今なら、理解出来るよ
オークマップからオークが消えた。
それは一目で分かる異常事態だった。
冒険者は…居る。さっきより減ってはいるけどまだ居た。
「あの、すみません。オークってどこ行ったんですか?」
「あ、ああ。おまえ見てなかったのか、急に大きな雄叫びが聞こえたかと思ったらオーク達がみんな東の方のマップに走って行ったんだよ」
「東の…ゴブリンマップですか?」
「そうだよ。最近オークの遠征距離が長くなったなぁって思ってたんだけど、これは流石に異常だよなぁ。運営に報告しとくわ」
オークの遠征距離が長くなったのはオークキングの命令に違いない。
オークマップの外を調査させていたのだろう。
そしてもう逃げられないと悟ったオークキングは最後の命令を下した。
その命令でオーク達は迷い無く東へ…。
東に何があるか?…始まりの町、シニオンノビスだ。
僕は東へ走っていた。シニオンノビスに急がないと。
シニオンノビスの前にはマーガレットの花畑がある。
マーガレットが危ない。
とは言ってもオークにやられても冒険者もNPCもリスポーンするだけなのだが。
「帰還用のアイテム買っておけば良かった」
『準備不足だな』
「こんな遠出する予定じゃなかったからな!」
『…すまん』
ゴブリンマップに出るとゴブリンまでいなかった。
否、入口付近に居ないだけだった。
ゴブリンの集落の東出口はゴブリンで密集している。
他の冒険者達がゴブリンを無視してオークを追い掛けたせいで、その冒険者を追い掛けたゴブリンがマップの東出口に集まってしまったのだ。
「うわ、あんなに密集してたら倒すしか無いよ」
『一匹に仕掛けたら全部襲い掛かってくるぞ。スローイングエッジは単体攻撃だし連発することはできない。引き戻す時間とAP回復の時間が必要だ。乱戦向きでは無い』
「分かってるよ」
ボスを一撃で仕留めるミスティルテインも万能とは言い難い。
ステルスを展開しながらなるべくヘイトを稼がず地道に戦うしか無いようだ。
レベルも上がった、武器もある。
ゴブリンには負けないはずだ。
ゴブリンの足は早い、シーフとほぼ同じ速度で移動する。
まずは距離をとってスローイングエッジ。
一匹潰された事で他のゴブリン達が僕に気付く。
僕は逃げながらミスティルテインを引き戻し、もう一度撃ち込む。
スキル発動の時間ロスで追い付かれるがその瞬間にもう一度撃ち込む。
とりあえず三匹仕留めた。後は地力の勝負だ。
人型特効のブラッディグレイスなら有利に戦える。
今なら適性レベルもクリアしている、性能を十分に活かせるはず。
襲ってくるゴブリン達を斬り付け一撃離脱を繰り返す。
そうしないと囲まれてしまうからだ。
シーフは回避メインで耐久力が低く、範囲攻撃も無い。
一度に複数を相手にすると途端に弱くなってしまう。
斬り付け、かわす。それを繰り返す。
繰り返すうちにゴブリン達の動きに変化が生じた。
ゴブリン達の動きが鈍くなっていくのだ。
ブラッディグレイスの能力、持続性のある弱い麻痺毒。
微妙な能力だと思っていたけど実際に発動すると心強い。
動きが鈍れば隙も生まれる。
後は確実に一匹ずつ潰していけば良い。
………
時間はだいぶロスしたが道は開けた。
集落を抜けて林のマップへ出る。
そこではたくさんのオークと冒険者が戦っていた。
よく見るとオークは戦う事よりも東へ走る事を優先しているようだ。
冒険者の間をすり抜けて次々と東へ抜けていく。
冒険者達も頑張ってはいるが流石に一度に大量のオークが襲ってきてはAPもSPも持たない、冒険者達の防衛線は決壊寸前だった。
僕は防衛線へと駆け付け、後衛の男アコライトに話し掛けた。
「大丈夫ですか!?」
「お?おおー、無理だな。もうSP無いわ。デスペナ嫌だしそろそろ離脱する。でも知合いに応援頼んであるからな。他の奴等も手当たり次第応援要請してるぜ。今頃シニオンノビスに集まってるだろうよ。あんたも逃げときな。ほんともうそろそろ決壊するぜ」
確かに、ゴブリンはなんとかなったが僕ではオークの群れはどうしようもない。
そしてとうとう防衛線は決壊し次々とオークが大行進を始めてしまった。
冒険者達はみんな離脱を始める。
僕に出来る事はオークの突進をかわし続ける事だけだった。
それ以外には何も出来なかった。
「マーガレット、大丈夫かな」
『冒険者がシニオンノビスに集まってんだろ?問題ねぇさ』
「…追い掛けよう」
『そうだな、何かやれることもあるかもしれねぇ』
ピーンポーンパーンポーン
突然空から鳴り響くチャイム、運営の放送だ。
「プレイヤーの皆様方、大変ご迷惑をおかけしております。運営からのお知らせです。現在一部のモンスターのAIに不具合が発生しております。緊急メンテナンスを行いますので誠に申し訳ありませんがログアウトをお願いいたします」
放送が何度か流れた後にもう一度チャイムが鳴り放送は終了した。
「不具合って、オークだよね?良かった、なんとかなったね」
『…』
「ミスティルテイン?」
『いや、何でも無い』
突如として世界が暗転する。
真っ暗な闇に閉ざされて意識を失った。
…
……
………
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NEW!
大変永らくお待たせいたしました。
メンテナンスが終了しました事をお伝えします。
異常のあったAIシステムの巻き戻しを行いましたがプレイヤーの皆様方のデータはそのままですので御安心下さい。
引き続きフェイトマイルオンラインをお楽しみ下さい。
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………
……
…
僕はゴブリンが出る林で目を覚ます。
「ん、メンテ終わったのか。シニオンノビスを見に行こう」
『良かった、記憶はあるようだな』
「どういうこと?」
『…』
「まただんまりか」
『すまん、説明し辛い。とにかく行こう』
シニオンノビスの西マップは平和そのものだった。
メンテ明けで冒険者もいない。
僕は直ぐに花畑へと向かった。
しかしそこに居るはずの女の子の姿はどこにも見当たらない。
プラチナブロンドの髪に青い瞳をした女の子。
そう、マーガレットが居ない。
「マーガレットさーん、マーガレットさん?あれ?どこに行ったのかな」
『あの女、完全にフレームアウトしたな』
「どういうこと?」
『…』
「教えてよ!」
『オーディンだ。あの女はフレームアウトが進み過ぎて消すしか無かったようだな』
「そん…な」
『あの女には役割りも無かったし、消した方が早いと踏んだのだろう』
「そんな、勝手な…」
『それがオーディンだ。オークキングのフレームアウトはフリッグだろうな』
「神って、こんな勝手な事が許されるの…?」
『故に殺すのだ』
「今なら、理解出来るよ」
『アレク、おまえもフレームアウトしたか?』
「分からないよ…。でも、僕は死に戻りしてでも駆け付けてあげるべきだったのかもしれない。それが一番悔しくて悲しいよ」
『アレク…』
「…はっ!…僕は!?僕もAIだよ?何かされてるのかな!?」
『いや、変わってないよ。きっとおまえには神の手が届いていない』
「どうして?」
『アレクは神と同質だからだ』
「………え?」
『アルファテストオートマタ1号、オーディン。そして3号がフリッグだ』
「えええええええええ!?」
これでアレク編は一旦終了です。
次はまた違うNPCに移ります。
ちなみにオークキングの目論みですが、今後本編でやるつもりはありません。
とても単純ですが説明し難い憤りからきています。
「憎い」と「羨ましい」ですね。




