表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログアウトって何ですか?  作者: しら玉草
優しき暗殺者、アレク
28/30

…ほんとに、…楽しい

晴れて自由の身となった僕は船の上から海を見つめていた。

渡し船は定期的に出ていて金さえ払えば自由に乗る事が出来る。

お一人様1000ゴールドとなかなかに高額だが今さら渋るような値段でも無いだろう。


「モモとハルは外の世界で船乗った事ある?」

僕の質問に答えたのはモモだった。

「あるよぉ、無い人の方が珍しいんじゃないかな?」

「外の世界の海はここよりも綺麗?」

「んーーー、場所による!でもここより透き通った海はそうそう無いんじゃないかな、船の上から海の下の魚やサンゴ礁が見れるなんてなかなか無いよ?それに水面や水飛沫がこんなにキラキラ光ってるなんて、条件揃わないとお目にかかれないかもね」

「へー、じゃあこの世界も捨てたもんじゃないね。劣ってる所はある?」

「んー、やっぱり肌で感じる風とか、海の匂いかな」

「確かにこの世界には無いね…」


全てがデータで、モモとハルはVRゴーグル越しに画面を見てるだけ。

この世界に生きているのはNPCで、NPCは実在しない。

…僕はいったい何者なんだろう。

答えはNPCだ。考えるだけ無駄な事を考えてしまう。

見た目だけ綺麗なこの海もデータなのだからいくらでも綺麗に出来る。

しかし実物が持つ情報量には負けてしまうのだ。


「本当の海…見てみたいな」

「ほら、島が見えてきたよ!今から神を殺そうって男がクヨクヨすんなし!」

「モモは厳しいなぁ」

「あはははは、湿っぽいのは嫌いなの」


島に上陸するとダンジョンの入口はすぐだった。

島自体それほど大きな物では無く、ダンジョンの入口となる洞窟以外には何の見所も無い。


「ほら、行くよ。三層までは雑魚しかいないから無視ね」

ハルはどんどん先に進む。

「わ、待ってよ。ハルは来たことあるの?」

「あるよー、てかシニオンノビスから割りと近場だし、三層までならソロで行けるしね」

「へー、目的の最下層は何層目なの?」

「五層だよ。四層あたりからパーティプレイ推奨」


水の溜まった地面にカニの様なモンスターやイソギンチャクの様なモンスターが蠢く。

それらを無視してどんどん先へ。


三層に辿り着くとマップのほぼ全てが水没しており海底ダンジョンぽさが際立ってきた。

魚の様なモンスターや人魚の様なモンスターが現れる。

今の3人ならそれらも難なく殲滅でき、先へ先へと進む。

そして四層の手前でハルが立ち止まった。


「ここから先は全部水中だよ。まぁ、別に呼吸とか必要無いんだけど」

三層の時点で顔まで水に浸かっていたからもちろん分かっている。

水中という演出があるだけで、実際には地面を歩いているのと変わらない。

「水中での酸素システムとか水中用のモーションとか無いからね」

「360度見渡せる水族館みたいなものだよねぇ。楽しいから良いけどさー」

リアリティには欠けるけど海底を歩いているみたいで確かに楽しい。



四層に足を踏み入れると完全に水の中だった。

ブクブクと泡立つ気泡、綺麗な魚達、そして綺麗なサンゴ礁。

海草と岩が道を示す海底空間、差し込む光がカーテンの様に煌めく。


「うっわ、何これキレイ」

「うーわー。これは…なかなか」

女の子二人はその絶景に見とれていたが僕はその二人を急かさなければならない。

何故か?モンスターが接近中だったからだ。

「ちょっと、二人とも!戦闘態勢!サメ来たサメ!」


海底空間の奥から現れる恐ろしい巨大な魚影。

そのミサイルの様なフォルムは美しい。だが顔が、乱雑な牙が、サメの凶悪性を物語る。


「うっわメガロドン。いきなりか」

ハルはそのモンスターを知っている様子だった。有名な奴なのだろうか。

「まって、超怖いんだけど何こいつ!」

「時間湧きモンスター、メガロドンだよ。四層のヌシ」

「ハル!?冷静だね!?勝てるん?」

「まぁ、アレク居れば余裕だろうけど。私にやらせて?」

「私は無理だからね!隠れてるからね!なんなら目瞑っちゃうからね!」

「モモにも怖いモノがあったとは」

「いやいやいやいやいや!あんなのホラーだよ!B級映画のエネミーだよ!」

「はいはい、隠れてな。もうすぐ来るよ」


モモは岩影で縮こまってしまって動かない。本当に目でも瞑ってしまっているのだろうか。

ハルもかなり強い方だけど、一人で大丈夫なのか心配になるほどメガロドンの見た目は恐ろしく醜悪で、有名になるのも頷ける程に鮮烈な恐怖を見せ付ける。


「ハル?手伝おうか?」

「大丈夫!ちょっとビーストビートの性能を試したいんだ」

「ああ、そういう…、危なそうだったら手をだすからね」

「大丈夫!大丈夫大丈夫大丈夫!あはははははは」

「うわー…、忘れてた。ハル戦闘狂だった…」



メガロドンが目前まで迫る。

そのデカさは悠に10メートルは軽く超えているだろう。

心臓の弱い人には見せられない映像だ。


「エクストラスキル!ビーストビート!」


ハルの全身から硬く鋭い物が生える、あれは鱗だ。

全身が鱗に覆われ装備を巻き込んで変質していく。

頭からはシャープな2本の角。背中からはコウモリの様な翼。

硬質で力強いそのフォルムは正に竜人だった。

ビーストビートは使う人の職業によって変身する姿が異なるようだ。

巨大な戦斧、バルディッシュを振り回す竜人が出来上がる。


「いっくよー!魚の鱗と竜の鱗!どっちが硬いが見せ付けてやる!」

メガロドンの突進に合わせてハルも突撃した。

普段冷静なハルは戦闘になると脳筋ぶりを発揮してしまう。


大きく開いたメガロドンの口にあえて正面から挑むハル。

メガロドンの鼻っ柱にバルディッシュを叩き込むとメガロドンは大きく後退した。


「はははは!有名なモンスターだからね!弱点も有名だよ!」

「いやぁ、それでもあの怖い顔の正面に立てる人はあまりいないと思うなぁ」

「さぁ!もう一回きなさい!」

「…あー、聞こえて無いね。うん、頑張って」


手を出す必要性は無さそうだった。

防御力も攻撃力もハルが優勢だ、メガロドンの攻撃をハルの体がことごとく弾く。

ビーストビート。おそらく攻撃、防御、スピードの単純な上昇スキルだろう。

しかし見て分かる通り上昇幅が半端無い。

グラディエーターで脳筋のハルが使うとここまで強いとは思わなかった。

ハルは一人でメガロドンを倒しきり、ビーストビートが解除された。


「あー、はははは。スッキリしたぁ」

「ハルも十分チートじゃないか」

「いやいや、これ時間制限あるし。倒し切れるか内心焦ったよ?」

「楽しそうにしか見えなかったよ?」

「んふふ、楽しかったからね」


僕とハルの会話を聞いてモモが岩場から顔を出す。

「終わった?ねぇ、終わった?あいつもういない?」

「あ!モモの後ろにあのサメが!」

「うあああああああああああああああああ!!!!」

ハルが慌ててこっちに走ってくる。

もちろんサメはもういない。

「あはははははは!モモのびびりー!」

「んな!くぅぅぅ…、ハルにいっぱい喰わされるなんて…」

「あー、楽しい、楽しいなぁ。…ほんとに、…楽しい」

「…ハル?」

「……五層、行こうか」



急にクールダウンするハルを見て、モモも、僕も、何も言わずに五層へと向かった。

目的を果たせば楽しい旅の終わりは秒読みに入る。

僕たち3人はそれを知っていた。



次はとうとう海底遺跡、五層に入ります。

ビーストビートは昔書いた小説で使ったスキル。

小説家になろうに投稿する前のやつですがお気にいりだったのでつい(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ