はじめての魔法
「校舎を案内するよ」
そう言って歩き出したマルクスの後を追いかける
「お兄さんは授業を受けなくてもいいの?」
「今日は受ける授業が無いから」
ふむふむ、どうやら受けたい授業を自分で選べるらしい
大学みたいだ
「もしかして、休みなのに私のために学校まで来てくれたの?」
「一応、そうだけど...えーと、出さなきゃいけない課題もあったし...先生に、質問とかも...」
「そっか、ありがとうお兄さん!」
ごにょごにょ言ってるけど言い訳にしか聞こえない
学校まで来てくれたのは事実だし、ちゃんとお礼を言っておく
「べっ別に、お前のためだけじゃないし!」
ツンデレってやつだな
態度は悪いけど、根は優しいのかもしれない
私が勝手にお兄さんと呼んでいることも嫌がってないみたいだし
「その、えっと、お前はどうなんだ」
「どうって?」
「俺で良かったの?」
なんの話かさっぱり分からない
「あの2人のどっちかと一緒の方が良かったんじゃないかー?」
ああ、そういうことね
「お兄さんが一緒に来てくれて嬉しいよ!」
「...ふーん」
ちょっと嬉しそう
「ここで教科書貰えるから。それと、どの授業を受けるか書く書類も貰って」
よくある事務室だ
扉を開け、中に入る
チャラそうな若い男性がこっちを見た
「失礼しまーす」
「はーい!君がサフィラちゃんかな?要るものは用意してあるから持っていってねー」
「ありがとうございます!」
サフィラ様用、と書かれた私の腰ほどの高さのある大きい木箱が床に置いてある
中にはぎっちり本と紙が詰まっている
「...これ全部ですか?」
「そうだよー。運べないだろうし、家まで送ってあげようか?」
ありがたい申し出だが、魔法の練習もしたい
「大丈夫です!」
「無理しないでね〜」
木箱の前に立ち、手をかける
無理だな、たぶん私より重い
この間の魔法を教えてもらおうと、グリムに助けを求める
「グリムぅ」
「今からやるの?」
「今しかないじゃん!」
「しょうがないなぁ」
「まずはマナの流れを教えるぞ」
グリムが私の手を握り、何かをしている
手がぞわぞわする
「変な感じがするよ?」
「適正あるみたいだな、続けよう」
ぞわぞわしていたものが、体の中に水が流れていくような感覚に変わる
「なんか流れてる、気がする」
「いいね、どの方向か分かる?」
「うーん、右手から入って左手から出てる?」
「正解!めっちゃ才能あるじゃん、流石だな!」
「次は、それをサフィラがやってみて」
流れていた感覚が止まる
意識を集中させればいいんだろうか...
「自分が分かりやすいものでイメージするといいぞ」
言われたとおり、川が流れる様子を思い浮かべてみる
手がぞわぞわしてきた
「おお、その調子!」
そのまま水の向きを強くイメージする
私の右手からグリムに流れて、左手に戻ってくる
うまくいったんじゃないかな?
「すごいなー!サフィラは水のマナと親和性が高そうだ」
「次はどうしたらいいの?」
「これに沿ってマナを流してみて」
空中に白い魔方陣が描かれる
魔方陣の中を光が走っている
「光ってるところに続いてマナを流すんだ」
描き順のようだ
「こう?」
「そうそう!オレの方は消すから、そのまま維持して」
お手本が消える
そのままマナを流し続ける
「魔方陣が袋の入り口になってるイメージで、木箱に押しつけて」
木箱が魔方陣に触れた部分から吸い込まれていく
そのまま全部しまい込む
マナを流すことをやめても、魔方陣が消えない
「出来た!」
「完璧!流石オレの嫁!」
「出す時はどうするの?」
「残ってる魔方陣にさっきと反対の向きでマナを流せばいい」
「魔方陣は動かせる?」
「魔石か肌に焼きつければ動かせるよ。はい」
丸っこい不思議な輝きを放つ石を渡された
「これが魔石?」
「うん。魔方陣に触れさせてみて」
ジジッと音がして魔石に川のような模様が刻まれる
「違う模様になっちゃった...」
「マナを流せば魔方陣が出てくる。使われてるかどうかの目印だ」
なるほどね
とにかく、荷物を運ぶ事に成功したので事務室から出る
「失礼しましたー」
「はーい」
扉の外でマルクスが待っていてくれた
「ずいぶん時間がかかってたみたいだけど」
「魔法の練習してたんだ!」
「ルーンも無いのに?」
「ちゃんとあるよ」
さっきの魔石を見せる
「見たことないな、なんの魔法が入ってるの?」
「収納魔法...?」
「なにそれ。まあいいや、荷物は?」
「この中!」
私は自慢気に魔石を掲げる
そんな私を見て、マルクスは呆れた顔をしている
「冗談はいいって。届けてもらうなら申請しに行こう」
「冗談じゃないもん!中に入ってるもん!」
「ふーん、じゃあ出してみてよ」
明らかに信じてない目だ
ちょっと面倒だが、練習と思えばいい
教えられたとおりの手順で木箱を出す
「ほらね!冗談じゃないでしょ?」
「...」
マルクスが固まった
中に入ってることは見せたので、もう一度しまっておく
「それ、誰からもらったの」
「グリムからもらったよ!」
再び魔石をドヤ顔で掲げる
「ちょっと見せて」
「え、やだ」
「見るだけだから」
「やだー!」
もらった物だし、あまり他の人に触られたくない
取られる前に内ポケットに隠す
「どういうつもり?」
マルクスはグリムを睨む
「才能があるなら伸ばすべきだろ」
飄々と答えるグリム
マルクスはこれ以上の質問は無駄だと悟ったのか、その後は何も言わなかった




