元の世界は楽しいですか?
「シーナさーん!シーナさーん!」
駆け寄ってくる二人の女の子。
「モモさん、ハルさん。お久しぶりですね」
「おー!やっぱAIってすごいね!覚えてるんだぁ?」
「はい、モモさんがアコライトになったのには驚きですが」
二人は冒険者だ。
モモさんは私と出会った時RPGトークで豪快に笑っていた明るい人。
てっきり豪快な攻撃職に就くと思っていただけに回復職にしたのは少し驚きだった。
「いやぁー、ハルがウォーリアーやるって言うからさ、じゃあ援護してやんよ!みたいなノリで決めちゃって、ま!これはこれで楽しいよ!」
ハルさんはその隣で大剣を地面に突き立てて満足気にドヤ顔をしていた。
「そーそー、でさー。ちょっとシーナさんに聞きたい事あって探してたの」
「はい、何でしょうか?」
「このゲームのAIに纏わる都市伝説って知ってる?」
「AI搭載の武器防具、AI搭載の召喚獣、NPCだけの控え室、NPCの冒険者、NPCは本当は運営スタッフ、伝説のNPC、AI機能に人間の脳が使われている、この世界で死にすぎるとNPCになる。…私が聞いた事のある都市伝説はこんなとこですね。どれについてですか?」
「お…おう…、むしろ知らないやつが多くて困惑してるぜ」
「毎日みなさんの話聞いて回ってますからね」
ここ、シニオンノビスは始まりの町にして中央都市。
初心者を中心に最も人が集まる町なのだ。
「私が解答できるものは二つあります」
「お、なになに?」
「まずNPCは本当は運営スタッフが操ってるんじゃないか?という噂、これは否です。私は毎日24時間活動してるので言うまでも無いですが」
「シーナさんの担当スタッフが二人いるとかは?」
「否です。何なら1週間ほど休みなく私と会話してみますか?」
「こっちが無理だよ。分かった信じる」
「次にNPCだけの控え室。これは少なくとも私にはありません」
「お?含みがあるね?」
「イベントの都合上等でこの世界から一時的に消えるようなNPCにはあるかもしれないからです。つまり常駐型の私には無いのです」
「あ、なんだそういう…」
「で、モモさんは何を知りたかったんですか?」
「当然武器防具だよ!AI搭載のインテリジェンスウェポン!」
「まだ見たことは無いですね。データとして存在してるかどうかは私には分かりません」
「なぁんだぁ…、AIのシーナさんなら知ってると思ったのに」
「私はあくまでも噂話を聞いてるだけなので」
「いや、それよりもさ、二つほど気になる怖いのあったんだけど?」
モモさんとの会話中にハルさんが割り込んでくる。
「どれでしょうか?」
「AI機能に人間の脳が…とかさ、死にすぎるとNPCに…とか」
「ああ、それは夜中にログインする人達の鉄板の怪談話です」
人間の脳が使われているなら私達には外の世界の記憶もあるはず。
死にすぎるとNPCに、なんてのも、どんなプログラム組めば可能だと言うのか。
「なんだ、ただの怪談話か…」
「あはは、NPCになってしまったら私と一緒に24時間毎日散歩しましょうか」
「やめてよ、縁起でも無い、退屈で気が狂うわ」
「…え」
「…あ、…ごめん」
「いえ…、はははは…」
そうだ、彼女達は外の世界の住人。
私は彼女達との会話が楽しいから満足してるけど、彼女達は…。
「あの…、外の…、元の世界は楽しいですか?ここよりも?」
「いや、ここの方が楽しいよ。じゃないと来てないし」
「ではずっと居ても問題無いのでは?」
「さすがにそれは、お腹も空くし眠くなるし、学校もいかなきゃ」
「やることがたくさんあるのですね」
私は、毎日歩いて喋ってるだけ、それに疑問をもった事は無い。
しかしハルさんは、それは嫌だと言う。
ログアウトって…何だろう…。
冒険者が元の世界に帰る手段だという事はもちろん知っているけども。
「私もお二人の世界、見てみたいです」
「えー、やめときなよー。リアルなんてクソゲーだよー」
「そうそう、男子とかうちらの事エロい目で見てくるしね」
「きゃははは、ねーよ。ハルはもうちょっと胸が膨らんでから言いたまえよ」
「よっしゃ上等だ!決闘を申し込む!」
「あ、おい。私アコライトだぞ!」
元の世界はつまらない、そう言う二人はとても楽しそうだった。