
当然だとも!爬虫類でもよく見ればかなり個体で顔が違う
目が離れていたり、鼻先がまっすぐじゃなかったり...
ドラゴンは見たことがないから比べようがないけど、グリムはイケメンだと思う
「本当に、分かってくれてとっても嬉しいよ!」
手を握られブンブンと振られる
そうだよね、自分の大切な相手の良さが分かってもらえると、きっとすごく嬉しいよね
「あなたのグリム君もとってもステキだと思うよ!」
「えへへ、ありがとうございます」
想像以上に嬉しかった
今絶対ニヤニヤしてる
「テイマー志望ってことは試験はまだだよね?今日はちょうど試験日だから、見にいこっか!」
「はい!ありがとうございます!」
カミラの後をついていくと、様々な魔獣とそのテイマー達が並んでいた
種族がバラバラだけど、どんな風に試験をするんだろう?
「試験官の手伝いがあるから行ってくるね!」
「お気をつけて!」
カミラはそう言うと走って行ってしまった
何するんだろう
「どれだけ魔獣がテイマーの命令を聞くか判断するみたいだぞ」
命令か…
試験でもグリムに命令はしたくないな
「普通に頼めばいいだろ」
なるほどね!お願いなら気持ち的にはちょっと楽だ
しばらく見ていたが、みんなあまり言うことを聞いていない
「プライドの高いやつが多いから」
なんだ、グリムが優しいだけか
「サフィラにだけな」
さらっと口説き文句のようなことを言うのはやめてほしい
照れる
「そんなつもりないんだけどな...」
素でそれとか、先が思いやられる
2時間程経った
どうやら試験が終わったようだ
「お待たせー!」
「お疲れ様です、カミラさん」
「今回はみんな、すっごくいい感じだったよ!」
「そうなんですか」
「うん!いつもは乱闘騒ぎになるから!」
そんなにヤバイのか!
「マジかよ...」
グリムも引いてる
この様子なら、テイマー試験は合格出来そうだ
「おう、任せとけ」
でも、他の魔獣が襲いかかってきたらどうしようも無いのか
「返り討ちにしよう」
「ダメでしょ」
「あはは!テイマーの言うことちゃんと聞くかどうか見るからね。やっつけろって命令しちゃえばいいんだよ!」
「だってさ!それでいこう!」
「ケンカは良くない!グリムが怪我したらどうするの!」
「おお、パートナー思いだね〜」
「無傷で全員倒してみせる」
「そうだよ!襲われたらやり返さなきゃ、逆に危ないよ」
「なら、襲われそうになったら怪我せずに戦ってね?」
「おうよ!」
見学を終えて、訓練場を出る
なかなか貴重な体験が出来た
「もう昼だな」
そういえばお腹が空いた気がする
お弁当もお金も持ってきてないし、そろそろ帰ろうかな
「なら早く帰ろう」
グリムが私の手に尻尾を巻きつけ引っぱる
なんか急いでる?
「あんまりご飯食べないから心配なんだよ!」
そういえばしばらく晩ご飯食べてなかった
「忘れるようなことか...?」
やりたいことがあるとそっち優先しちゃうんだよね…
「今日は晩ご飯も食べろよ」
「うん」
グリムに手を引かれたまま、少し早足で家に帰った




