僕はまた来るし、どこにも行かない
その後、アレクと名乗る少年は何度も顔を出した。
話をしているうちにお互い喋りやすい間柄、友達になれたと思う。
それは私が今まで諦めていたものだった。
時間と戦うように行動する他の冒険者達とは違い、アレクからはゆったりとした時間の流れを感じる、暇なのだろうか。
そして驚いたのはアレクが転職した職業。
動き安い布製の防具と厚手の外套、シーフだ。
「ねぇ、アレク。どうしてシーフにしたの?アレクが持ってるあの剣、バスタードでしょ?ナイトでもウォーリアーでも、もっと活用できる職業あったのに」
あの剣、それは始めてアレクと合った時に持っていた植物の様なユニーク装備。
そしてバスタード、それは片手でも両手でも使い分け可能な武器種の事で、剣であれば重い片手剣や軽い両手剣として扱う事ができる。
片手剣を使うナイトでも、両手剣を使うウォーリアーでも使えるという便利な物だった。
シーフも片手剣は装備可能なのだが剣を扱うスキルが無い。
歩行術や回避術、身のこなしを活かした連続攻撃を得意とするため本来は軽い武器を好む。
つまり重い片手剣であるあの武器はミスマッチなのだ。
「装備してもどうせ使えないし。レベル90なんて気が遠くなるよ」
そう、アレクが手に入れたユニーク装備の適正レベルは90。
そこまでレベルの高いベテラン冒険者は見た事が無い。
単に初心者のマップに現れないだけかもしれないけれど…。
「それに…、あの剣、ミスティルテインの使い方も分かったしね」
何か特殊能力でもあったのだろうか。
ユニーク装備なら珍しい事でも無いのかもしれない。
まぁ、冒険者のプレイスタイルにそこまで口を出す事も無いだろう。
「…そう、そんな名前だったのね」
「うん、神々の祝福を受けぬがゆえに神々を殺しうる剣だって言ってた」
「言ってた?」
「あ!…書いてあった、その…ステータスに」
「…そう、なんか不吉な剣だったのね」
「そうかな?」
「そうでしょ?」
「神様って、誰だと思う?」
「…オーディン」
この世界の最高神の名前はオーディンだったはずだ。
神様の名前を色んな神話から使ってるけど、設定上はそれで合っていたはず。
「そうだね、それで良いと思う」
「?」
「じゃあ、僕はそろそろ行くね」
話が一段落するとアレクは立ち去ろうとする、アレクが去れば私はまた一人になる。
私は無意識のうちにアレクの腕を掴んでいた。
「…どうしたの?」
「あ、…いえ、ごめんなさい」
それはNPCとしてあるまじき行為だった。
自分のAIにバグがあったのかもしれない、今のはやってはいけない行為のはずだった。
私はアレクの腕から手を離す。
目の前のオブジェクトから手を離すだけの行為なのに手が震えた。
「…また来るから、ね」
向こうから会いに来るのはアレク次第、だけど私から会いに行く事はできないのだ。
「嫌だよ…、寂しいよ」
「え?」
声に…出ていた。
もうNPC失格だ…、運営に見付かったら私は撤去されてしまうかもしれない。
「大丈夫…、僕はまた来るし、どこにも行かないから」
「…嘘だよ、アレクはログアウトする。この世界のどこにもいない」
「大丈夫、僕はこの世界にいるから」
「…うん」
それが私を慰めるだけの優しい嘘だとは分かっている。
アレクはとても優しい、ただのデータに過ぎない私を気遣ってくれる。
アレクは…とても優しい…。
次はいつ来てくれるだろうか。
次はどんな話をしてくれるだろうか。
次も優しいだろうか。
…来なかったらどうしよう。
アレクの事を考えると思考回路が焼き切れそうになる…。
どうしてだろう…、私は遠ざかっていくアレクをずっと見つめていた。
ゲームですが掴む行為は可能なのです。
アイテム掴むのと同じ感じで。