このダメ男好きがっ
「イリュージョンエッジ!」
僕の手から放たれたミスティルテインは6本に分身して同時に6体のオークを葬った。
【イリュージョンエッジ】
【スローイングエッジの派生スキル】
【スキルレベルに応じて投げれる武器の分身が増える】
【最大スキルレベル5】【最大本数6】
【AP35】
実はこれアサシンのスキルだ。
僕の今のレベルは60。アサシンになって真っ先に取ったスキルがこれだった。
本来不遇スキルのはずのスローイングエッジの救済スキル。
だが僕にとってはチートスキルだった。
約2万弱の火力を誇るミスティルテインのスローイングエッジが6本同時に撃てるのだ。
僕の弱点だった乱戦も今ではこれだけで終わる。
流石に6体以上に囲まれる事態は少ないし、アサシンになった今では地力も上がっている。
「むぅ…、アレクが全部倒すから私の出番が無い」
そうぼやくのはグラディエーターの女の子、ハル。
「まぁまぁ、そのおかげで私達もスピード出世なんだし?ここは甘えとこうよ」
笑いながらそう言ったプリーストの女の子、モモ。
「あ、ごめんね。ここに来たのは僕の野暮用みたいなものだったから」
僕はアレク。アルファテストオートマタ13号。NPCだ。
冒険者として作られた僕は未だに自分の正体を隠している。
そしてここはオークというモンスターの集落。
以前ここに出たオークキングというボスモンスターは感情システムに異常をきたしていた。
感情システムのフレームアウト現象。
それを後押ししたのがフリッグならここに何か手掛かりがあるかもしれないと考えてもう一度調査に来ていたのだ。
一人で来ようとしたが普段パーティを組んでいる二人に見付かった。
明るいモモと一見クールなハル。
狩りに行くなら連れていけと半ば強引に付いてきた。
「二人とももうオークなんてそれほど美味しくないでしょ。なんで付いて来たの?」
「えぇ?なになに?私達がいたら邪魔なのかぁ?もしかして女ぁ?私達の知らない女にでも会いに来たのかなぁ?」
からかうように言ってくるモモ。この人のノリにももう慣れてきた。
「そうだよ」
フリッグは女性だと聞いている。嘘はついていない。
「…え!?」
これに驚いたのは意外にもハルだった。
「ちょっとアレク?そこ、詳しく」
「えーと、僕もまだ見た事は無いんだけど、女神…的な?」
「女神ぃ!?…そ、そんなに可愛いのか?」
「どうだろう、僕も聞いただけだからなぁ」
「そう…か。そんなに人気のある人なのか」
「人気があるかどうかは分からないけど、多くの人を惑わせてる事は間違いないかな」
「…悪女」
嘘は言っていないし本当の事は言う訳にはいかない。
ぼかしながら言ったが伝わっているだろうか。
「…私もその人が気になる。アレクを悪女から守る」
確かミスティルテインの話では最強の戦士に守られてるのはオーディンの方だから、フリッグが相手ならハルも戦力になるかもしれない。
「心強いよ」
「え?…そう?…?」
「うん、ハルは頼りになるからね」
「なんか、噛み合わないな」
「え?」
「ん?」
「で?けっきょくアレクはここに何しに来たのさ?本当に女捜しなのかぁ?」
モモは暇そうに聞いてくる。
「あ、ああ。正確にはその人の痕跡かな」
「うわぁ…、アレクってニートな上にストーカーなの?」
「違うよ!物言いに容赦が無いなぁ。僕はニートでもストーカーでも無いよ」
モモは慣れた相手にはほんと容赦が無い。
「ええ?じゃあ何?」
「大学生?的なの」
これはミスティルテインに教えてもらった。困ったら大学生だと言っておけと。
「的なの?ふーん。こんなに遊んでて単位とか大丈夫?」
「たぶん」
「あははははは、ダメ男だー!ハルー、アレクはダメ男だよー?」
話を振られたハルはボソボソと独り言を言っている。
「…大学生か。…どこの大学だろう」
「おーい、ハルぅ?ダメ男の世話やいてけっきょく他の女に取られたの忘れたのかぁ?」
「ちょっ!今そんなこと言わないでよ!」
「このダメ男好きがっ。わたしゃハルが心配で心配で」
「よし、決闘だ!モモに決闘を申し込む!」
ハルとモモを囲んで光のサークルが出現した。
半径5メートル程のサークル、当然ぼくも枠の中に居る。
これはプレイヤー対プレイヤーの決闘システムのサークル。
決闘が始まれば他の者はそのサークルには入れず、干渉不可となる。
サークルから出る、体力を失う、降参するのいずれかで敗けとなる。
サークルの中の相手が受理すれば10秒後に決闘開始。
当然モモはその申し出を受理しない。
「だから私はプリーストだっての。PvP最強のグラディエーターに勝てる訳なかろう」
サークルから出れないため遠距離攻撃は不利。
奇襲も出来ないからアサシンも不利。
近距離パワー型で攻撃に優れたグラディエーターはPvP向けだと言える。
正直この決闘システムはバランスが悪く人気が無い。
「そんなこと無いわよ?じゃあ私が変わりに受けるわ」
それは予兆も無く突然現れた。
プラチナブロンドの髪がマーガレットを彷彿とさせる。
とても美しいプリーストの女性がそこに居た。
「決闘を受理するわ」
ハルの出した決闘用サークルに入り、その女性が勝手に決闘を受理する。
僕とモモがサークルの外へと弾かれてしまった。
『フリッグ!』
「え?じゃああの人が!?」
『そうだ、…くそっ。決闘用サークルの中じゃ手が出せない』
突然ミスティルテインが喋り出すがその声が聞こえるのは僕だけ。
周りからしたら僕の独り言。
サークルから弾き出されたモモが僕の所に駆け寄ってくる。
「あの人誰?アレクは知ってる感じだけど、もしかしてあの人がアレクの探してた人?」
「そう、名前はフリッグ」
勝手に決闘に割り込まれたハルは不機嫌だった。
「ちょっと、マナーが悪いんじゃない?」
「あら、ごめんなさいね。プリーストでも強いのよって言いたくてつい」
「…そう、じゃあ後悔させてあげる」
── 決闘開始 ──
今のハルの武器は威力重視の両手持ちの巨大な戦斧。
ダマスカス鋼のバルディッシュ。
ブラックスミスが作れる最高クラスの戦斧だ。
少しズルいが僕がいれば強敵に勝てるから素材は割りと楽に集まる。
「行くよ!」
ハルが強く地面を蹴り一気に距離を詰めた。
勢いを殺さず体を捻り必殺の一撃へと移行する。
「バッシュ!」
バッシュは下位職ウォーリアーのスキルだが隙が無くコストも低い。
その上で十分な火力を誇る単純な強打。
上位職グラディエーターでも主力となる攻撃手段だ。
その一撃は間違いなくフリッグへと命中した。
その一撃は間違いなくフリッグへ大きなダメージを与えた。
しかしフリッグは倒れない。平然と立ち尽くす。
「キュア」
消費APの軽減。
「エンデュア」
ノックバック無効、相手の攻撃に怯まなくなる。
「ヒール」
単純な回復魔法、しかし回復量は異常と言う他無い。
「ブレス」
ステータスの向上、攻撃力と魔法攻撃力が上昇。
「プロテクション」
ステータスの向上、防御力、魔法防御力が上昇。
フリッグは補助スキルを次々と重ね掛けしていく。
「じゃあこっちの番ね」
フリッグはにっこりと微笑んで笑顔のままハルを杖で殴り飛ばす。
その一撃は明らかにハルのバッシュよりも重かった。
「そんな!」
吹っ飛ばされたハルはサークルから出ないぎりぎりの所で踏みとどまった。
場外負けは回避したがダメージは深刻、ハルは距離を保ったまま警戒する。
「グラディエーターが距離開けてて良いのかしら?続けて行くわよ。ホーリージャベリン!」
聖属性の光の投擲槍、それはプリースト唯一の攻撃魔法。
光の槍が絶え間無くハル目掛けて飛び交う。
「息切れ狙ってるなら無駄よ?キュアのスキルレベルはマックスだし、ユニーク装備でAPとMPの自動回復速度凄い事になってるから」
「よく喋ることで…、プリーストが強いというよりあんたが強いだけじゃんか…」
ハルは避けるだけでいっぱいいっぱい、近付く事ができない。
近付けたとしても決定打を入れない限りは回復されるだけだろう。
「あー、もう!最後の手段!」
ハルはダメージ覚悟でスキルの溜め動作に入る。
ホーリージャベリンはそこまで大きなダメージにはならない。
大技一つ撃つまでは耐えてくれるだろう。
「パンツァーラッシュ!」
両手持ちの巨大な武器を前方に構え、全身全霊で突進するグラディエーターの荒業。
鎧も含め自らを弾丸とし、鎧の防御力や重さも攻撃力に加算される。
消費APは100。100はアクションゲージの最大値だ。
放った後はしばらく動けなくなる捨身のスキル。
「サンクチュアリ!」
パンツァーラッシュがグラディエーターの切り札ならプリーストにも切り札は存在する。
それがサンクチュアリだ。
フリッグを覆った光の幕が外敵からの攻撃を一切遮断する。
これは最強クラスのボスの攻撃さえも遮断する絶対防御。
展開中は膨大なMPを消費し続けるがフリッグの無尽蔵なMPは尽きる事が無い。
光の幕にハルの戦斧が激しくぶつかるがその切っ先はフリッグに届かない。
先に息切れしたのはやはりハルだった。
ハルはAPを使いきりしばらくの間は体が動かない。
「はい、チェックメイト」
フリッグがハルを杖で殴るとハルは全ての体力を失った。
はい、さっそく登場のフリッグさんです。
レベル99で全スキルマックス。ユニーク装備で全身武装のプリーストのお姉さん。
破格の攻撃力も杖のおかげです。




