あれ?どこに行ったのかな
アレクと知り合ってしばらくたったある日のこと。
今日も私はアレクを待ちながらウサギ達を見つめている。
しかしこの日はいつもと違っていた。
毎日同じ景色を見続けている私が言うのだから間違いない。
鋼の装備を身に纏った中級以上の冒険者が多いのだ。
普段あまり見ない顔の冒険者がたくさん居た。
初心者の狩り場に何の用なのだろうか。
…騒がしい。
いつもの景色にやっと訪れた変化だが今の私にはどうでも良かった。
こんなに騒がしいとアレクとお話できないかもしれない。
それだけが気掛かりだった。
…それにしても騒がしい。
初心者達が逃げ惑いこちらに走ってくる。
私の花畑を突っ切る冒険者もいるが所詮は映像の造花、花畑が荒れる事は無い。
私には何の感慨も無かった。
皆私の存在を無視して町の中に逃げ込んでいく。
ログアウトで退場する新米冒険者もたくさんいた。
それを見て鋼装備の冒険者達が動き出す。
皆一様に西の方へ走って行くのだ。
こんな事は今まで一度も無かっただけに少し興味をそそられ注視する。
その時、ふと視界に見慣れないモノが映った。
それは豚の様な頭部を持った大型の亜人モンスター、オーク。
始めて見るモンスターだった。
一体や二体では無い、次々と押し寄せては冒険者達と争い始める。
しかしオークの数があまりにも多く冒険者達も苦戦を強いられていた。
そしてオーク達の行動にはある共通点が見られる。
オークは本来は積極的にプレイヤーを襲うアクティブモンスターだ。
にも関わらずプレイヤーと交戦していないオークは参戦しようとしない。
では何をしているのか…、走ってくるのだ、こちらに向かって。
町に向かっている様にも見える。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。私はNPC、やられてもリスポーンするだけ。
リスポーン…、どこに?……………ここだ。
オークに殺される度に私はここで復活する事になる。
オーク達の真っ只中で、永遠に復活する事になる。
嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。流石にそれは怖い!
たとえ痛くなくても恐怖がずっと続くのは嫌だ!
私は花畑から逃げようとするが出る事が出来ない。
当たり前だ、出る事を許されていないのだから。
「嫌だよ!嫌だ!…アレク、助けてよ!」
しかしアレクは来ない、どこにもいない。
…たとえ来てもアレクはオークには勝てないだろう。
そしてとうとうその時は来た。
眼前に迫るオークの巨体、鼻息の荒い嫌らしい豚顔。
私は目を瞑って覚悟を決める。
………?
襲って…こない?
そっと目を開けるとオークは私の顔を覗き込んで来るだけで攻撃の意思を示さない。
「…どう…して?」
「フゴ!フ!ゴフ!」
鼻息をあらげるだけで言葉を発しないオーク、いや、発するシステムが無いのだろう。
「いや…その、分からないです」
「…ゴフー!」
オークは間違いなく私と意思の疎通を計ろうとしている。
敵意が無い事だけは確かだった。
ピーンポーンパーンポーン
突然空から鳴り響くチャイム、運営の放送だ。
「プレイヤーの皆様方、大変ご迷惑をおかけしております。運営からのお知らせです。現在一部のモンスターのAIに不具合が発生しております。緊急メンテナンスを行いますので誠に申し訳ありませんがログアウトをお願いいたします」
放送が何度か流れた後にもう一度チャイムが鳴り放送は終了した。
次々とログアウトしていく冒険者達。
視界から全ての冒険者が消えた後、次々と消えていくオーク達。
ああ、これで全てが元通りになるはずだ。
メンテナンスが終わったらアレクにこの事を話そう。
話す話題が出来た、怖かったと言って甘えよう。
アレクならきっと………………………
…
……
………
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NEW!
大変永らくお待たせいたしました。
メンテナンスが終了しました事をお伝えします。
異常のあったAIシステムの巻き戻しを行いましたがプレイヤーの皆様方のデータはそのままですので御安心下さい。
引き続きフェイトマイルオンラインをお楽しみ下さい。
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………
……
…
「マーガレットさーん、マーガレットさん?あれ?どこに行ったのかな」
はい、マーガレットさん終了です。
次からはまた違うNPCに視点が変わります。
次の人?は長くなる予定です。